もちろんこれ、オカルトであるわけもなく、理由を聞かれると、「味噌汁で空気があたためられて……」などという人は多いと思うが、実際、きちんと説明できる人は少ないのではないだろうか。
また、ご飯茶碗が動くことやスープカップが動くことなどはなく、この現象が起こるのは、きまって「味噌汁のお椀」というのも気になる。
いったいなぜなのか。
『読んでなっとく物理の疑問 ~科学の不思議が楽しくわかる~(教えて!左巻先生)』、『読んでなっとく化学の疑問 ~科学の不思議が楽しくわかる~(教えて!左巻先生)』、『いまさらきけない物理の疑問 身近に感じる不思議編(教えて!左巻先生)』(技術評論社)等、多数の科学系著書がある法政大学生命科学部環境応用化学科の左巻健男教授に聞いた。
「条件としてはお椀の底の『ふち』が水にぬれていることが必要ですね。そうするとテーブルとふちはピタッと接します。お椀の中には熱い味噌汁。そこでお椀の底のふちの内部の空気が温められて膨張します。その空気がお椀を少し上に持ち上げます」
ふちが水にぬれているだけでも、お椀のふちとテーブルとの間の摩擦が小さくなり、動きやすくなるそうだが、「膨張した空気で持ち上げられてさらに摩擦が小さくなります。そこでほんの少しの力で押してもスーッと動きます」と左巻先生は説明する。
では、なぜいつでも「味噌汁」ばかりが移動するのだろうか。お椀の厚さ・底のかたち・軽さなどが影響しているのだろうか。
「お椀のふちが高くて、内部の空気がご飯用のお茶碗などより多いから、温められて空気の膨張の効果が出やすいのですね。
ということは、もし、同じお椀に味噌汁以外のもの、たとえば熱いご飯を盛ったり、スープを注いでも、同じ現象が起こるということ?
「起こります」
ちなみに、自分の場合、かつてこたつ机で食事をしていたときには、この「味噌汁移動現象」がよく起こっていたのだが、いまのダイニングテーブルとお椀では、なかなか起こらなくなっている。
お椀の素材や形状・テーブルの素材や表面の状態などによって、摩擦が大きくなってしまうのだろうか。
ちなみに、この「味噌汁移動現象」に近い例が、他にはありますか、と問うと、
「浮上で摩擦を小さくしてスピードを出す乗り物(ホバークラフトや今後のリニアなど)がありますね」と左巻先生。
他にも、身近で見られる様々な不思議について関しては、先生の著書に詳しい。もう一度勉強してみようかな。
(田幸和歌子)