Part123とゲーム中のテキストメインで喋ってもらいましたけど、今回はゲームシナリオライター適性とはないか、この先ゲームシナリオはどうなっていくかなどなど。さあ、感動の最終回ですよ!
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ただの人間タイプライター

米光 ゲームシナリオを書くのに向いているのはどういう人なんだろう? どういう才能が必要なんだろうね。

とみさわ 僕はゲームシナリオのことを「物語だけ書く」というふうに考えたことはないなあ。ゲームシナリオは要するにイベント作りだと思う。「桃太郎伝説」はリメイクだから僕がゼロから作ってるわけじゃないんですけど、村のマップはどういうレイアウトがあって、悪い鬼が隠れている部屋はどの位置にあって、どういう風に情報を聞いてそこにたどり着いていくのかということを考えるのがゲームシナリオかな。でもそれはゲームデザインでもあるわけですよね。それは常にセットで考えるわけですから。
米光 感覚的にあまり分けられることではないよね。
とみさわ 配置を全部頭の中で考えて、こいつはどういうセリフを喋るのが効果的だろうか、どのセリフならウケるだろうかということを考える。そこを分けては出来ないですね。その配置をデザイナーに任せといて、自分はそこにセリフだけ乗せるって言ったら多分ギクシャクしちゃうと思うんですけどね。
米光 何でそのセリフを言うヤツがこんなに奥まったところにいるんだよ! ってなる。
とみさわ そうそう。このセリフを先に聞かせなきゃいけないんだから、こうしなきゃ!て喧嘩にもなる。

麻野 ちょっとずれるけど、「弟切草」のときのことを思い出した。脚本家の長坂秀佳さんが、「色んな選択肢が浮かんでも、テレビや映画だとひとつしか採用できないが、ゲームだと全部生かせるのでうれしい」って。様々な試練を主人公に与えて、その結果を考えるのが好きな人には向いているのかもしれない。
米光 共同作業部分が多い気はするんだよね。こんなにキャラ出せないってプログラマーと話しあったり、もちろんシステムとも関わる。でもいまはゲームシナリオライターってシナリオだけぱーっとやって後は任せるとかあったりするのかな。
とみさわ どうなんでしょうね。ありそうですけど。
麻野 まぁ分業化しているから。ライターさんから口をはさまれるのは嫌という人もいるんじゃない? 
米光 生粋のシナリオ職人で、「俺のシナリオは一文字も変えるな!」って人だとつらいのかもしれない。
麻野 多分、そんな人はもういないと思うよ。
米光 いないかあ……。

麻野 この前、あるシナリオ集団の社長さんが、「手間がかかるから、もうリテイクはさせないでくれ」。「リテイクさせるんだったらストーリーを全部赤で指定して直せ」と言うのを聞いたんだよ。そうすると直された文字を打つだけで済むから楽だって話。でも、「それじゃライターの意味がないだろ」と思ったって話を、以前mixiに書いたんですよ。
米光 書いていたねぇ。
麻野 そうしたら米光さんは、「でも僕がシナリオを発注する立場だったら、そういう手足になってくれる人の方が良かったりする場合もある」って。それも1つの仕事の形なのかもしれないけれど、どうもレベルが低すぎるんじゃないかなと思って。
米光 ケースバイケースだと思うけどね。そういう考えが重宝される場合もあるらしいよ。とみさわ へえ、ほんとに?
麻野 そう。それにビックリしたの。エロゲとかで多いらしいんだけど、「シナリオを3キロバイト書いてきて」って頼み方をするらしいね。
「あと0.5キロバイト増やして」って言われたら、「やっほう」とか「いい天気ですね」とかで文字を埋めてもOKらしいのよ。
米光 「なでなで」がすごく使いやすいらしいよ。
麻野 「このキャラクターはツンデレだから、もうちょっとツンの部分を多くして」って指示だったらまだわかるんだけど、そんな指定すらないの。
とみさわ 目方でシナリオ売っているんだ。
麻野 そんなのもうただの人間タイプライターでしょ。こういうことがまかり通っている世界もあったりするから。ここまでくると、嘆かわしいを通り越して、意味がない、と思う。
米光 何のための作っているんだろってなるよね。


感情のジェットコースターを演出

とみさわ 会社に居た時に、ゲームデザイナー、シナリオライター志望の若者が持ってくる企画をよく見ていたんですけど、もう3枚4枚にわたって「西暦XXXX年、魔王が来る」みたいな(笑)。
米光 俺もそういうの見たことがある。原稿用紙600枚ぐらいで、ファンタジーの神話設定がズラーって書いてあって、丁寧に読みはしないんだけどワーッと見て行ったら最後に「第2部に続く!」って(笑)。
麻野 ははは。
何考えとるん。
米光 これを俺に見せてどうしろと。この神話世界を共に語れっていうのかー!(笑)。「どんなゲームなの?」って聞いたら「ドラクエみたいな」って。「そっかー……」って。
とみさわ で、これはどういうゲームなの? というのが全然見えてこない。だから、その彼としては、自分の考えた物語や設定を「さあゲームにしてくれ」と想っているんでしょうね。それはゲームのシナリオライターじゃないよ。本当はゲームシナリオライターはゲームデザイナーなんですよ。
米光 「トレジャーハンターG」のプロデューサーが坂口(博信)さんだったんだけど、「俺を7回泣かせるシナリオをもってこい」って。
麻野 どっかのドラマみたいな(笑)。
米光 俺も素直に「7回かあ……」って。
文字だとやっぱりゲームのシナリオとしては説明できなくて、7回泣かせようとして、1本話作ると、ずーっとジメジメしちゃって、すごいダメだしされた。
麻野 総ゲーム時間を20時間としても、7回泣かそうと思ったら3時間に1回は泣くわけでしょ?
とみさわ そりゃじめじめするよ(笑)。
米光 起伏をつけろって意味なんだけど、それを俺がわかってなくて。馬鹿馬鹿しいシーンをいくつか入れていたら、「こういうのはうまいから笑えるシーンを増やせ」と言われて、そこか泣けるシーンにもっていけばジメジメしなくても泣ける。感情のジェットコースターを演出する。
麻野 今後テキストってどうでしょうね。今まで通りいくのかな。サウンドノベル系の最高峰は「ひぐらしのなく頃に」だと思っているんだけど。RPGのような王道ゲームにおけるテキスト表現は吹き替えにとって代わられそうな気がするんだよなあ。
米光 いつか人工合成で喋っているかもしれないね。初音ミクが進化して。
とみさわ 初音ミクかあ……。

麻野 でも、それで感動とかあるのかな。声優さんによる人間の演技って、やっぱり他と替えられないものがあるじゃない。
米光 ミクだって演技うまいかもよ。作る人によって歌唱力も全然違う!
とみさわ でも初音ミク自身のゲームってもうあるでしょ。
米光 声優がミクの声を吹き替えたりしないのかな。
麻野 初音ミクっぽく喋る声優?(笑)。
とみさわ 逆に労力いるよ。だったら声優雇ったほうが早いじゃん!
米光 そっかー。
とみさわ 初音ミクは声優を雇ったり出来ないアマチュアの人たちが、自分で操作をすることで歌わせられるからいいんであって。プロがあれを使って何かを作るぐらいだったら……。
米光 でもいつかコストが変わるかもしれないよ?
麻野 技術が追い付いてしまえば。
とみさわ まぁ、確かにね。


そろそろ人工知能で

麻野 今までに、誰かキャラが喋るゲームを作っている人いたっけ?
米光 僕が「魔導物語」でやっています。ていうか喋らせた元祖ですよ。
麻野 あ、そうか。
米光 それまでガンガン喋るゲームってなかったんですよ。プログラマーが、サンプリングってもんができるって実験して遊んでいたから、それ使って喋るゲーム作りましょうよって。
とみさわ それはスーファミ?
米光 ううん、MSX。だから一瞬しか喋らない。「出たー!」とか。「ダイアキュート!」とか技が出るたんびに叫ぶ、みたいな。
麻野 声優を使ってたん?
米光 いや、地元のアナウンサーと社員。
とみさわ 修正も大変だよね。このセリフ違うわーって思っても、収録したあとだとどうしようもないし。
麻野 ゲームの最後の最後、デバックも済んだあとに、やるんだろうな。2、3日ぐらいで集中して。声優さんを詰め込んでガーッと。
米光 ユーザー視点で言うと、そろそろ人工知能で喋ってほしい。今は作家が物語を全部作ってメッセージもちゃんと用意しているけど、そうじゃなくてキャラクター設定の配置があって、ある種シミュレーションぽいとは思うんだけど。
麻野 なんかネトゲみたいな感じなりそう。見どころは?
米光 言葉は繋ぎ合わせて、パラメータや状況で独自に喋る。この状況で、このパラメータなら、こういう感情がある。あいつを倒したら、こいつは怒っているみたいな、そういうの遊びたいよなぁ。
とみさわ キャラクターセットとかあって、こいつとこいつをこう配置するともう、あとは状況を与えてあげれば喋る。
米光 そういう方向にいってほしいなぁ……。っつか、やっぱ初音ミクですよ、これからは。
麻野 もうそれはええよ(笑)。


「ドラクエ」から初音ミクまで、範囲の広い座談会になりました(笑)。
エキレビライター陣にゲーム作家が3人もいるなら……ってことで始まったこの座談会。かなりの評判でホクホク顔です。
またいつか何かの機会を設けて第二弾を開きたいですね。
そのときは、テーマをもっと狭く絞ってもいいかもなあ。
「堀井雄二さんについて」とか「MOTHER」だけとか「げんしのことば」だけとか……あ、これは米光さんの独壇場になりそうだから却下!(加藤レイズナ)
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