投資信託にも、株の信用取引のように、実際の額の2倍、3倍の額を運用しているのと同じ効果を持つ、レバレッジの利く商品があることをご存知でしょうか。しかも、株と違って追い証が発生しない、また信用取引の期限よりも長期間運用することができるものがあります。
追証が発生せず6カ月以上運用ができる投資信託
この「ブル・ベア型ファンド」は、2014年あたりからレバレッジの高倍率競争が激化しています。
野村アセットマネジメントが運用する「野村3.5倍ブル・ベア」(2014年6月設定)を嚆矢として、SBIアセットマネジメントが「SBI日本株3.7倍ブル(同3.7倍ベア)」(2015年2月設定)楽天投信投資顧問の、「楽天日本株4.3倍ブル」(2015年10月設定)などが続きました。
まず、簡単に「ブル・ベア型ファンド」の特徴を見ていきましょう。
投資信託ではあるものの、ハイリスク・ハイリターンのため、中・長期の資産形成に向きにくく、ポートフォリオにも組み入れにくい商品です。歴史は比較的古く、1990年代からある運用手法で、90年代商品が出た当初は、ハイリスク・ハイリターンなので、現在のように簡単に購入できませんでした。
「ブル・ベア型ファンド」の「ブル」とは、牡牛(bull)が角を突き上げるイメージから、上昇相場を表し、相場に対して強気の見方を意味します。反対に「ベア」とは、熊(bear)が背中を丸めるイメージから、下落相場を表し、相場に対して弱気の見方を意味します。
つまり、今後相場が上がると思えば「ブル型」、相場が下がると思えば「ベア型」を購入し、自分が予想したとおりに相場が動けば、大きな利益が得られる投資信託です。日本株のほか、国内債券(ベア型のみ)、外国株式、為替、金などを対象としたブル・ベア型投資信託があります。
そして、そのブル・ベア型のなかでも「レバレッジ」を効かせる投資信託というのは、先物取引を活用することで、基準価額が日々の相場の値動きの2倍や3倍の値動きをすることになる投資信託です。
下の表は日本株を対象としたブル型投資信託で、かつレバレッジ2倍以上のものをまとめたものです。
(楽天投信投資顧問)4.3倍2019年6月14日2位SBI日本株3.7ブル
(SBIアセットマネジメント)3.7倍2018年2月5日3位野村3.5倍ブル・ベア(日本株3.5倍ブル)
(野村アセットマネジメント)3.5倍2016年6月8日4位楽天日本株トリプル・ブル
(楽天投信投資顧問)3.0倍2019年6月14日5位ダイワ・ブル・ベアファンドIII
(ブル2.5倍日本株ポートフォリオIII)
(大和証券投資信託委託)2.5倍2015年11月13日5位日本株2.5ブル・ベアオープンII
(日本株2.5ブル・オープンII)
(三菱UFJ国際投信)2.5倍2016年4月20日5位YOURMIRAI日本株マキシマム・ブル
(三井住友アセットマネジメント)2.5倍2016年11月30日8位日本トレンドセレクト:ハイパー・ウェイブ
(日興アセットマネジメント)2.0倍2020年1月14日8位新光Wブル・日本株オープンIII
(新光投信)2.0倍2018年2月27日 ※データは2015年10月9日時点 ETF(上場投資信託)は除く
もっとも高倍率の商品は、楽天日本株4.3倍ブルです。この投資信託は、日本株の株価指数を対象とした先物取引を運用のしくみの中に取り入れて、日々の基準価額の値動きが、国内の株式市場の値動きに対して概ね4.3倍となることを目指して運用されます。基準価額の変動を4.3倍にするために、投資信託の純資産総額の概ね4.3倍程度の株価指数の先物取引を実行します。
計算に注意! 3倍のレバレッジ投資信託は対象の指数に3倍を掛けても基準価額とイコールにはならない
ここで話をわかりやすくするために、日本株の株価指数の3倍の値動きをするレバレッジの商品があるとしてその仕組みを説明しましょう。
3倍のレバレッジがかけられているので、株式市場の上昇時に基準価額は大幅に値上がりするいっぽう、株式市場の下落時には当然基準価額は大幅に下落します。まさにハイリスク・ハイリターンです。たとえば、株式市場が1日で10%上昇すれば、基準価額は10%×3で30%上昇し、反対に株式市場が1日で10%下落すれば、基準価額はやはり30%下落します。
仮に数字をあてはめて考えてみましょう。この投資信託は日本株の株価指数に対して3倍のレバレッジがかかっており、基準価額は日々の株式市場の値動き(指数)の概ね3倍程度になることが決まっています。
まず、基準日の基準価額を100として、レバレッジをかけないときの値上がりを考えます。
1日目に株式市場(指数)が10%上昇すると、同じ比率で連動するので、100×1.1=110になり、
2日目に株式市場(指数)がさらに10%上昇した場合の基準価額は、110×1.1=121になります。
つまり、基準価額は2日間で100から121になり、21%上昇したことになります。
これはレバレッジをかけない場合の値動き、株式市場(指数)の値動きです。
さて、ここでレバレッジ3倍に戻りましょう。3倍になるように決まっているということは、10%×3=30%上昇
もとの基準価額が100なので、100×1.3=130 これが1日目の基準価額です。
2日目にも10%上昇すると、これにさらにレバレッジ分の3倍をかけるので、10%×3で30%上昇します。
1日目の基準価額が130なので、130×1.3=169 これが2日目の基準価額です。
つまり、2日間でレバレッジ分の効いた基準価額は100から169になり
69%上昇したことになるのです。――(b)
株式市場は、2日間で21%(a)上昇して、単純にそれに3倍をかけて、21%×3で63%上昇すると錯覚しがちですが、一日ごとの値動きに対して3倍ずつレバレッジがかかる、つまり、1日目の値上がりの3倍、次の日の値上がりに3倍というふうに積み上がっていくために、(b)のような計算になることに注意して下さい。
3倍のレバレッジ投資信託の基準価額の値下がりは49%
値下がりした場合も、一日ごとの動きに毎回3倍の倍率がかかっていくという決まりなので、同様の値動きになります。
基準日を100として、1日目に株式市場(指数)が10%下落した場合、
レバレッジをかけないときは基準価額は100×0.9=90になり、
2日目に株式市場(指数)がさらに10%下落した場合の基準価額は、90×0.9=81になります。
つまり、基準価額は2日間で100から81になり、19%下落したことになります。――(c)
これはレバレッジをかけない場合の値動き、株式市場(指数)の値動きです。そして、レバレッジ3倍の場合です。
1日目に株式市場(指数)が10%下落すると、さらにレバレッジ分の3倍をかけるので、10%×3で30%下落します。もとの基準価額が100なので、100×0.7=70 これが1日目の基準価額です。
2日目にも10%下落すると、これにもレバレッジ分の3倍をかけるので、10%×3で30%下落します。
1日目の基準価額が70なので、70×0.7=49 これが2日目の基準価額です。
つまり、2日間でレバレッジ分の効いた基準価額は100から49になり51%下落したことになります。――(d)
つまり指数自体は約20%しか値下がりしていないのに、投資信託の基準価額は約半分の価格になるのです。株式市場は、2日間で19%下落(c)して、単純にそれに3倍をかけて、19%×3で57%の下落という計算ではないので注意して下さい。
レバレッジ商品はトレンドが出たら買うべき。もみ合い相場では旨味がない
このように、究極のハイリスク・ハイリターン型の投資信託とも呼べるブル・ベア型商品ですが、株式市場がもみ合っている状況にも弱いという欠点もあります。
たとえば、株式市場(指数)が
・1日目 5%上昇
・2日目 4.76%下落
・3日目 5%下落
・4日目 5.26% 上昇したとします。
レバレッジがかかっていない場合、基準日の基準価額を100とすれば、
・1日目=105
・2日目=100
・3日目=95
・4日目=100 というもみ合いの動きとなります。
この時レバレッジが3倍かけられている投資信託の基準価額は
・1日目=115(5%×3倍)
・2日目=98.6(-4.76%×3倍)
・3日目=83.8(-5%×4.3倍)
・4日目=97.0(5.26%×4.3倍)という動きになります。
つまりもみ合い相場では、大きな数字の変動がなく、倍率の強みを発揮できないことになるのです。
信託期間があることに注意が必要。余裕資金で投資は短期がおすすめ
また、ブル・ベア型投資信託には信託期間(投資信託が運用される期間。信託期間が終われば保有口数に応じた償還金が返還される)があります。
野村3.5倍ブル・ベア(日本株3.5倍ブル)は信託期間が2年です。このように信託期間が短い商品もあるので注意しましょう。
なお、大和証券投信委託の「ダイワ・ブル・ベアファンド」、三菱UFJ国際投信の「日本株2.5ブル・ベアオープン」、新光投信の「新光Wブル・日本株オープン」などは、末尾にIやIII等の番号がついています。違いはなにかといえば、同じ投資信託で期限ごとに番号を付けて設定しているだけで、末尾の数字によって商品そのものの性質が変わるわけではありません。
倍率が2倍で信用期限6カ月と短い
また、ETF(上場投資信託)にもレバレッジ型商品があります。ただし、注意すべきなのは以下の3点です。
(1)レバレッジは2倍に過ぎないこと
(2)信用取引を活用して実質6倍強のレバレッジをかけられるが、追い証が発生し、強制決済もありうること
(3)制度信用の場合は6カ月という期限が設けられている
個別株式を含めた売買代金ランキングでも日々トップをとることも多い「NEXT FUNDS日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信」(1570)などが有名です。
いずれにせよ、ブル・ベア型投資信託やレバレッジ型のETFは中・長期投資で運用すると指数との乖離が大きくなってしまいます。