数字が大きくなるほど強くなり、最強はB5。逆に、もっとも弱いB0はアクセルペダルを戻しても回生ブレーキがまったく発生しない。まさしくゼロ。ちなみに、スタートスイッチを押したときのデフォルトはB2だ。
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■「回生」か「コースティング」か問題
回生ブレーキは強くなるほど減速エネルギーを電気としてたくさん回収できる。つまり、バッテリーをより多く充電できる。充電量があれば、その電力でエンジンの負荷を軽減できるので省燃費につながる。
一方、回生ゼロはアクセルペダルを完全に戻しても回生による減速がない。スーッと惰性で走り続けるコースティングと同じ状態。コースティングは欧州の純エンジン車やマイルドタイプのハイブリッド車(HV)が多く採用している。アクセルオフで自動的にクラッチを切り、エンジンをアイドリングか停止にして惰性走行する機能だ。MT車で走行中にクラッチペダルを踏み込んだままかギヤをニュートラルにするのと同じで、日本語では惰行とか滑走などといわれる。

●パドルシフトはコラム固定だった先代からステアリングホイール固定に変更。市販車は走行中にステアリングをラリー車のようにグルグル回すことがほぼなく、コラム固定より操作しやすいという開発陣の判断によるものだ。先代ユーザーからも「ステアリングから手を放したくない」という声があったとか
で、減速回生が可能なクルマで公道を普通に走るとき、アクセルオフで積極的に回生させるのとコーティングを使うのではエネルギー効率はどちらが高いのか? アウトランダーPHEVでいえば、回生レベルB5でちょっとのアクセルオフでも回生ブレーキをグイッと効かせて電気を稼ぐのと、B0にして下り勾配などではスイ~ッと惰行で距離を稼ぐのでは、燃費・電費のうえでどっちがトクなのだろう。
じつは筆者、以前からこの点がギモンだったのだ。そこで、新型アウトランダーPHEVの開発に携わったその道のエキスパートに教えを請うた。すると…。
「私の考えを言いますね。コースティングって、使うところは高速道路なんです。回生はクルマの力学的な運動エネルギーを電気エネルギーに変換するので、回生する際には必ず変換ロスが出ます。運動エネルギーは運動エネルギーのまま使えばロスがない。そのときにフリクションをゼロにして、なるべく運動エネルギーを使い切るのが一番いいはずです。ただ、それは日常的な使い方では限られてしまうのであまりないんですけど。
高速道路では、回生で止めてしまって(ちょっとしたアクセルオフで減速してしまい)またアクセルを入れるよりも、合理的なんじゃないかと思います」(三菱自動車工業 EV・パワートレイン技術開発本部 半田和功さん。以下同)

●自身もアウトランダー乗りである半田和功さん(写真右)。「セーブモードとかチャージモードとか…じつは知るほどに奥が深くて(笑)。工夫して操作する楽しみがあるクルマだと思います」
なるほど。変換ロスという点では、例えば蓄電池もそう。電気を化学反応でカタチを変えてためるバッテリーよりも、電気を電気としてためるキャパシタのほうが高効率と聞く。クルマが走行して生まれる運動エネルギーは、そのまま運動エネルギーのカタチで惰行に使ったほうが、効率がいい。それに、パワートレーンを電動化する最大の目的は、トータルで燃費や電費を向上させることなのだ。回生でバッテリーに電気をためることは目的達成のための一手段にすぎない。
「私もアウトランダーに乗っています。市街地で使わないかというと、じつは使うんですよ。市街地でも回生ゼロにしてコースティングして、止まる寸前にB5にしてとか(笑)。
■ブレーキを踏めば同じ…じゃない

●アクセルペダル操作で加減速の調整が可能となるイノベーティブペダル オペレーションモードスイッチ(左)。右側のスイッチはEVモードセレクター
それを聞いて、ギモンがもうひとつ。減速時に回生を積極的に取る場合、「B0のままフットブレーキ」じゃまずいのだろうか? HV系のフットブレーキは回生ブレーキと油圧ブレーキが協調制御になっている。両者の割合は運転状況によって異なるが、急減速でなければ普通のブレーキ操作で回生ブレーキが優先される。
さらに、新型アウトランダーPHEVには「イノベーティブペダル オペレーションモード」(以下イノペダル)という新アイテムがある。アクセルペダルだけで加減速できる、いわゆるワンペダル制御だ。これをオンにすると、アクセルオフではB5相当の強い減速Gが得られる。減速のタイミングを見計らい、「B0のままアクセルオフでイノペダルをオン」にすれば、パドルをB0からB5まで忙しなく操作しなくても同じくらいの回生が取れるのではないだろうか。
「パドルでもフットブレーキでもイノペダルでも、うまく操作すれば同じだけ回生は取れます。ただ、走行中はパドル操作のみ油圧ブレーキがかかりません。

●「イノベーティブペダルは運転疲労の軽減に寄与。パドルシフトは『いかに回生を稼ぐか(充電)』と、似ているようで用途は違うんです」と半田さん
減速時の回生はクルマが停止する最後の最後まで、回生レベルセレクターを駆使して運動エネルギーを残さず電気として回収する。これがアウトランダー乗りの極意なのだ。
そこには開発陣のある思いが込められていた。
「先代のアウトランダーPHEVでパドルの要否を(社内で)議論したときも『ブレーキ踏めば同じだろ』と言われたものです。しかし、実際には多くのユーザーが信号で止まるときも狙いすましてパドルを操作し、ブレーキペダルを踏まずに『回生だけで止まれた』ことに、ちょっぴり得した感とうまく操作できた喜びを感じていました。私もそのひとりです。
自分で操作する。自分で試せる。自分に合った操作がある。使いこなしている。

確かにセコい。でも楽しい。普通の道を普通に走る日常領域でも、電動化とクルマを操る楽しさは両立する。今、アナタのまわりで信号待ちしているアウトランダーPHEV、パドルをパタパタしてませんか?
〈文=戸田治宏〉