今大会での「W杯制覇」を目標に掲げる日本のイレブン。国際的な評価も高い精鋭を揃えるサムライブルーは悲願を達成できるか(C)Getty Images

世界は「三笘無き日本」をどう見ているのか?

 現地時間6月11日に開幕を迎える北中米ワールドカップ(W杯)。史上初となる3か国(アメリカ、メキシコ、カナダ)共催の今大会で躍進を期待されるのが、森保一監督が率いる日本代表だ。

【動画】鮮烈カウンターでイングランドから先制!三笘薫がウェンブリーを沸かせた会心のゴールの映像

 現代表は、欧州トップリーグで実績を積み重ねた選手が数多く名を連ね、「史上最強」との呼び声さえ高まっている。いまだ乗り越えた経験のないベスト8の壁も打ち破ると注目されている。

 しかし、大会へ向けた機運が高まる中で小さくないアクシデントも生じている。サムライブルー(日本代表の愛称)においてエース格と目された三笘薫(ブライトン)が、先月7日のウォルバーハンプトン戦で左ハムストリングを負傷。クラブは「カオル・ミトマは太もも裏の手術を受け、無事に成功した」と報告したが、メスを入れた影響でよもやの選外となったのだ。

 三笘の負傷、そして代表メンバーからの落選は、日本のサッカーファンに大きな喪失感をもたらした。前回のカタール大会で「三笘の1ミリ」で強烈な印象を刻み、その後の4年間はプレミアリーグを舞台に躍動を続け、日本サッカー界を背負う看板選手へと成長。今年3月に“聖地”ウェンブリースタジアムで行われたイングランド代表戦でも決勝弾を決めるなど、脂の乗った29歳はW杯での躍進を期待されていた。

 世界最高峰のリーグで経験値を積み上げてきた三笘は、ドリブルで相手を圧倒する場面こそ減ったものの、パスと突破を巧みに使い分け、フィニッシュにも深く関与する稀有なタレントへと進化。代表でも、クラブチームでも、局面を的確に把握し、カウンターでは崩しの起点となり、あるいはゴール前へ顔を出して得点に結びつける存在となっていた。

 世界的にも名の知れた存在として君臨したエースを失った日本を世界はどう見ているのだろうか。そのテーマを掘り下げるにあたり、英紙『Daily Mail』のベテランであるマット・バーロウ記者に話を訊いた。

 イングランドの新聞記者には、ゴシップ狙いの“プロレス”的な視点でサッカーを語る向きも少なくないが、バーロウ記者は試合を丹念に見つめる観察眼を備えた、信頼に足るフットボールライターである。

 そんな彼が開口一番に言ったのは、「やはりミトマが大会に出場できないのは非常に残念だな」という言葉だった。

「過去数シーズン、ブライトンで活躍しリーグを代表する選手に成長してきて、サムライブルーにとっても重要なピース。彼をワールドカップで見るのを楽しみにしていたんだけどなあ」

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鮮やかなカウンターからの三笘の決勝弾で制したイングランド戦。この勝利で森保ジャパンに対する国際的な評価はグッと高まった(C)Getty Images

機能性を欠いたイングランドとは対照的だったウェンブリー決戦

 もっとも、三笘の離脱が大きな痛手となり得る一方で、当然ながら代役となる選手にとっては、スターダムをのし上がる好機でもある。それだけに、バーロウ記者は「今の日本代表には、一人のスターが欠けてもそれを補完できる優秀な人材が揃っている」と続けた。

「イングランド国内でプレーしている選手だけを見ても、ダイチ・カマダ(クリスタルパレス)や、アオ・タナカ(リーズ)のような素晴らしい選手もいるし、チャンピオンシップ(英2部)から昇格を決めたコベントリーやハル・シティで活躍したサカモト(坂元達裕)とヒラカワ(平河悠)が代表に選ばれていなかったことからも分かるとおり、層がとても厚くなっている」

 その言葉どおり、幸いにも三笘無きウイングポジションには、中村敬斗(スタッド・ランス)や伊東純也(ヘンク)、堂安律(フランクフルト)、久保建英(レアル・ソシエダ)が控える。必要であれば、シャドーポジションにボランチの鎌田が出ることも可能だ。

 総合的に見ても、森保一監督率いる日本代表は、攻守の均衡に優れ、大きな綻びが見当たらない。個の閃きだけに依拠するのではなく、チームとして機能しながら試合を構築する力に長けている。3月のイングランド戦に話を戻せば、ホームチームがちぐはぐなプレーに終始して一体感を欠いたのに対し、森保ジャパンは明確な目的意識を共有し、それを勝利へと結実させていた。

 ウェンブリーでのハーフタイムでの出来事だった。記者席で筆者の隣に座っていたトルコ紙『BirGun』のズィーヤ・アドナン記者と言葉を交わした。

1980年代からロンドンでサッカーを見続けてきたベテランは、日本を相手にしたイングランドのプレーを見てひと言、「まるで怖さがないな」と吐露。続けて、彼はこう言い切った。

「選手たちは縮こまっていて、自分たちのクラブ、例えばアーセナルやマンチェスター・シティでプレーしている時のような積極果敢なパフォーマンスが全然できていない。本当にサッカーを楽しめていないんだ。あれじゃ(日本に)勝てないよ」

 チームとしての機能性を欠き、最後まで個の力に頼る以外の打開策を見いだせなかったイングランド。それとは対照的に、日本は高い位置からのプレッシングからのショートカウンターに鋭さがあり、守備時には攻撃陣も自陣深くまで戻って奔走し、素早い攻守のトランジションも徹底されていた。組織力の差は歴然だった。

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PK戦の末に敗れ、涙に暮れたクロアチア戦から4年。日本は組織力とともに、個々の能力を着実に高めてきた(C)Getty Images

英国内のサッカー媒体で日本は「ダークホース」に

 カタール大会では、ドイツとスペインをともに2-1で破り、昨年10月にブラジル、さらに今年3月にはイングランドにも勝利した日本。1996年のアトランタ・オリンピックで前園真聖や中田英寿を擁したU-23代表が成し遂げた「マイアミの奇跡」は、相手GKとDFの連携ミスから生まれた幸運な得点を必死に守る展開だった。しかし、それがどうだろう。今やフル代表でも、世界有数のサッカー大国に対して、組織的に勝ち切れるレベルとなった。

 それだけに、本大会開幕を目前に控えた現段階において、イングランド国内のサッカー・メディアには、日本を「ダークホース」に挙げる媒体も少なくない。

 スポーツ専門メディア『The Athletic』は「8大会連続で出場し、これまではノックアウトステージの1回戦が最高位。だが、現チームのタレント力は確かで、過去の成績を上回る可能性は十分にある」と評した。また、英公共放送『BBC』、英衛星放送『Sky Sports』、日刊紙『The Guardian』でも同様の評価が下されている。

 大手ブックメーカーに目を向ければ、「Ladbrokes」は、「アジア最強のチームは、グループFを首位通過してもショッキングなことではない」とし、優勝オッズを「50-1」に設定。また、「Paddy Power」も「ソリッドなクオーターファイナリスト候補」と形容し、同じくオッズを「50-1」にしている。

 サッカー界でも驚かれるペースで進化を続け、確固たる評価を固めつつある。だからこそ、前出のバーロウ記者は、日本の躍進を断言する。

「彼らは強いチームだし、ワールドカップでもハイレベルなパフォーマンスを期待できる。どの国のサッカーシーンでも、今の日本代表を“軽く”見る人はもういないだろう。少なくとも、我々のいる英国内で、そう考えるサッカー関係者はほぼ皆無だ」

 さらに日本の総合力を「ワールドカップでの経験値も高まり、スカッドを見れば、ヨーロッパで活躍する選手の名が並ぶ。チーム全員がハードワークを厭わないスタイルと高い組織力は健在で、加えて個のレベルも大幅に向上している」と評するバーロウ記者は、こうも続けている。

「すでに話した通り、日本には選手層の厚さも備わっている。正直、グループリーグ首位通過の最有力候補はオランダだと思うが、2位で突破してベスト16まで進む可能性は十分にあるはずだし、何ら驚きではない。あえて言えば、あのチームが逆にグループリーグを通過できないようなら、そのほうがサプライズになるだろう」

 運命の開幕まで約1週間。日本国内のみならず、海外でも評価を高めている現在の日本代表は、オランダ代表との大会初戦をどう戦うか。その戦いに国際的にも大きな関心が寄せられているのは間違いない。

[取材・文:松澤浩三 Text by Kozo Matsuzawa]

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