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 2023年6月2日。大阪を中心に数多のテレビ番組で司会を務め、惜しまれつつ芸能界を引退した元タレント、そして芸人であった「上岡龍太郎」さんが、5月19日に大阪市内の病院で肺がんと間質性肺炎の為、亡くなっていたことが発表された。

 上岡龍太郎さんと言えば、横山パンチの芸名で「漫才トリオ」で活躍し、解散後、数々のバラエティ番組の司会を務め、中でも大阪で絶大なる人気を誇るバラエティ番組「探偵ナイトスクープ」の初代局長の印象は今でも強烈だ。40歳以上だと覚えている方も多いかもしれないが、若い方にとっては全くと言っていいほど知名度はないだろう。

 それもそのはず、以前「芸人の引退」について書いたコラムでも触れたが、まだまだ人気も実力も需要もあった現役バリバリの時代に「僕の芸は20世紀まで」と2000年4月に芸能界を引退。それ以降、ほとんどと言っていいほど表舞台には登場せず、その鮮やかすぎる去り方は何とも粋であり、とてもカッコ良い生き様を見せてくれた。なので若者が知らないのは当然だ。お笑い好きなら、漫才コンビ「ミキ」の伯父として話題となったので知っている人もいるかもしれない。

 そんな上岡さんがお亡くなりになったことで、生前のエピソードがいくつか記事になっており、その中で僕が気になった記事を紹介したいと思う。

 上岡さんは引退後、奥さんと一緒に演芸や舞台を観に行くことを楽しみとしており、自分の仲間や弟子の舞台にはたびたび顔を出していたそうだ。上岡さんレベルの方が舞台を見に来てくれる場合、大抵「関係者」として招待するのが当たり前なのだが、上岡さんは関係者席ではなく、一般席で鑑賞していたそうだ。上岡さん曰く「自分は一般人だから」という理由でそうしていたようだ。

 この話がなぜインパクトがあったかというと、通常上岡さんのように確固たる地位を築いた芸能人は、芸能が関連している場所では丁重に扱われるのは当たり前で、それは決して悪い意味ではなく、上下関係がしっかりしており、師匠や先輩などにはある一定のリスペクトや恩があり、小さな恩返し的意味もあり、チケットを買ってもらわずに招待という形を取るのだ。

 そして上岡さんのような有名人になると周りの目が気になり、観劇に集中できない可能性があるので、周りに関係者しかいない席でゆっくり見てもらうという意味もあり、関係者席へ座ってもらうのが慣習になっている。

 もちろん上記の慣習は舞台をしている側、つまり呼ぶ側の意識で、呼ばれる側の意識は違う。基本的にある程度の地位にいた人は、上岡さんのようにお金を払う方が多い。これはあくまでも僕の憶測だが、その地位に就くまでに相応の努力や苦労をしているので、お金の価値をきちんと理解しており、演芸や舞台に対価を払う事の大切さが身に染みているのだろう。

 僕自身、劇団を立ち上げて、テレビ関係者、先輩、同期、後輩、様々な関係者を招待したが、99%の確率で招待されることを嫌がり、きちんとチケット代を払っていただいた。その中のテレビ関係者に言われたことを今でも覚えている。

 観劇終わりでその方と話していた時、「チケット代ってどこで払えばいいの?」と言われ、僕は「招待なので料金は大丈夫です」と返した。

すると「檜山、お前は演劇でお金を稼いで食っていこうとしてるんだろ? プロとしてやろうとしてるんだろ? プロはお金を稼いで初めてプロになるんだから、招待なんかしないでちゃんとお金を払わせた方がいい。それにお金を払った方が俺たちも正当な評価を話せるから」と。

 この言葉に僕は胸を打たれた。この時「プロ」という言葉の重みや真意をきちんと理解できたのだ。それからは招待などせずに正規料金で観劇してもらうようにしている。ただこれが言えるのは僕の周りの演芸や芸人の話で、演劇、特に小劇場界隈だとそうはいかない。

確固たる地位などついていなくとも、リスペクトする先輩でないとしても、関係者は招待することが通例となっており、集客出来ない役者などは役者同士で“行って来い”によるギブアンドテイク方式が主流となっていて、お客さんの分母を増やそうとしない。

 向上心が強い一部の劇団や役者を除いて、ほとんどの場合、仲間内でお客になったり演者になったり主宰になったり音響になったり照明になったりしているので、ただ知り合いが循環しており、新しい客層が増えることはないのだ。外部へのコミュニケーションが希薄なために小劇場界隈に漂うサブカル臭が拭えないのだ。

 ちなみに、小劇場界隈という小さな世界である程度の地位についたと勘違いした小劇場モンスターが、招待されることが当たり前、的外れなダメ出しをして気持ちよくなるというとんでもない客になる。

 一度、僕のツイッターのフォロワーの見知らぬ演劇関係者を僕の劇団のお芝居にお誘いしたことがあった。すると「僕は多忙なので招待以外の演劇は観劇しないようにしています」と返ってきて度肝を抜かれたことがあった。

あの人は今頃なにをしているのだろうか。劇場界の衝撃的なことは山ほどあるので、それはまた別のコラムで書くことにしよう。

 上岡さんの話から、いつの間にか小劇場界の不平不満話に変わってしまった。失礼しました。兎にも角にも上岡さんのエピソードはカッコイイ。「客観視」と「引き際の見極め」こそが上岡龍太郎さんのカッコよさの根底にあり、これが一世を風靡し一時代を築き上げた芸人の凄さ。

この上岡イズムはそう簡単に真似できるものでは無い。憧れとはそういうものなのだろう。

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上岡龍太郎のカッコよさの根底にあった「客観視」と「引き際の見極め」
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cyzo
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日刊サイゾー2019.05.16