ドラマ公式サイトより

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が1週の休止を挟んで、いよいよ新たな章へと進む。源頼朝(大泉洋)が亡くなり、政治闘争が激化。

17日放送の第27回は「鎌倉殿と十三人」と名付けられているように、ついにタイトルにもなっている「十三人の合議制」にスポットが当たるようだ。

 新章突入を前に、15日(金)深夜と16日(土)深夜にはNHK総合で第18回~25回の一挙再放送が行われる(第26回は通常どおり土曜午後=16日の13:05~)。改めて物語の転換点となったこの部分を、歴史エッセイスト・堀江宏樹氏の連載とともに振り返ろう。

「きょうだいの物語」としての『鎌倉殿』

 第18回は「壇ノ浦で舞った男」。その名のとおり、源義経(菅田将暉)が天才ぶりを発揮した回だった。船のこぎ手を射とうとする義経は、畠山重忠(中川大志)に「こぎ手は兵ではござらん! 殺してはなりませぬ」と諌められていたが、実は義経の逸話として有名なこの「非戦闘員であるこぎ手を殺した」という話は、後世の創作である可能性が高いとか。

『鎌倉殿』はどのように描く? 義経“大活躍”の「壇ノ浦の戦い」における虚構と真実──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ...
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
日刊サイゾー2022.07.15

 ドラマの義経は、合理的で、かつ空気を読まないキャラクターから視聴者から“サイコパス義経”などとも呼ばれていたようだが、これまでの義経像を打ち破る描かれ方は新鮮だったし、それを菅田将暉が演じるというのも絶妙だった。実際、よく知られている義経像は後世にかなり美化されたものだとされている。

冷酷な頼朝を描く『鎌倉殿』 “クレイジー義経”は「一ノ谷の戦い」で本領発揮か──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ...
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
日刊サイゾー2022.07.15

 ただ、第18回では合理的で残忍なだけではない義経の一面も垣間見えた。「これは戦だ。多少の犠牲はやむを得ん」と断言できる男である一方で、安徳天皇らが入水する場面では驚きのあまり呆然とし、殺したこぎ手を「丁重に葬ってやれ」と命じていた。捕虜の平宗盛に息子との対面を叶えさせてやったり、腰越の人たちとの約束を守ったりもしていた。

特に腰越の人たちとの場面では、兄同様に人の心をつかむのがうまい、という以上の人間性が感じられたのではないか。思えば、兄を慕い、義姉となった北条政子(小池栄子)に甘えている姿もあった。義経の抱いていた“寂しさ”は、その後の退場を切なく彩ることになる。

 義経だけでなく、平宗盛(小泉孝太郎)の描かれ方も新鮮だった。『鎌倉殿』は、北条宗時(片岡愛之助)と義時(小栗旬)、頼朝と義経など「きょうだい」が物語の軸としてあるように思われるが、宗盛もまた異母兄の重盛と比較される存在であった。それゆえドラマで宗盛が義経に語った「(仲たがいしたことは)ござらぬ。

心を開き合ったことがなかったゆえ。しかしそれでも信じ合っており申した」というセリフは印象的だった。

「天才」と「凡人」を描く『鎌倉殿』で異例の描かれ方をした“貴公子”平宗盛──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ...
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
日刊サイゾー2022.07.15

 第19回は「果たせぬ凱旋」。源行家(杉本哲太)や後白河法皇(西田敏行)に振り回されるかたちで義経は兄・頼朝と対立する構図に追いやられていく。史実の義経はもっと狡猾だったようだが……。

 劇中では里(三浦透子)と静御前(石橋静河)の間でも板挟みとなった義経。

里の手前では妊娠中の静御前は置いていくとして里との都落ちを宣言するも、静とふたりきりになった際に「里を連れていくのはあれが比企の娘だから。いざという時の人質だ」と弁明していたが、実際には郷御前(ドラマの里)は匿い、そののちに奥州で合流したとか。一方、静は九州への逃避行に同行したものの、吉野山で別れてしまったようだ。ドラマでは最後まで義経と里の関係は良好とはいえないものだったが、実際は真逆であったのかもしれない。

静御前は捨てられた? 愛されていたのは郷御前? 『鎌倉殿』とは異なる“史実”の義経と女たち──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ...
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
日刊サイゾー2022.07.15

 第20回は「帰ってきた義経」。奥州平泉への“帰還”でもあり、首になっての兄との対面でもあった。

平泉ではひとときの平穏を味わっていた義経だったが、頼朝に「生かして連れて帰るな。災の根を残してはならぬ。 だが決してじかに手を下してはならん」と命じられた義時がやってくる。義時の策にかかったかに見えて、義経は自分の命運を悟り、自ら乗せられたという最期。あくまで「天才(がゆえに頼朝と並び立つことができない)」という存在として退場していった。ここから『鎌倉殿』は悲劇の色合いがどんどんと濃くなっていく。
(1/2 P2はこちら

頼朝が京で争う「天狗」たち…後白河法皇よりも“くわせもの”だった丹後局──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ...
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
日刊サイゾー2022.07.15
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
八重(新垣結衣)|ドラマ公式サイトより

 第21回は「仏の眼差し」。運慶(相島一之)の阿弥陀如来像を見て、義時が妻の顔を思い返すとき、八重(新垣結衣)はかつて殺された我が子・千鶴丸と重ねて見ていた少年(千鶴)を助けるために川に入り、帰らぬ人となった……というなんとも皮肉な回だった。

 まるで千鶴丸を亡くしてからの八重は、千鶴を救うまでの間を生きながらえていただけだったかのようだ。実際、史実の八重姫(伊東祐親の娘で、頼朝の元妻だった女性)は、『曽我物語』では入水自殺したとされている。ドラマの八重の設定は、『鎌倉殿』の時代考証を担当する坂井孝一氏の独自の見解を採用したと見られ、頼朝の元妻・八重姫と、義時の側室で長男・金剛(のちの泰時/坂口健太郎)の母親となった女性(阿波局)を同一人物とみなして生まれたもののようだ。

三谷流翻案が冴える『鎌倉殿』 生存ルートを進む八重と「阿波局」の関係とは──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ...
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
日刊サイゾー2022.07.15

 ちなみにドラマの八重といえば、第4回の山木館襲撃の時、対岸から矢文を放つ場面で見事な弓の腕前を披露していたが、第23回で坂口健太郎に成長した金剛(テロップでも「成長著しい金剛」)も“母親譲り”の弓の腕前で、万寿(のちの源頼家/金子大地)を嫉妬させていた。

 第22回「義時の生きる道」では義時の正室となる、比企家出身の「姫の前」(ドラマでは比奈/堀田真由)が登場。史実では頼朝の“お気に入り”だったようだが、劇中でも頼朝が言い寄ろうとして政子に目を付けられるという展開があった。ドラマでは八重を彷彿とさせる部分がある女性として描かれていたが、史実では義時がとにかく惚れ込み、アプローチし続けて結ばれたという。このエピソードはむしろ義時と八重の関係に反映されたのかもしれない。

史実でも「八重」は特別な存在だった? 「八重」「比奈」と北条義時、源頼朝との関係──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ...
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
日刊サイゾー2022.07.15

 第23回は「狩りと獲物」。富士の巻狩り、そしてその裏で起こった「曽我兄弟の仇討ち」が描かれた。後者では、頼朝の暗殺を狙ったという説や、裏で北条時政が暗躍したという説も唱えられているというが、ドラマではこうした説をうまく取り入れつつ、比奈のもとへ行こうとすけべ心を出した頼朝が運良く助かるという展開が見事だった。

 実際にただの仇討ちと済ませるには不可解な点が多かったという「曽我兄弟の仇討ち」。『吾妻鏡』では、頼朝は捕らえられた曽我時致の話を直々に聞いたというエピソードがあるようだが、これもドラマでは表向き“謀反などなかった”として処理しようとする義時の策によるものだと説明された。

謎多き「曽我兄弟の仇討ち」――複雑な人間ドラマを『鎌倉殿』はどのように描く?──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ...
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
日刊サイゾー2022.07.15

 第24回は「変わらぬ人」。前回、頼朝が死んだとの誤報を受けて比企能員(佐藤二朗)が源範頼(迫田孝也)に鎌倉殿を継ぐようにそそのかすが、この動きによって範頼は頼朝に疑われ、流刑に処されてしまう。それでもあくまでも穏やかな範頼と、身内にすら疑心暗鬼になってしまう頼朝、いずれも“変わらぬ人”ということだったのだろう。

『鎌倉殿』同様に史実でも源範頼は「いい人」? 頼朝への“謀反”の真相とその後──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ...
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
日刊サイゾー2022.07.15

 さらに悲運の大姫(南沙良)。婚約者だった源義高(市川染五郎)が父・頼朝の命によって殺されてしまい、一時は心を閉ざしていたが、第21回あたりから明るさを見せ、スピリチュアル系不思議ちゃんぶりも話題になった。史実では義高の死後10年は「魂が抜けた」ような状態だったという。

『鎌倉殿の13人』 義仲と巴御前、義高と大姫の“悲恋”と、生き残った女たちのその後──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ...
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
日刊サイゾー2022.07.15

 義高の父・木曽義仲(青木崇高)を慕っていた巴御前(秋元才加)からの「生きてる限り前に進まなくてはならない」という言葉を受けて、頼朝が推し進める入内に前向きになった大姫だったが、母・政子とともに丹後局(鈴木京香)から厳しい洗礼を浴びる。傷心の大姫は、三浦義村(山本耕史)に「姫は悪くない。姫は、姫の生きたいように生きるべきです」「人は、己の幸せのために生きる。当たり前のことです」と声を掛けられる。だが大姫にとって「好きに生きるということは、好きに死ぬということ」だった――。空蝉を集めるのが好きだった義高のもとに、大姫は旅立っていった。空蝉は義高と大姫、ふたりの短い生涯の象徴だったのかもしれない。

『鎌倉殿』大姫の衣装は季節外れ? 丹後局が指摘した以上に厳しい朝廷の“お約束”──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ...
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
日刊サイゾー2022.07.15

 そして第25回「天が望んだ男」。天の加護が感じられなくなっていた頼朝は死の恐怖にかられ、疑心暗鬼にかられる。政子との語らいを経て、憑き物が取れたように「人の命は定められたもの。あらがってどうする。甘んじて受け入れようではないか」と悟ったかと思ったら、倒れてしまった。阿野全成(新納慎也)は兄・頼朝に請われるままに、適当に思いつきの助言を言っていたが、昔を振り返るのはよくないという戒めを破った途端に倒れてしまう…… というのはなんとも皮肉な展開だった。

 頼朝が倒れたのは脳卒中の発作のような描かれ方だったが、史料によれば糖尿病(による脳血栓)の可能性もあるようだ。しかし肝心の『吾妻鏡』には頼朝の死の数年前から欠落があり、はっきりしない部分でもある。暗殺説も唱えられているようだが、一方で、結果的に頼朝の息子・頼家を追い落とすことになる義時・政子が頼朝の遺志を裏切ったがゆえのこととする見方もあるという。

源頼朝の死の謎――『吾妻鏡』の抜け落ちは義時・政子が頼朝の遺志に反したから?──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ...
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
日刊サイゾー2022.07.15

 第26回「悲しむ前に」では、頼朝の死が描かれていく一方で、これからの鎌倉を誰が主導するかをめぐってのゴタゴタも起こった。予告映像で「長い序曲(プロローグ)が終わる」とあったように第27回からは新たな章となり、ここから御家人たちの政治闘争へと発展していくのだろう。ひと筋縄ではいかない三谷幸喜流の“御家人たちの物語”がここからどう展開していくのか、楽しみだ。

『鎌倉殿』ついに“序章”終了――頼朝の死と、後家・北条政子の「尼将軍」の始まり──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ...
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
『鎌倉殿の13人』物語の転換点となった義経、八重、頼朝の死を振り返る
日刊サイゾー2022.07.15