世界60カ国・地域で展開する世界最大の音楽会社、ユニバーサル ミュージック グループ。その日本法人であるユニバーサル ミュージックを率いるのが、社長兼CEOの藤倉尚氏だ。
今回は、藤倉氏にキャリアの原点、経営の軸、変化する音楽ビジネスへの向き合い方、そして今後の展望について話を聞いた。
○好きなことに人生の時間を使いたかった
――まずは、これまでのご経歴から教えてください。
最初に入ったのは、ワインなどのお酒を扱うメルシャン株式会社でした。学生時代に飲食店でアルバイトをしていて、ワインを通じて人が楽しそうにしている姿を見るのが好きだったんです。人を笑顔にできる仕事がしたい、というのが出発点でした。
ただ、働く中で、自分が本当に惹かれているのは音楽だと気づきました。音楽会社の人たちと接する機会があったとき、彼らが働く姿を見て、「この世界で働きたい」と心が動いたんです。好きなことを仕事にするとつらい、と言う人もいますが、自分の人生の時間を使うなら好きなものに向き合いたかった。そうして、ユニバーサル ミュージックの前身であるポリドール株式会社に入りました。
入社後は営業、販促、制作、プランニングと一通りの現場を経験しました。振り返ると、どのポジションにいても考えていたのは「アーティストの魅力を、どうすればもっと多くの人に届けられるか」ということ。
○ライブに年間100本以上――経営の土台は現場にある
――社長になっても現場感覚を大事にされていますか。
今でも週に2回ほどライブに足を運んでいて、年間で100本以上、多い年では150本以上に上ります。
ライブ会場では、いつも三つの要素を見ています。一つはもちろんアーティスト。ステージやバックステージの空気感にも自然と触れることができます。二つ目は社員。会場でグッズを売ったり、アーティストのそばでサポートしたりしている姿からは、メールや会議の場での報告ではわからないものが伝わってきます。三つ目はお客さん。特に勢いのあるアーティストのライブでは、お客さんの熱狂も肌で感じられます。現場には、資料では伝わらない情報が詰まっています。
○先々代社長からのある一言が転機に
――現在の経営スタイルに影響を与えた出来事はありますか。
先々代の社長で、ビートルズを日本に広めた石坂敬一さんに「君は仕事の評判もいいし頑張っている。でも教養がないね、薄いね」と言われたことです。
そこから、朝時間をつくって本を読むようになりました。すごく尊敬していた方でしたから、「教養をつけたい」というよりも「この人の期待に応えたい」という気持ちが強かったんです。本棚に1,000冊、1,500冊と並ぶと自信にもなりましたし、知らない世界をもっと知りたいという気持ちが膨らんでいきました。歴史を知れば先人たちの成功も苦悩もわかるし、文学に触れれば、アーティストがどんな気持ちで作品を書いているか考える手がかりになります。
アーティストは豊かな教養や感性を備えた人たちです。彼らと向き合うためにも、あの経験は非常に大きかったと思います。社員にも、教養や知性を身につけることは自分自身の魅力につながる、と伝えたいですね。
○合併直後の壁を乗り越え、会社を一つに
――2014年の社長就任後、最初に優先した取り組みは何でしたか。
会社を一つにすることです。就任の前年にEMIミュージック・ジャパンと合併したばかりで、それぞれの文化の違いからぶつかり合いもありました。そこで、まず社員約500人の顔写真を社長室に貼り出して名前を覚えると同時に、「人を愛し、音楽を愛し、感動を届ける」という言葉を掲げ、皆に共有しました。制度や戦略の前に、同じ方向を向ける組織にすることが先だと思ったからです。
会社が一つになるきっかけになったのが、2015年に発売したDREAMS COME TRUEのベストアルバム『DREAMS COME TRUE THE BEST! 私のドリカム』です。両社にゆかりの深いアーティストの作品に全社で向き合い、ミリオンセラーを達成できました。成功体験を一緒に作れたことで、お互いを仲間として認め合えるようになったと思います。
もう一つの課題は海外本社との関係でした。理由をつけてはロサンゼルスに飛び、本社のメンバーとも直接会って自分の考えを伝え、なるべく多くの時間を共有しました。本当の信頼が生まれたのは業績が伴ってきたときですが、その前段として、すぐ連絡を取り合える関係を地道に築いていたことが大きかったと思います。
○330人の正社員化 ― 「人への投資」が良い循環へ
――特に手応えを感じた施策を教えてください。
2018年に断行した契約社員約330人の正社員化です。
正社員化について米国本社に掛け合うと、「リスクだ」という反応でした。自分では正しいと信じているのに、なかなか理解されない。あの時期はかなり苦しかったですが、覚悟を伝え続け、時間をかけて説得しました。
正社員化を機に、社員がアーティストと継続的に関われるようになり、「この人と仕事がしたい」と指名される社員も増えてきました。いい人材が集まると、アーティストにも選ばれやすくなる。ヒットが生まれるとお客さんが喜ぶ。売上が伸びて、社員にもアーティストにも還元できる。良い循環が生まれ始めたんです。
ただし、正社員化したからといって、自動的に良くなったわけではありません。この制度を持続させるためには会社を成長させていく必要があるーーそうした権利と義務の話も社員にしっかり伝えました。それが現場に浸透して、一人ひとりが自分で考えて行動するようになった。そこが本質だったと思います。
○コロナ禍で貫いた「音楽を届けることを止めない」
――コロナ禍はどう乗り越えられましたか。
正社員化の直後にコロナ禍が来て、本当に苦しかったですね。ライブは中止、レコーディングスタジオにも入れない。音楽を作ることも表現することも難しくなりました。
そのとき社員に伝えたのは、「音楽を届けることを止めない」ということでした。CDの出荷は続け、作品づくりを続けようと呼びかけました。実際、コロナ禍の中でも当社の作品数はむしろ増えていたんです。新しい才能の発掘も、ライブハウスに加えてYouTubeやSNSに広がりつつあり、そこから藤井 風やAdoの楽曲も広く知られるようになりました。
○海外展開への手応え、アーティストとの関係も変化
――音楽ビジネスの変化をどう捉え、今後の戦略をどう描いていますか。
今の音楽業界を読み解くキーワードは、ファンダム、AI、海外展開の三つです。中でも最も可能性を感じているのが海外展開ですね。
以前は、国内のチャートで1位になってから「いよいよ海外へ」という流れでした。でも今は、アーティスト自身が最初から、日本だけでなく韓国でもアメリカでもイギリスでも聴いてもらいたいと本気で思っている。スマートフォンがある環境で育ってきた10代、20代のアーティストにとっては、それがもう当たり前の感覚になっています。
IFPI(国際レコード産業連盟)の最新アーティストランキングでは、Mrs. GREEN APPLEが世界13位に入りました。テイラー・スウィフトやドレイクが並ぶ中でのランクインです。これがもし市場の大きなアメリカやイギリスでも本格的に聴かれるようになったら、大きな広がりになるだろうなと。日本のアーティストにとっても、大きなチャンスがある時代だと思います。
CDやグッズといったフィジカル商品の価値も、依然として大きいと感じています。ファンダムの文化がある日本では、手に取れるものを持ちたいという欲求があるからです。サブスクのようなデジタル体験が進化するほど、逆にライブやレコードのようなアナログ体験が見直されるように、人間は手触り感のあるものに回帰していくと感じています。デジタルとフィジカル、この両軸は今後も変わらないと思います。
アーティストとの関係も大きく変わりました。かつてはレコード会社として録音したものを届ける会社でしたが、今は音楽会社として、音楽やアーティストの価値を最大化するのが役割です。音源制作に加え、デジタル配信、海外展開、コンサート運営、マーチャンダイジング、ファンコミュニティまで、アーティストごとに関わり方が違います。Mrs. GREEN APPLEのように、レーベル契約だけでなくマネジメント契約を結ぶケースもあります。アーティストの魅力をどれだけ広げられるかを総合的に考える時代になっているんです。
○「選ばれる会社」になり、日本から世界の頂点を目指す
――最後に、今後の展望をお聞かせください。
音楽を中心にしていくことは変わりませんが、その枠組みはさらに広がっていくはずです。「そんなこともやっているんだ」と思ってもらえるような取り組みが、これからも出てくると思います。
一方で原点に返れば、音楽会社は結局「人」です。社員も人、アーティストも人、お客さんも人。社長就任以来、会社に伝えるメッセージはその時々で変えてきました。最初は「風通しの良い会社」、次に「強い会社」、そして今は「選ばれる会社」です。アーティストの価値を最大化できる力をつけ、アーティストからもお客さんからも社員からも選ばれる会社にしていきたいと思います。
あらゆる人材が活躍できる環境も追求したいですね。若い社員にも積極的にチャンスを与えたいですし、年齢を重ねてもなお意欲と才能のある人にももっと活躍できる場を広げていきたいと考えています。
そして、社長就任からずっと追いかけてきた夢があります。日本から世界で活躍するアーティストを生みだすことです。以前はどこか現実的ではないような難しいことと感じていましたが、今は状況がまったく違います。去年、Adoが世界33都市をまわり50万人を動員したツアーを成功させるなど、日本のアーティストが世界で聴かれるチャンスは確実に広がっています。とても面白い時代に入っていると思います。











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