開催地がフランクフルトからミュンヘンへ移動してから2度目の開催となるIAA MOBILITY 2023が、9月5~10日に開催された。
2021年9月に開催された前回は、コロナ禍ということもあって会場は閑散としていた。
今年は世界中から企業やメディア、観客が集まった。750もの出展社が300を超えるワールドプレミアを実施。82カ国から3700人以上のジャーナリストが集まり、来場者も50万人以上となった。オープンスペースには、9月9日(土)だけで10万人以上の人出があったというから、6日間のモーターショーとしては大成功を収めたと言っていいだろう。
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コロナ禍以前には、フィジカルなイベントとしてのモーターショーの意義が疑われ、メジャーな自動車メーカーが国際モーターショーへの出展を次々と取り止め来場者も減少の一途を辿っていた。そこでクルマだけにとらわれない「新しい形のモビリティショー」を目指したミュンヘンIAAは、メッセ・ミュンヘンはサミットとしてBtoBに特化し、自動車メーカーのほか、サプライヤーやIT企業、バッテリーメーカー、各種スタートアップ企業、大学、研究機関などがブースを構え、カンファレンスを実施。会場内に設置された4つのステージでも、連日様々なテーマでプレゼンテーションやパネルディスカッションが行われていた。
一般公開初日の9月5日には、ドイツのオラフ・ショルツ首相が来場し、VDA(ドイツ自動車工業会)のヒルデガルト・ミュラー会長、バイエルン州のマルクス・ゼーダー首相、ミュンヘン市のディーター・ライター市長とともに、開会式典に出席。エレクトロモビリティやサーキュラーエコノミー(循環経済)のさらなる発展を誓った。
その後行われたカンファレンスには、ルフトハンザドイツ航空やeバイクメーカーのリーゼ&ミュラーのCEO 、DB(ドイツ鉄道)の取締役などが登壇し、それぞれのモビリティの役割や今後の変化、目指すべき方向について熱い議論が交わされた。
一方、オープンスペースは、完全にB to Cの空間として機能した。各自動車メーカーは、サミットよりも数段大規模でデザインも凝ったブースをミュンヘン中心部のレジデンツやマックス・ヨーゼフ広場、ヴィッテルスバッハ広場、ケーニヒス広場などに展開。最新のコンセプトカーや話題のモデルを多数展示したほか、試乗コーナーも用意し、来場者を楽しませた。
驚いたのは、メルセデス・ベンツの試乗コーナーの試乗車リストに、コンセプトカーのビジョンEQXXの車名があったことだ。ビジョンEQXXは、究極的な高効率化を目指して開発された、将来技術の実証デモンストレーションモデル。いかに実走行が可能とはいえ、一般来場者が試乗できる機会を設けるとは、メルセデスも太っ腹である。
BMWグループは、サミットにはBMWブランドのBEVやPHEV、FCEV、そして防弾使用車などを展示し、マルチパスウェイの方向性をアピールしていたが、オープンスペースはBEVのみを展示。BMWブランド(モトラッド含む)およびミニ・ブランドの最新コンセプトカーと最新BEVをお披露目し、来場者に対して電動化への取り組みを強く印象付けていた。現場で会ったBMW AGの広報スタッフも「ここは完全に一般消費者向けの展示」と語っていた。
オープンスペースのポルシェブースで、ベルリンから来たという年配の男性に声をかけた。メッセと街なかに会場が分かれていることについて、一般来場者がどんな印象を持っているか知りたかったからだ。
「とてもいいと思う。
自動車メーカーの出展は、前回同様に今回もドイツ系が中心だった。ルノーやフォードなどもオープンスペースを中心にブースを構えていたが、2年前より明らかに目についたのは、中国系メーカーだ。
すでにヨーロッパ市場に上陸しているBYDや東風劉州汽車、AVATR(アバター)などが、オープンスペースを中心に最新BEVを展示。NIOもサミットでデザインワークショップを行うなど存在感を示した。
ドイツでは、この8月にBEVの販売台数が前年同月比で170.7%も増加したが、これはカンパニーカー向けのEV購入インセンティブが8月末で終了したためであり、今後は伸び悩むと見られている。他の欧州諸国の多くも同様の状況である。今春に欧州委員会が、「eフューエルを使用する場合に限り、2035年以降もICE搭載車の新車販売を容認する」と方針を変えたこともあって、BEV推進派のメーカーも、若干トーンダウンした様子が見られた。
それだけに、日本メーカーが今回のIAA MOBILITYにいないことに大きな違和感を感じた。今こそ日本メーカーだからこそ示すことができる、未来のモビリティの可能性やカーボンニュートラルに向けたビジョンを示してほしかったのだが…。
〈文と写真=竹花寿実〉