NTT東日本 埼玉事業部など6者は、「埼玉県下水道管路マネジメントシステムの共同研究」(以下、下水道管路の共同研究)の公募に応募し選定されたことを受け、3月10日に埼玉県庁で協定の締結式を行った。締結式には埼玉県知事 大野元裕氏も出席した。


埼玉県知事の大野元裕氏は締結式において、事故を踏まえた課題認識と今後の方針について次のように述べた。

「昨年1月28日に発生した八潮市の道路陥没事故は、下水道管路の破損が原因とされています。深い地中に埋設された大規模下水管は流れが極めて速く、水を止めることができないうえ、硫化水素などの影響で長時間の作業が困難です。こうした制約の中で、さまざまな課題が明らかになりました。

これらの課題を解決するためには、AIの活用や新たなセンサー技術の開発、ドローンなどの技術を確立していく必要があります。埼玉県としても、県民の安心のため、新技術の確立に向けて取り組む決意です。皆さまの知見を生かし、将来の安心・安全につなげていきたいと考えています」

○事故が浮き彫りにした下水道管理の課題

下水道管路の共同研究は2025年1月28日、埼玉県八潮市で発生した下水道管路の破損に起因する道路陥没事故を受けて実施されるものだ。

埼玉県が設置した原因究明委員会の最終報告では、「従来手法による点検・調査の難しさ」、「点検・調査の品質確保」、「下水道管路の維持管理を担う関係者間の情報共有や体制強化」などが重要な論点として整理されている。

一方、下水道管路の維持管理の工程は、危険作業や人手依存の状態が続いており、各工程で得られる情報の品質が低下し、情報がつながりづらいという課題もある。

現場を担う点検・調査事業者からは、「下水道管路内部に立ち入ることなく、より安全に点検・調査を実施したい」、「点検・調査結果を、その後の解析、補修計画の立案、情報管理まで一貫して活用できる仕組みが必要」といった要望が寄せられている。
○点検から補修までつなぐ「工程一体化DX」とは

こうした状況を踏まえ、埼玉県は点検・調査から補修、情報管理までを一連の流れとしてつなぐ「工程一体化」の仕組みづくりを目的とした共同研究を公募した。それに対し、NTT東日本 埼玉事業部を中心とする6者の企業体が応募し、採用された。


NTT東日本 まちづくり推進担当 担当課長の岡本理氏は、公募に応募した理由を次のように説明する。

「弊社は複数の会社を束ねながら、通信インフラを効率よく運用してきた実績があります。われわれの強みは、それぞれの業務・工程が非常に多岐にわたる中で、トータルマネジメントをして効率よく、かつ高い品質で運用してきたノウハウにあると思っています。こうしたノウハウを、下水道分野においても展開できると思っています」

○共同研究の全体像と狙い

共同研究は、2026~2027年度の約2年間、実証フィールドにおいて点検・調査・解析・補修・情報管理(連携)の一連プロセスを検証し、工程一体化の有効性(迅速性・確実性・省人化等)を確認する。

検証結果を踏まえ、実用化に向けた運用手順や情報仕様の改善、標準化を進める。

さらに、現場適用の幅と精度を高めるため、必要に応じて連携企業・関係機関との協働を拡大し、課題認識の共有や意見交換を行いながら、本研究成果の実用性を検証していく。

○“分断されたデータ”が最大のボトルネックだった

今回の共同研究では、下水道管路の維持管理を担う関係者間の情報共有が大きなテーマだ。

下水道の維持管理では、点検・調査によって管路の健全度を把握し、その結果に応じて優先度を付けて補修を行う。

埼玉県 埼玉県下水道局下水道事業課副課長 関根和則氏はこの流れについて、「点検・調査で健全度を把握し、優先度を付けて補修する」と説明する。

一方で、大規模な下水道管路は下水の流れを止められず、大量の水が高速で流れているため、準備に時間がかかる。「下水の流れを止められないため、準備に非常に時間がかかる」という。

このため、点検・調査から補修完了までの期間が長期化する傾向にある。
関根氏は「点検から補修完了までの期間が非常に長いことが課題」と指摘する。

また、補修には多くの関係者が関わることから、情報が分断されやすい。「関係者が多く、情報が分断されてしまう」とし、本来伝えるべき内容が十分に共有されない可能性があると説明する。

さらに、期間の長期化に伴い体制が入れ替わることで、「情報の質が劣化していく点も課題」と述べている。
○データ管理を担うNTTインフラネット

NTTインフラネットは、これまでNTTグループの通信基盤設備の構築や保守・運用を行ってきた。そのノウハウを生かし、2024年度から下水道向けの維持管理システム「下水道スマートメンテナンスツール」を提供している。今回の共同研究では、そのシステムを活用して、ドローン等を撮影した画像や点検結果を等管理していく役割になる。

NTTインフラネット スマートインフラ推進本部 スマートビジネス部 スマートビジネス営業担当 担当課長 若林宏氏は、研究課題のポイントについて次のように語る。

「ドローンで撮影したデータの管理は、大きな課題だと思っています。動画をそのまま置いておいても、後で全部見返すのは大変で、画像で必要な部分を切り出して管理していくのが好ましいと考えています。ただ、画像の切り出しも管理上適切な単位で切り出していかないと使い物にならないので、その工程をどのように効率化・省力化していくかを、AI等を活用しながら自動切り出しという仕組みを作っていくところが、今回の研究課題となっています」
○“見える化”を担う国際航業のGIS技術

国際航業は、航空測量を基盤に地図作成を手がけてきた企業であり、下水道台帳など管路情報の整備にも携わっている。

各種三次元データの処理や地図活用に関する知見を持ち、自治体向けにGISシステムの導入実績も豊富だ。


共同研究では、ドローンで取得した点群データやAI解析による劣化情報、台帳データを統合し、3次元で可視化する役割を担う。

国際航業 事業統括本部 地理空間基盤技術部 3D都市モデルプロジェクト推進G 主任技師 水島卓磨氏は今回の共同研究における同社の意義について、次のように述べた。

「共同研究では、NTT e-Drone Technology様がドローンで取得した点群データやAI解析による劣化情報、NTTインフラネット様が管理する台帳データを、弊社のGISなどの技術で統合したいと考えています。単にデータを並べるのではなく、管路を3次元モデル化し、補修履歴などの属性情報と重ね合わせることで、異常箇所や道路陥没のリスクを直感的に把握できるインタフェースを構築したいと考えています。」
○ドローン×AIで“人が入れない管路”を点検

点検・調査技術開発では、NTT e-Drone Technologyのドローン(ELIOS 3)やAI解析ツール「eドローンAI」を活用した、安全かつ効率的な下水道管路内の点検・調査手法を検討する。

NTT e-Drone Technology サービス推進部 ソリューション部門長 二等無線航空機操縦士 防災士 木村 祥之氏はドローン活用のポイントを次のように語る。

「下水道をドローンで点検するため、どのような機体が適しているかを検討し、環境に資するドローンの選定・展開を進めてきました。ドローンの活用を広めるには、機体だけでなく他のプロセスも横断的に進め、1つのソリューションとして確立する必要があると考えています。点検だけでなく、その先の解析・診断ではAIも開発し活用しています。今回の座組を通じて、このAIをバージョンアップし、より実用的なものにしていきます。さらに、神奈川県や埼玉県、静岡県での実績も踏まえ、その有用性を広く発信していきたいと考えています」

○補修の省人化・無人化へ、施工技術も進化

補修技術の開発では、染めQテクノロジィの補修材料や工法、日特建設の吹き付け技術などを用いた短時間施工技術の高度化を進める。

省人化・無人化を見据えた補修方法の確立が狙いだ。
○材料技術で延命を図る(染めQテクノロジィ)

土木学会の委員からは、同社の塗料などの材料を付着させることで、橋梁の橋脚のような過酷な環境下でも構造物の長寿命化が可能との評価を得ている。


染めQテクノロジィ 執行役員 中川公夫氏は「約50年の延命が可能との評価をいただいている」と説明する。

この技術を下水管に適用すれば、従来は10年~20年で改修が必要とされていた設備についても、改修周期の大幅な延長が見込まれる。

「30年、50年と改修せずに済む可能性がある」として、維持管理の効率化への貢献に期待を示した。

加えて、下水管内はガスの発生などにより危険で、人の立ち入りが難しい環境にある。このため、省人化・無人化のニーズが高い分野でもある。

中川氏は「省人化・無人化に向けた取り組みを今回の研究で確立したい。他システムとの連携によるDX化を進めることで、全国展開もスムーズに進む」と語る。
○施工技術で“人が入れない現場”に対応(日特建設)

一方の日特建設は、特殊土木という領域で、材料をより遠くに圧送できるキロ・フケール工法という技術を有している。その技術を用いて、過去には導水路の補修で管内にホースだけを設置して、断面が欠損している場所や、コンクリートで被覆されていないところをモルタルで補強するといった技術を施工実績として有している。

日特建設 技術開発本部 技術センター 材料・環境技術開発部 課長の竹谷裕氏は、下水道の施工条件が限定される点に着目し、同社が持つ材料の長距離圧送技術の応用可能性に言及した。

「管路内は施工条件が限られるため、材料を遠くへ圧送する技術が活用できる」(竹谷氏)

さらに、同氏は人が立ち入れない場所や水位を下げられない環境での補修ニーズにも対応する必要があると指摘した。「人が入れない場所などでは、機械を使った補修技術が必要になる」と同氏は述べ、今回の共同研究を通じて施工技術の確立を目指す考えを示した。


○「見えない下水道」をどう可視化するか

共同研究では、県民への情報の見える化もテーマとなっている。

点検情報や3D点群、補修履歴などのデータを統合し、GISや3D技術を活用した可視化手法を検討する。

関根氏は、事故後に不安の声が多く寄せられていることに触れ、維持管理状況の見える化の重要性を強調した。
○「工程一体化DXモデル」は全国展開も視野

「工程一体化DXモデル」では、ステップ1で、共同研究実証により点検・調査・補修・情報管理の工程一体化DXモデルを確立し、ステップ2では、研究成果を基に埼玉県内に展開して、運用まで含めて標準化することを目指す。

そしてステップ3で、官民連携型の新たな維持管理手法として、全国に先駆けて推進し、他の自治体への横展開を考えているという。

そのためNTT東日本では、今回の6者以外にも、他の技術を持っている企業の参加を募り、事業領域拡大を図る。

関根氏は、「埼玉県は全国でも最大規模の下水道を管理している自治体です。われわれの今回の取り組みが成功すると、他の自治体への応用が非常に速やかに展開可能になる成功事例として浸透しやすくなると思います」と、研究成果に期待を寄せた。
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