トヨタ自動車に苦汁をなめさせられてきた米ビッグスリー陣営からすれば、確かにこれほど鬱憤晴らしに格好の出来事はないのかもしれない。「トヨタがビッグスリーの得意分野に斬りこんで、ものの見事にコケた」(米GM幹部)からである。
デトロイトで冷評されるそのクルマは、「タンドラ」。フルサイズピックアップトラックと呼ばれるビッグスリーの牙城を攻略すべく、トヨタが2007年2月に発売した新型車だ。2006年11月に新設のテキサス工場で開かれた、量産開始の式典には、豊田章一郎名誉会長や渡辺捷昭社長らも駆けつけるほどの入れ込みようだった。
旧タンドラはビッグスリーのフルサイズピックアップに比べ、大きさや馬力で劣り、泣かず飛ばずに終わった。そこで、新型車は、日本でいえば、商用の小型トラック並みにボディを大型化したほか、排気量5700ccのV型8気筒エンジン搭載モデルまでも揃え、真っ向勝負に打って出た。
ところがふたを開けてみれば、販売は低迷。今年5月には3割も落ち込んだ。悲しいかな、6月にはついに大幅な追加減産の経営判断にまで追い込まれたのである。
誤算の理由は明白だ。発売後に加速したガソリン高や米国景気の減速もさることながら、ビッグスリーの反撃の意志を甘く見たためだ。
むろん「共倒れ」どころか、好調な小型車販売に支えられているトヨタとは違い、大型車主体のビッグスリーの経営は火の車。それでも販売奨励金合戦を仕掛けたことは、文字通り「正気の沙汰ではない」(前出・米国トヨタ幹部)とはいえそうだ。
とはいえ、ライバル他社との比較優位に溜飲を下げていては、トヨタもビッグスリーと変わらない。そもそも小型車は薄利多売。高級車「レクサス」の販売も鈍化している中で、「タンドラ」への期待は高かった。そのつまずきで、収益見通しが厳しくなっているのは紛れもない事実である。「窮鼠猫を噛む」(日系メーカー首脳)が如きビッグスリーの断末摩の反撃は、景気減速に伴う市場縮小が進む中、確かにトヨタに打撃を与えている。
(ダイヤモンド・オンライン副編集長 麻生祐司、ジャーナリスト ポール・アイゼンスタイン)
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