今回は、上場企業の有価証券報告書に記載された平均年収のデータを使って、東京都に本社がある上場企業を対象に「東京都で年収が高い会社ランキング」を作成した。本社所在地はダイヤモンド社企業情報部調べ。
単体の従業員数が100人未満の企業は除外している。対象期間は、2019年6月期~20年5月期。

 早速、ランキングを確認していこう。

ヒューリックはみずほ垂涎の再就職先
商社も民放も今後上位の保証はない

 1位となったイー・ギャランティ(2413.1万円)は、今年8月に配信した全国版の「年収が高い会社ランキング2020」でも説明したとおり、従業員に自社の株式を給付する株式給付信託(日本版ESOP)が満期を迎えたため、一部の従業員の給与が上がるという特殊要因によるものだ。実質的なランキングは2位以下で見た方がよい。

 目立つのはやはりというべきか、総合商社と民放テレビ局である。

 その前に2位のヒューリック(1761.0万円)について見てみよう。「カタカナの社名から、よく外資系企業に間違えられる」のが社員の悩みだが、旧富士銀行(現みずほ銀行)のビル管理が発祥の不動産会社だ。全国ランキングでも3位に入った。

 同社はみずほ銀で頭取候補と目された西浦三郎会長の下で急成長。東京都心の主要な駅前に従来あった旧富士銀の店舗ビルという超好立地の物件をそのまま引き継いだことが、浮き沈みを繰り返してきた不動産業界で圧倒的に有利な立場を築かせた。

 同社はみずほ銀からの再就職を受け入れている。

人気ドラマ「半沢直樹」シリーズでは取引先に再就職させられる行員の悲哀が描かれたが、ヒューリックはみずほ銀の行員にとって垂涎(すいぜん)の再就職先であることは間違いない。

 3位以下を見れば、やっぱり強いのが総合商社。3位三菱商事(1631.9万円)、5位伊藤忠商事(1565.8万円)、6位丸紅(1452.8万円)、7位住友商事(1437.0万円)、9位三井物産(1393.4万円)と、いわゆる“5大商社”がすべて10位以内に入った。

 商社マンと言えば高給取りの象徴であり、海外駐在ともなれば手当が上乗せされるうえに、豪華な社宅も供される、好待遇業種の代表格だ。

 とはいえ三菱商事は、2021年3月期第2四半期の最終利益が64.2%減、三井物産は同期で約半減、住友商事は同期第1四半期で最終赤字と大打撃を受けている。

 新型コロナウイルスの感染拡大による世界的な需要の縮減が大きく影響したわけだ。このままコロナ禍が続けば、再び商社冬の時代が訪れても不思議ではなく、ランキングのような好待遇が今後必ずしも保証されるわけではない。

 コロナ禍に見舞われているのは、TBSテレビなどを擁する5位のTBSホールディングス(HD、1622.4万円)や、8位の日本テレビHD(1401.5万円)も同様だ。

 とりわけTBSは、半沢直樹の視聴率が30%超え、「私の家政夫ナギサさん」も20%弱に達するなど連続ドラマが絶好調だが、コロナ禍による広告収入の激減により、21年3月期の最終利益は前年同期比81.8%減の55億円となる見通しで、役員報酬を減額するなど涙ぐましい状況だ。日テレHDはすでに同期の第1四半期で最終利益が81.7%減の15億円となっている。

 加えてテレビ局は今後、総務大臣経験者である菅義偉首相のターゲットにされる可能性がある。テレビ局員の好待遇は、政府に支払う電波利用料が安すぎるため、との指摘が以前から存在するからだ。

 もし菅政権が見直しに踏み込めば、民放テレビ局側は「表現の自由」を盾に抵抗するであろう。だが、テレビ業界では超低待遇の制作会社社員がテレビ局の下請けとなって番組制作の実務を担っている現実があり、異例の好待遇はこうした「搾取の構図」の結果と言える。

 また連日、夜討ち朝駆け取材に明け暮れる報道部門でも、同じ業務を強いられる毎日新聞や産経新聞の記者の待遇はもっと悪い。表現の自由だけで現在の好待遇ぶりを正当化できるかは疑問だ。

 なお10位には、携帯電話料金引き下げをめぐってまさに菅政権のターゲットとなっているソフトバンクグループ(SBG、1389.4万円)が入った。

 同社はランキングの集計期間に重なる20年3月期、9615億円の最終赤字を計上したことを考えれば、社員のこの待遇は、孫正義会長兼社長の太っ腹ぶりを示して余りある。半導体設計会社の英アームを4兆円超で売却する方針を打ち出し、21年3月期第1四半期には逆に1兆2557億円の最終利益をたたき出してはいるが、コロナ禍と菅政権による“携帯会社包囲網”でSBG社員の待遇がどう変化するかにも要注目だ。

 ランキング完全版では、11位以下の計500社を掲載しているほか、平均年収が800万円を超えた213社の業種別の傾向について分析している。ぜひチェックしてみてほしい。

(ダイヤモンド編集部 岡田 悟)

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