ネットの普及により新聞を購読する家庭が少なくなったといわれるが、かつて家のテーブルの上に新聞が置いてあるのが当たり前だった頃、その新聞はかなり高い確率で、最終面を表に逆折りにしてあったはずだ。そう、その日どんな高尚なニュースが載っていようと、われわれ昭和の子供たちが新聞を必要とした最大の目的は、一番後ろのテレビ欄に他ならなかった。
何時から何チャンネルで何をやっているか、このテレビ欄さえ見ればすべて書いてあり、クラスの友だちのほとんどがそれを記憶し、夕方の楽しみに思いをはせながら学校に行っていたものだ。

そんなあの頃の時間の地図ともいうべきテレビ欄のみを時代順に網羅した『ザ・テレビ欄』(ティー・オーエンタテインメント)という本が話題になっている。今年春に出した第1弾では、1975年から1990年までの15年間分を集める形で発売するや、この時期に子供時代を過ごした30~40歳代から団塊の世代を中心に大きな反響を呼んだ。そして6月に1991年から2005年までの分を掲載した『ザ・テレビ欄II』も発売、さらにこのほど、テレビ草創期の1954年から1974年までをカバーした『ザ・テレビ欄0』が矢継ぎ早にリリースされた。

本の構成は、年代順に並んだ新聞のテレビ欄をずらりと掲載したところに、ポイントとなる番組を短く解説を加え、その年ごとの傾向を微妙なツッコミを加えながらひもといていくという形。掲載されているテレビ欄は各年ごとの番組改編期に当たる4月と10月の第2週目の全曜日のもの。
これはこの時期に多いスペシャル番組が多発する第1週を外し、できるだけ日常のテレビ習慣を思い起こしてもらおうという狙いからだ。

ボリューム感あるわりにシンプルな構成だが、これが書籍化まで行き着いた経緯について、編集に当たったティー・オーエンタテインメントの方は、「子供の頃どんなテレビを見ていたかを知りたくなって、ネットで検索したところ、ほとんど落ちていて見ることができませんでした。それでも少しだけ見つかったテレビ欄を見ているとそれだけで楽しかった。これをまとめて本にすれば、欲しがる人はきっといるはずと思い企画しました」と語る。その狙い通り、筆者のようにテレビ欄を眺めているだけでお腹いっぱいになれた昭和育ちのテレビっ子には、この上ないおやつとも言える本だ。

構成がシンプルな分、楽しみ方は読み手側の志向にゆだねられる。
本の冒頭では「この本の使い方」と題して公共施設の説明書きのようなイラスト入りで紹介されているが、ここは一つ、少し濃い楽しみ方を紹介したい。それは『ザ・テレビ欄0』の「カラー」探しだ。

日本でカラー放送が始まったのは昭和30年代。よく、東京オリンピックの開会式が最初と思い込みがちだが、1960年10月8日のNHKと日本テレビの欄に4カ所、「カラー」のロゴが確認できる。そして1965年、昭和40年代に入るのを境に一気にカラーのロゴが増殖していく様子が見て取れる。

で、今度はそのロゴがいつ頃消えたのかをたどっていくと、1971年10月が境界線になっていることがわかる。
その代わり今度は丸印を半分黒く塗りつぶした白黒を示すロゴが散見されることになる。これが正確な境目かははっきりしないが、少なくともテレビ史の流れがこのように手に取るように図式化されているのは極めて興味深い資料集と言えるだろう。

一方、こうして眺めていくと、昼間の番組にもかかわらずいわゆるピンク系のどぎつい番組タイトルが堂々と並んでいたりと、一昔前のテレビの意外な自由さが再発見できる。編集担当の方は「最近のテレビの企画が画一的なのは、いろいろな制限があるからなのでしょうね。クサいものにはフタをせず、本質を見極めて有害か無害か、見た人が判断をする、そんなメディア・リテラシーを持った人が日本にもっと増えれば、いい意味で刺激的な番組がもっと増えるのではないかと思います」と語ってくれた。

テレビが最も熱かったあの頃のテレビ欄は、記憶の中の時間の地図だけでなく、時代の熱気を計る温度計でもあったのかもしれない。

(足立謙二/studio-woofoo)