コロナショックに買い入れ枠倍増
3月末の保有総額約31兆円

 コロナショックによる世界同時株安への対応策として日本銀行はETF(上場投資信託)の年間の買い入れ上限を「12兆円」に引き上げたが、2020年3月31日現在で、買い入れによる保有ETFの総額は31兆1738億円(時価)になっていることが、ニッセイ基礎研究所の試算でわかった。

 同時に試算したETF購入を通じて日銀が「大株主」になっている企業のランキングでは、発行株式の23.4%を持つアドバンテストを筆頭に、「ユニクロ」のファーストリテイリング(保有シェア19.6%)、TDK(19.0%)などが上位になり、10%以上の株式を保有する企業の数は56社に上る。

 試算をまとめた井出真吾・チーフ株式ストラテジストによると、3月末現在での保有株の簿価は30兆8801億円で、含み益は2937億円。保有株に含み損が発生する損益分岐点は、日経平均株価1万8739円と試算する。

株式保有シェアの上位に
ファミリーマートやオムロンも

 ETFの買い入れを年間6兆円から12兆円へ倍増することを決めた3月16日の緊急金融政策決定会合の翌17日には、日銀は1日の買い入れとしては過去最高の1216億円のETFを購入。さらに米国株式市場が暴落した19日には、17日を大幅に上回る総額2016億円を購入した。

 とはいえ、19日の日経平均株価の終値は2016年11月以来となる1万6552円と、損益分岐点を下回った。その後、株価は持ち直してはいるが、不安定な状況は変わっていない。

 国際通貨基金(IMF)が4月14日に発表した世界経済見通しでは、2020年の世界全体の成長率は前年比3.0%減と世界恐慌以来の大幅な落ち込みが見込まれ、米国は5.9%減、日本も5.2%減のマイナス成長が予想される状況で、日銀が再び含み損を抱える事態が起こり得る状況だ。

 3月の日銀のETF買い入れ額は1兆5484億円と月間では過去最高額になったが、それに伴いETFを通じた日銀による3月末現在の各企業の株式保有も増えている。

 試算では、1年後の2021年3月末の保有シェアについても、株価は動かない前提で、日銀が現在の年間6兆円のペースでETFを購入する前提で推定している。

 それによると、アドバンテストの株式保有シェアは25.5%に高まるほか、ファーストリテイリングとTDKの保有シェアも2割を超える。10%以上の株式を保有する企業も80社に増えることになる。

「株価買い支え」の役割担う
企業の新陳代謝遅らせる弊害

 ETFの買い入れは、白川方明総裁時代の2010年10月に打ち出された「包括緩和策」の一環として始められた。

 短期金利がゼロに近い中で、長めの金利を下げるために、中央銀行がリスク資産を購入することでリスクプレミアムを下げる「異例の措置」として実施された。

 買い入れは4500億円で始まったが、黒田東彦総裁のもとでの「異次元緩和策」では、「2年間で2兆円」(2013年4月)と大幅に増え、その後も買い入れ目標額は、「3兆円」(2014年10月)、「6兆円」(2016年7月)と増やされ、購入の目的も当初とは変わってきている。

 長期金利の低下は10年物国債などの購入によって行われ、株高を重視するアベノミクスのもとで、ETF購入は、もっぱら株価買い支えの役割を担っているのが実態だ。

 井出氏は「株価が下落しそうな状況で日銀がETFを購入することで、空売りなどが減り株価が下支えされる効果はそれなりにある」としながら、「下落しそうなときには、日銀のETF購入を投資家が予想するのでリスクプレミアムを下げるという効果はほぼなくなっている」と政策の変質を指摘する。

 日銀が大規模にETF買い入れをすることで、ETFを構成する現物株の売買高や価格に影響を与える可能性も指摘されてきた。

 最近では、買い入れを始めた当初と比べて、6兆円のうち4.2兆円は、東証一部上場全企業の株式で構成するTOPIX連動型のETFを優先的に購入するなどの工夫が行われて、個別銘柄の価格形成がゆがむという状況は少なくなっているという。

 しかしその一方で「日銀が多数の銘柄を幅広く薄く持つ形になり、本来なら退出すべきゾンビ企業までが生き残ることになっていて、産業の新陳代謝を遅らせる弊害は看過できなくなっている」と話す。

 こうした官製市場化の問題が指摘されるのにもかかわらず、政策金利がマイナスやゼロにまで低下している状況では、日銀はETF買い入れを数少ない政策手段として使わざるを得ない状況に変わりはない。

 だがコロナショックという過去にない危機のもとで、株価買い支えの効果にしても限界はあり、黒田総裁が言う「企業や家計の心理を安心させる狙い」も十分とはいえず、手詰まり感は一段と強まることになっている。

(ダイヤモンド編集部特任編集委員 西井泰之)

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