スタジオジブリのアニメ映画でも知られる、柊あおいの青春恋愛漫画を実写映画化した『耳をすませば』。アニメーション映画でも描かれた中学生時代の10年後を舞台とした本作で、清野菜名と松坂桃李がダブル主演を務めている。
【写真】インタビュー中も和気あいあいとした雰囲気の清野菜名&松坂桃李、撮り下ろしショット
■雫&聖司を演じることに「プレッシャーがありました」
――不朽の名作をもとに、漫画やアニメーション映画でも描かれた中学生時代と共に、完全オリジナルの10年後の物語も描かれる本作。オファーを受けた時の感想から教えてください。
清野:ものすごくびっくりしました。『耳をすませば』と言えば、年代を問わずたくさんの方に愛されてきた、歴史ある作品。10年後を描くオリジナルの物語として、私が雫を演じるんだと思うと、プレッシャーもありました。撮影が始まるまで、ずっとドキドキと緊張していました。
松坂:僕は「『耳をすませば』をやるの!?」と思いました(笑)。10年後の物語を描くと聞いて、もちろん大きなプレッシャーを感じつつ、僕自身も「10年後の二人ってどうなっているんだろう」と興味が湧きました。一体どのような成長を遂げているんだろうと、台本を読むのがとても楽しみになりました。
――役づくりする上では、原作やアニメーションで描かれた雫と聖司を、どのように取り入れたいと思っていましたか?
清野:私自身、アニメ映画の『耳をすませば』は物心ついた頃から観ていた作品なので、自分の中にもすでに雫像があって。
松坂:僕も、原作とアニメを何度も見直して、そこから感じた聖司の空気感を取り入れたいなと思っていました。10年後に関しては、原作の空気感を取り入れつつ「聖司はきっとこういう成長をして、雫のことを思いながらイタリアで奮闘しているんだな」と想像しながら、現場に入りました。
――聖司くんの持つ、特別な空気感はどのように表現されたのでしょうか。
松坂:聖司って本当にカッコいいんですが、ちょっと意地っ張りだったり、偏屈なところがありますよね(笑)。そういった空気感を出せればいいなと思っていました。
■今、『耳をすませば』を実写化する意味とは?
――『耳をすませば』の実写化が発表された際には、SNSなどでも驚きの声が上がっていました。お二人は、今『耳をすませば』を実写化する意味をどのように感じていますか。
清野:今の時代はSNSや携帯ですぐに自分の思いを伝えられるけれど、1980年代は手紙を書いたり、電話する時間も10円玉を足しながらつないでいたような時代ですよね。だからこそ、雫と聖司くんも、とてもストレートな言葉で会話を交わしているような気がするんです。今を生きる人たちにも本作を通して、携帯電話で済ませるのではなく、目を見て伝え合うことの大切さを感じていただけたらうれしいなと思っています。
――改めて『耳をすませば』の魅力を感じた部分も多かったですか?
清野:やっぱり『耳をすませば』で描かれる甘酸っぱい恋愛って、すごくいいな!と思いました。これから恋愛をする世代の方たちにもワクワクしてほしいですし、私たちの同世代の方、さらに上の世代の方にとっては、誰もが昔を思い出してキュンとできるような作品。世代によって感想もさまざまだと思うので、いろいろな意見を聞いてみたいです!
松坂:『耳をすませば』って、“懐かしさと甘酸っぱさの最上級”みたいな作品だと思っていて。誰もが「懐かしい! こんなことあった、あった。いや、経験していないけれど。あった気がしてしまう」と感じられるような作品(笑)。心の浄化を得られる作品で、だからこそテレビ放映されるたびに、視聴率もものすごく高いし、とても吸引力のある作品ですよね。大人の方には今改めて本作を観て、そのエモさを感じていただけたらうれしいなと。若い世代の方が観ると、新鮮に感じられる部分もあるのではないかと思います。
――本作を通して、実写だからこそのよさを感じている部分について教えてください。
松坂:登場人物の顔の表情をより明確に伝えられるというのは、実写の強みかもしれないですね。肌感や空気感が伝わるのも、実写の魅力だと思います。
清野:まさに、そうですね! 「恥ずかしい」と感じた時に、肌がポッとなる感じとかは、実写ならではですよね。
松坂:そうそう! ほほ笑んだ時の目尻のシワとか、頬のくぼみとかね。ぜひそういった細かい表情も見てほしいです。
■10年前の自分を回顧 “夢をかなえられた秘訣”を語り合う
――まっすぐに夢に向かっていた中学時代から、10年後の雫と聖司は、現実の壁にぶち当たり、もどかしい日々を過ごすこともあります。その変化は、とてもリアルだなと感じました。
清野:大人になると「これを言っておけば正解だろう」という答えを出す術を覚えてしまったり、「本音は違うのに」と思いながらも、なかなか自分の正直な気持ちを出せなくなってしまうこともありますよね。撮影当時、私は25歳で、劇中で描かれる10年後の雫は、まさに等身大とも言える年代。雫が感じている仕事に対する葛藤や悩みを、私も同じように抱えていました。だからこそすごく共感ができて、一心同体になれたような気がしています。当時の私の全力をぶつけて演じていたので、その熱量はその時にしか出せないもの。そう言った意味でも、自分にとってとても意味のある作品になったと感じています。
松坂:10年の間、雫と手紙のやり取りをしていても、聖司はその中に自分の弱さのようなものは書いていないだろうなという感じがしたんです。
――お二人は今、俳優さんとして大活躍されています。10年前を振り返った時に、どのように夢に向き合っていたと思いますか?
清野:10年前かぁ…。18歳の頃ですね。その頃はバイト三昧でした。バイト先から家までは、電車賃をケチって歩いて帰っていたんです。その間にオーディションのセリフを覚えたりしていました。でも全然オーディションも受からないし、そういったことが何年も続いていて。
――いつも背中を押してくれる清野さんのお母様は、雫にとっての聖司のようですね。
清野:本当にそう思います! このお仕事には波があるけれど、そのときにやめず、諦めないで続けてきたからこそ、今の私がある。継続するということは、生きていく上で大きな力になっていくんだなと感じています。夢をかなえられた秘訣があるとするならば、私にとっては野心と粘り強さかもしれません。
――松坂さんの10年前は、どのような思いでお仕事に臨んでいましたか。
松坂:僕の10年前は、朝ドラ『梅ちゃん先生』をやっていた頃です。朝ドラが決まったことを親に報告したところ、ものすごく喜んでくれた思い出があります。「お隣さんに話す!」と言っていました(笑)。
――では夢をかなえられた秘訣があるとすれば、出会いになりますか?
松坂:そう思います。『ツナグ』は、今回の『耳をすませば』でもご一緒させていただいた平川雄一朗監督、そして希林さんとも出会えた作品。また、朝ドラで共演させていただいた役者の先輩方との出会いも僕にとって大きなもので、出会いをつないでここまで歩んできたんだなと感じています。
(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)
映画『耳をすませば』は、10月14日より全国公開。