「これならいける!」“1種+2種混合機の蓄積”で確信へ
「お風呂に入って、ぼーっとしている時に『これならいける!』とひらめくことが多いです」一日の終わりに、仕事で疲れ切った体を労わる癒しのひと時。静かな空間の中でひらめいたアイデアが、やがてホールを熱狂へと変える――。
SANKYO商品企画部次長の岩本貴裕氏にとって、それは決して“偶然”ではない。
○運命を変えた“函館の夜”
「パチンコとの出合いは、大学時代、友人に誘われたのがきっかけです。関西の大学だったのですが、大学の実習で函館に行くことがあって。夜7時くらいになると、お店が閉まっていて遊ぶところがなかったんです」
いつもと変わらない函館の街。観光地を訪れた学生たちは、非日常に高揚感を覚えながらも、時間を持て余していた。そんな中、友人の一言が岩本氏の運命を変える。
「パチンコ好きの友人から『行こうぜ』と誘われて、初めてパチンコを打ちました。その時に打ったのが、SANKYOの『CRフィーバー大ヤマト2』。そこから一気にハマっていきました」
勝ち負けを超越した体験がそこにはあった。“函館の夜”が明けても興奮は続き、日常へと戻った彼を突き動かした。
「当時は大学に通いながら、塾講師とパチンコ店のアルバイトを掛け持ちしていました。
やがてそれは“好きなもの”となり、生活の中心にも入り込んでいく。仕事を選ぶ上でも、大切な軸となった。
「自分は理系だったので、就職活動では、ものづくりの仕事をしたいと思っていましたし、せっかくだから好きなパチンコを作る側になりたくてSANKYOを受けました」
○17年のキャリアと変わらない距離感
新卒で入社してから、気づけば17年。業界の変化を内側から見続けてきた。その一方で、岩本氏の身近な環境、特に家族の反応は、決して大げさなものではなく、拍子抜けするほど淡々としていた。
「新卒でSANKYOに入社して17年になります。自分の家族は誰もパチンコをやらないので、当時は『就職先、決まったよ』『どこ?』『SANKYOっていうパチンコメーカー』『ふーん』と、そんな感じで終わりました(笑)」
華やかな業界イメージとは裏腹に、極めて静かな反応。だが、その距離感が、かえって彼を冷静に保ってきた。
「最初に担当した機械が出ても『ふーん』、今こういうCMをやっていると伝えても、『見たよ』くらいでしたね(笑)」
周囲からの余計な期待もなければ、過剰なプレッシャーもない。その環境の中で、彼はただ“面白いものを作る”ことに集中し続けてきた。
○開発現場で躍動する“複雑な交差点”
現在の業務は、ひとことで言い表せるものではない。企画、演出、音、外部パートナーとの調整――あらゆる要素が交差する。
「企画部門のNo.2という立場で、私はパチンコを担当しています。加えて、現場を回すゲームディレクター的な役割もやっています。演出企画を考えたり、協力会社さんに作ってもらった演出のチェックをしたり、音の発注や良し悪しの判断をしたりと、かなり幅広く関わっています」
業務は横断的だが、それは孤独な作業ではない。
「もちろん一人で全部やっているわけではなく、企画の中でも2~3人の小さいチームで分担しながら進めています」
それらを結集させるためには、日々の下準備が必須だ。
「朝出社したら、まずは自分が直接ディレクターとして見ている機種について、協力会社さんとのやり取りを優先します。協力会社さんが出社される時間帯に、『今日この作業をお願いします』と依頼をかけておく。自分が直接担当する業務は朝一である程度終わらせて、その後に部全体の仕事を進めることが多いですね」
○試打工程によって変わる評価軸
業務の中で岩本氏が最も神経を使うのが“試打”だ。試打という工程にも、段階によって明確な違いがある。
「まずアルファ版、いわばプロトタイプ段階では、その機械のコンセプトがしっかり伝わる作りになっているかを見ます。映像はまだラフ状態で、絵コンテレベルだったりもするので、絵がきれいかどうかは判断できません」
重要なのは、何を面白さとして提示しているか。その核が伝わらなければ、どれだけ作り込んでも意味がない。次の段階では、評価軸が変わる。
「評価試打の段階になると、それが遊技者の心に刺さる映像になっているか、演出の振り分けやバランスが取れているかどうかを見ます」
そして最終段階では、バグがないかの徹底したチェックが行われる。試打のなかでは、もっとも緊張感を伴う工程だ。
「最終版になると、全体的なバグがないかを確認するのが中心です。バグ自体は開発の過程ではどうしても日々見つかってしまうものなので、小さいものを日々直していく形ですね。ただ、本当に最終版で見つかると、『原因を探せ!』『似た条件でも起こらないか総当たりでチェックしよう!』となって、急いで関係各所にも連絡して、一気に緊張感が高まります」
そこまで頻繁に発生することはないが、このような不測の事態にも、柔軟に対応する体制が整っている。
○積み重ねた先にある“ひらめき”
そして、冒頭の言葉に戻る。
「お風呂に入って、ぼーっとしている時に『これならいける!』とひらめくことが多いです」
それは決して偶然ではない。日々の業務、過去の経験、市場やユーザーの理解――それらが無意識の中で繋がった瞬間でもある。
「ひらめいたらメモだけしておいて、翌日、会社で実現可能かを急いで確認します」
丁寧に繰り返してきたルーティン。そこから生み出されるのは、“必然の産物”であることが彼の言葉からも伝わる。
『シンフォギア』をひらめいた瞬間については、「かなり前のことなので、そこは覚えていないのですが(笑)」と正直に話すが、間違いなく分かっていることがある。
「今となっては当たり前となった1種+2種混合機が当時は少数派で、自分はそれ以前にも『CRフィーバー涼宮ハルヒの憂鬱』『CRフィーバーマクロスフロンティア2』など1種+2種混合機の機械を担当していて、そのアイデアが自分の中にかなり蓄積していたんです。
ユーザーに向き合い続けた執念「初当たりにすべてのチャンスを与えたい」
○65%規制という“壁”に立ち向かう開発者にとって、規制は前提条件であり、逃れられない現実だ。だからこそ問われるのは、その制約の中で「何を成立させるか」という思考そのものだ。
「当時のパチンコは、ちょうど“65%規制”の時代でした。大当りの継続率が65%までに制限されていて、その前は80%継続のような連チャン機が多かった時代。一回の大当りの出玉は安定するようになったのですが、継続率が落ちたことで、連チャンしづらくなったことに不満が抱く方もいました」
ユーザーの体感は、数字以上に敏感だ。スペック上の違いよりも、「続かない」という感覚は、遊技の印象を変えることもある。
「その時に、1種+2種混合機のシステムを応用して、65%規制下でも80%継続のスペックを実現したのが、初代『シンフォギア』でした」
だが、ここで重要なのは単なるスペックの再現ではない。彼が本当に向き合っていたのは、“体験”だった。
○「当たったのに何もできない」への違和感
ユーザーを満足させるために、彼が強く意識したのは、当たった“後”の感情だった。
「当時の機械は、『当たった瞬間に、内部的にはもうラッシュに入るかどうかが決まっている』ものが多かったのですが、自分としては“初当たりにすべてのチャンスを与えたい”という気持ちがありました」
当たったはずなのに、すでに結果が決まっている。その構造に、どこか引っかかりがあった。
「当たった後に自分でラッシュをつかみ取るシステムが、このスペックであれば入れられることを思いついたんです」
ここで生まれたのが、“自分で引き寄せる”という感覚だった。
「まだそういう機械が少なく、お客さんの“かゆいところに手が届いた”ので、支持を得られたのだと思います」
“かゆいところに手が届く”――ユーザーに向き合い続けてきた岩本氏らしい、ヒットの本質を端的に表した言葉だ。
○アイデアは“同時に”生まれている
「システムとしては自分で思いつきました。ただ、1~2カ月遅れで他メーカーさんからも似た思想の機械は出てきたので、開発者はみんな似たようなことを同じ時期に考えているのだと思います」
発想そのものが、唯一無二で特別なわけではない。それをどのように構築し、最適な状態でいかに早く市場に出せるのかが鍵となる。
「大事なのは、そのアイデアをどれだけ早く市場へ届けられるかです。後から出すと『二番煎じ』と見られてしまうので、そこは常に意識しています」
この業界では、ほんの数カ月の差が、評価を大きく左右する。同じ思想でも、順番が違えばまったく別のものとして扱われる。
だからこそSANKYOでは、若手からの提案も含めてアイデアをすくい上げ、部署間で連携しながら、新しい発想を素早く商品として世に出していく仕組みづくりに力を入れている。
○“一撃の爽快感”をどう再現するか
シリーズが進む中で、彼が象徴的な進化として挙げるのが『Pフィーバー戦姫絶唱シンフォギア2』だ。
「これまで4作を出していますが、特に2作目で一番進化したのは専用枠です」
単にスペックを上げるのではなく、目指したのは、体験の拡張だった。
「クライマックスで拳を叩き込むようなアクションが印象的な作品なので、その一撃を決める感覚をデバイスでも味わってもらえるようにしました。押した時に強く震える仕組みで、追体験できるような設計です」
しかし、最初から受け入れられたわけではない。
「最初は、『震えすぎじゃないか』『振動が強すぎる』というマイナス意見も結構ありました」
だが、時間の経過とともに評価は変わる。それは、長く愛されたことの表れでもある。
「時間が経つと『あの震えが懐かしい』と言っていただけることもあって、結果的には気に入ってもらえたのかなと思っています」
○開発は“部活”のように動く
SANKYOの社是は「創意工夫」。アイデアを創出するために考え抜き、実現に向けて邁進する空気が組織全体に浸透している。
「高校の部活とか文化祭みたいなノリはあると思いますね。『よし、やろうぜ』となったら、『じゃあ、自分はこれやる』と一気に動く感じです。そういうスピード感は、SANKYOの強みの一つだと思います」
そのような環境の中でも、『シンフォギア』の開発は、特にスピード感が求められたプロジェクトだった。
「『シンフォギア』は、いち早くアイデアを形にして世に出そうというプロジェクトでした。従来の開発スキーム以上にスピードを意識した進め方だったので、仕事としては相当チャレンジングでしたね」
限られた時間の中で、精度を高めていく。そのプレッシャーは想像以上に大きいはずだが、一人ひとりの熱量を原動力に、岩本氏は走り続けた。
「『とにかく進むんだ!』という感じで、チーム一丸となって進めました。自分一人では到底やりきれなかった部分も、周りのメンバーに支えてもらいながら、お互いに補い合って何とか形にしていったプロジェクトだったと思います」
当時はまだ20代。不安を打ち消すように精魂を傾けたあの日々は、彼にとって働く原点となっている。
○ヒットの条件は、驚くほどシンプル
数々の経験を経て、たどり着いた“ヒットの条件”とは。その答えは明快だった。
「市場のお客さんが、『こうなったらいいのに』と思っていることに対して、新しい価値観を出せるかどうかが大事だと思います」
完成した瞬間がゴールではない。むしろそこからが本番だ。
「仕事帰りにホールへ寄って、自分が関わった台にお客さんがどれくらい座ってくれているかを必ず見ます。楽しみ半分、不安半分ですね。もちろん導入初週の反応も気になりますが、本当に大事なのは2週目以降。そこで席が埋まっていなければ、その台の評価が“成績表”としてはっきり突きつけられた、という感覚になります」
言い訳はできない。でも、たとえそのときには低評価でも、立ち止まらなければ、次の高評価を生むきっかけにもなる。
○“面白い”を語れる人間であるか
ともに働く同志として、どのような人材を求めているのか。
「ものづくりのメーカーなので、まず『自分はこういうものを作りたいんだ』という気持ちがあることが大事だと思います。それを周りに伝えて、『それ面白いね』と共感を広げられる人。そういう思いがある人は、プロジェクトをしっかり動かしていけると思います」
若手からの刺激もまた、“ひらめき”の源泉となる。同じ志を持つ者を目の前にすると、17年前の当時の自分がよみがえる。
「『僕はこれがやりたいんです』『こういうことを作りたいんです』と目をキラキラさせて話す子が多くて4月に新卒と話すたびに、自分たちも初心を忘れちゃいけないなと身が引き締まります」
○“遠回り”の先にあるもの
“ひらめき”は、突然やってくる。だが、それを形にできるかどうかもまた、日々の積み重ねにかかっている。
様々な規制や市場の現実。そして、“面白い”を追求する覚悟。それらが交差したとき、『シンフォギア』は単なる新台から、“時代を動かす一台”へと変わった。
「常に反省して、『次はもっと良くしよう』と積み重ねていけるのが、この仕事の大きなやりがいだと思います」
遠回りに見える過程こそが、すべてを貫く一撃を生む。そう信じて、彼は今日も“ひらめき”の準備を続けている。
「CRフィーバー戦姫絶唱シンフォギア」(C)Project シンフォギア (C)Project シンフォギアG
「CRフィーバー大ヤマト2」(C)2002 松本零士/ユウガ<「大銀河シリーズ」より>
「CRフィーバー涼宮ハルヒの憂鬱」(C)2006 谷川 流・いとうのいぢ/SOS団
「CRフィーバーマクロスフロンティア2」(C)2009, 2011 ビックウエスト/劇場版マクロスF製作委員会
「Pフィーバー戦姫絶唱シンフォギア2」(C)Project シンフォギアG (C)Project シンフォギアGX
「パチスロ からくりサーカス」原作/藤田和日郎「からくりサーカス」(小学館少年サンデーコミックス刊)/(C)藤田和日郎・小学館/ツインエンジン Licensed by Sony Music Labels Inc.











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