『週刊ダイヤモンド』10月10日号の第1特集は「トヨタvsフォルクスワーゲン 最強の自動車メーカー」です。独フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正スキャンダルが勃発し、トヨタ自動車に好機が転がり込んでいます。

一方、VWと“離婚”したばかりのスズキは新たな組手を模索するのでしょうか。世界の勢力図が激変する中、最強の自動車メーカーを巡る決戦の行方を追います。

“孤独死”もあり得るかもしらん──。独フォルクスワーゲン(VW)との提携解消を決意し、単独で生き残る道を選んでいたはずの鈴木修・スズキ会長は、近しい人物に思わずそう漏らした。

 今年8月末、スズキとVWの4年にわたる泥仕合に終止符が打たれ、提携解消がついに成立した。記者会見の席では、「(今後は)提携を考えているというより、自立して生きていくことを前提にやっていきたい」と、強気な姿勢を示していた修会長。

 しかし胸の内では、単独で生き残れるどころか、新たな提携相手すら見つからない“孤独死シナリオ”も想定するほど、実は強烈な危機感を今、抱いているはずだ。

 スズキがVWに離婚を通告し、国際仲裁裁判所に提携解消を申し立てたのは2011年。その後、VWのドイツ本社で交渉のテーブルに着いたマルティン・ヴィンターコーン社長(当時)は提携継続を切望したが、スズキの原山保人・現副会長は声を荒らげ、「私たちは別れたいんだ」との一点張り。修会長は、それを黙って聞いていたという。

 亀裂の発端は、VWがアニュアルレポートでスズキを持分法適用会社に位置付けたことにある。これに対し、「対等な関係」や「経営の自主独立性」を重視するスズキは「話が違う」と猛反発。

その後、事態は国際仲裁裁判所での仲裁交渉に発展し、関係修復はもはや不可能となった。

 そもそもスズキがVWと提携した目的は、環境技術の提供を受けることにあった。大手メーカーに比べて研究開発費も大きく見劣りするスズキが、今も技術的課題を抱えていることに変わりはない。

 ほかならぬ修会長自身、そう認識しているのだろう。9月17日、スズキはVWが保有するスズキ株の買い戻しを終了した。総額約4600億円。元手は自己資金で、自社株を消却する予定は今のところない。新たな提携の際に株の持ち合いとなれば手元の自社株を渡すこともできる、いわば戦略的な“余地”を残したといえる。

 新たな相手とはどこか。むろん今度こそ慎重に選ぶだろうが、修会長がかつてVWとの提携時に明言したように、今も「1000万台クラブ」を求めるならビッグスリーしかあるまい。

 このうちVWとの「“再婚”はない」(修会長)。かつて提携関係にあった米ゼネラル・モーターズ(GM)とよりを戻す可能性はあるが、今のGMはもはや何もかも与えてくれる優しいGMではない。

 となると、最後の選択肢は、日本の自動車業界の盟主・トヨタ自動車しかない。国土交通省幹部やスズキの主力銀行筋も、そんな見立てをしている。

 実はスズキはGMやVWと提携する以前、危機に見舞われた際に2度もトヨタに支援を請い、救済された歴史を持つ。

 1度目は1950年、「東の東芝、西の鈴木」といわれた日本最大級の労働争議が前年に勃発し、大赤字を計上したときだ。

 初代・道雄社長は当時のトヨタ3代目社長、石田退三氏に2000万円の融資や役員派遣を請い、石田氏もこれを快諾。石田氏はスズキを訪問し、社員を前に「スズキの経営に口を出すつもりはないので、安心して仕事に励んでほしい」と述べたという。

 2度目は1976年、東京で初の光化学スモッグ被害が発生したことを機に排ガス規制が強化されたときだ。スズキはクリアのめどが立たず、絶望的な状況に陥る。最後はトヨタからエンジンを供給してもらい、九死に一生を得た。

 このとき、当時のトヨタ5代目社長、豊田英二氏に救済を依頼したのが、修会長(当時、専務)その人なのだ。「修さんは、英二さんには感謝している」。両氏を古くからよく知る自動車ジャーナリストはこう解説する。

 偶然なのか、スズキとトヨタは、共に自動織機メーカーとして産声を上げ、発祥の地も同じ遠州(静岡県西部地方。現・浜松市)と縁が深い。修会長が同世代で関係も良好といわれる豊田章一郎・トヨタ名誉会長に3度目の救済を請うとしても意外感はない。

トヨタが弱いインドと小型車
スズキを得る魅力

 自動車産業の戦いは今、環境・安全規制の強化を背景に国家間競争の性格を強めつつある。

 規模拡大路線を取って赤字転落の憂き目に遭ったトヨタが再びボリュームを追求することはないにしても、国を背負う業界の盟主としての自覚はあるはずだ。日本の自動車産業の未来を考えたとき、スズキが救済を請えば断るとは考えにくい。

 トヨタにしてみれば、スズキは提携相手としても魅力的に映るはずだ。スズキは世界で戦える小型車と、世界4位の巨大市場に浮上するインドでの圧倒的シェアを持つ。VWもそこに目を付けていたほどで、トヨタが自前では苦戦している商品サイズと市場を手中に収めることが可能だ。

 本誌は9月下旬、修会長にトヨタとの新たな提携はあり得るか、単刀直入に真意を尋ねた――。

アナリスト4人が大胆評価!
「生存確率」が高いのは?

 日本の自動車メーカーは数が多過ぎる──。世界を見渡しても、一国に乗用車主体のメーカーだけで8社が乱立しているのは異様な光景だ。

これまで8社が併存できたのは、旺盛な国内市場があったことはもとより、各社が商品や技術、戦い方で差別化し、独自の進化を遂げたことと無縁ではない。

 今回の特集では、長年、自動車業界をウオッチしてきた有力アナリスト4人に、日系メーカーを五つの物差し(経営者、商品、技術、社交性、将来性)で大胆に評価してもらった。“定量分析”にめっぽう強い彼らだが、普段から密接なコミュニケーションを取っているからこそ分かる、各社のカルチャーや特異性、独自性をあぶり出すため、あえて“定性評価”にこだわった。

 最も興味深いのは、「経営者」の評価。スズキについては、鈴木修会長・俊宏社長の双方を評価対象とするよう依頼したのだが、それでも、4人そろって『カリスマ的統治』と回答。日産自動車のカルロス・ゴーン会長兼社長も同様だが、「カリスマというよりも独裁的」と評する声も。

 意外なことに、「ホンダイズム」「スカイアクティブ」に代表されるように、唯我独尊の企業イメージがあるホンダ、マツダは『民主的統治』となった。創業家出身の豊田章男・トヨタ自動車社長や、米国躍進の礎を築いた吉永泰之・富士重工業社長の評価は割れた。

 自動車メーカーの肝である「商品」「技術」については、『芸術性が高い』『イノベーティブ』となったのはマツダや富士重くらい。世界的にスモールカーが主流となる中、各社のオリジナリティは埋没しているといえるだろう。

 国内市場の縮小、環境規制の高まり、異業種参入──。自動車業界が激動期に入った今、8社体制が終焉を迎えることは間違いない。

その“生存確率”を予想する上で目安になるのが、「将来性」に対する評価だ。ここではトヨタの評価が抜きんでており、「ヒト、モノ、カネ、技術といった豊かな経営資源を持っている」(バークレイズ証券の吉田氏)。圧倒的シェアを持つインドでの存在感、節約精神が買われてスズキも好評価だった。

 業績絶好調の富士重に対して、複数のアナリストが「未開領域が減り、伸びしろがない」と、ピリリと辛口評価も相次いだ。三菱自動車、ダイハツ工業に至っては、「将来性」のみならず、総合的に見て渋い評価が並び、黄色信号がともる結果になった。

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