「救急車が通ります! 止まってください!」「右折します!」

最近、救急車や消防車が通る際、サイレンに加えて、スピーカーを使用して大声で注意しているのをよく耳にする。

あるときは、「緊急車両が通ります!」「どいてください!」「歩行者の方、交差点に進入しないでください!」「道をあけてください!」「道をあけなさい!」と、ややヒステリックに思えるくらい大声でひっきりなしに絶叫していたほどだ。


救急車や消防車、パトカーなどのサイレンは本来、大音量で周囲の車両や人々に、その存在や接近を知らせ、警告するもの。これは誰もが知っていることで、サイレンだけで十分周囲に伝わるはずなのに、なぜ「サイレン+拡声器」のセットが当たり前になっているのだろうか。
もしかして、サイレンの音に慣れてしまった人たちが、すぐに止まらなかったり、道をあけなくなっているなどの状況があるのだろうか。
東京消防庁の広報課に聞いた。

「統計はとっていないので、拡声器の使用が増えているかどうかはわかりませんが、拡声器自体は昔から恒常的に使っていました。また、特に近年、強化しているというわけではありません」
ただし、「交差点・横断歩道など、場所によっては、事故を未然に防ぐため、徒歩の方に拡声器で呼び掛けること」などが強化されていることはあるそうだ。


サイレン+拡声器での呼びかけ自体は昔から行われていたようだが、それにしても、やっぱり最近は多い気がする。
これについて、ある消防関係者はこんな話をしてくれた。
「サイレンの音に対する慣れというよりは、今は車内で、あるいは歩行中に大音量で音楽を聴いている人などが多く、サイレンの音にすぐに気づかない人が増えていることがあるかと思います。また、車の遮音性があがっていることも影響しているかもしれません。人命がかかっているため、一般車両や歩行者がなかなか道をあけてくれないときには、衝突事故を防ぐために拡声器で注意を促し続けることになってしまうんですよ」

ところで、緊急車用サイレンの音量は保安基準で定められており、その音量以下では緊急走行できないのだが、消防署周辺や深夜の住宅地など、出動回数の多い場合には、ときどき問題になることもある。
そこで、今では「住宅モード」として、サイレンの音色を損なわず音量も最低限確保した上で、周波数等を調整したソフトな音質のサイレンを鳴らす機能もあるらしい。


ひっきりなしに緊急車両が行き来する場所では、確かにサイレンの音は気になる人も多いだろう。
ただ、様々な音が溢れる現代では、そのうち「サイレン+拡声器」が緊急車両走行の標準になってしまったりして……と不安な気もします。
(田幸和歌子)