この夏、サラリーマンライターの前川やくさんにインタビューし、八重歯の魅力を伝える活動など、これまでの経歴やその独特のモノの見方を2回にわたって紹介した(リンクはこちら→前編後編)。その前川さんが本日(10月28日)深夜放送(一部地域を除く)の、テレビ朝日「タモリ倶楽部」の八重歯をテーマにした回に出演する。
前川さんはまた、今年12月下旬にも朝日新聞出版から著書『八重歯ガール』を刊行する予定だ。これもいまから楽しみである。
ところで、くだんのインタビューでは、前川さんに剣道についてもたっぷり語っていただいた。ページ数の都合で前回の分には収まりきらなかったのだが、前川さんのテレビ出演に加え、この11月3日には全日本剣道選手権大会も開催されるということで、今回満を持してお届けしたい。
前川さんはここ数年、経験者は多いものの(前川さん自身、小中学校時代に剣道を習っていた)いまひとつ日の当たることが少ない剣道を従来とは違った形でとらえなおし、競技全体の活性化を図れないものかと色々とアイデアを練っているという。来年度の中学校武道必修化も控えた現在、はたして剣道の活性化策としてはどんなことが考えられるのか? このインタビューでは当エキレビ!のライターで、中学・高校と剣道部だったという島影真奈美さんも同席のうえ話をうかがった。
(聞き手:近藤正高 2011年6月11日収録)

■このままでは剣道人口が減ってしまう!?
――前川さんがいま剣道に注目しているのはどうしてでしょう?
前川 剣道も八重歯なんかと同じく原体験としてあるんですけど――わたしも小中学校、剣道やっていたので――、でもそれを取り巻く環境はけっこう逆風が吹いているわけです。競技人口はあきらかに減ってますし、子供たちもわかりやすいサッカーとかに行ってしまう。また剣道って、オリンピックの競技になるとかそういうことから背を向けてるんですよ。柔道が形を変えられてしまったことへの反省があって。だから、このままいくと剣道という競技自体裾野が広がらないどころか、どんどん剣道人口が減っていってしまうかもしれない。でも面白いものだし、やる意義があるものだと思うので、そこはもっと広めたいなと思ってるんですよね。
剣道の雑誌もたしかに出てますけど、内容はやっぱり技術的なことが多いんですよ。それに対して、もうちょっと面白いと思ったり笑えたり、違った視点で剣道をとらえるようなものもあってもいいんじゃないの? と思うんですけど。
――そういう切り口に対するニーズはありそうな気がするんですが。
前川 たしかに剣道経験者ってそこそこ多いですからね。
島影 わたしたちの世代だと「姿勢が良くなるから」「礼儀正しくなりそうだから」と剣道を習わせたがる親が一定数いましたよね。実際、「挨拶する」「防具をまたがない」といったことから、「年長者を大事にする」まで徹底的にしつけられました。
たとえば、休憩時に配られる麦茶はどんなに喉が乾いていてもまずは先生、次に先輩、最後に自分というのがお約束。わたしは女子の先輩がいなかったので「先輩、どうぞ!」ともらってばかりいましたけど(笑)。

■小手が臭かったetc...剣道あるある
前川 でも最近って、われわれが知ってる剣道じゃなくなりつつあるんですよ。たとえば昔って、竹刀は防具の袋の紐部分に差して背負ってましたけど、いまはリュックサック的なものに変わっている。あと、われわれの頃は竹刀は文字どおり竹でしたけど、いまはカーボンなんですね。
島影 わたし、高校の頃にカーボン竹刀を使っていました。
カーボン竹刀は折れにくいし、ささくれもできづらい。竹製のものより圧倒的に手入れがラクなんですよね。「カーボンのほうが竹刀さばきがスムーズ」とかなんとか適当な理屈をでっちあげて、親にねだったような記憶があります(笑)。
前川 昔は、竹刀のささくれが面の隙間から入って死んだ人がいるから、ちゃんとささくれを削ったりしてケアしないといけないんだって、よくそういう話を聞かされましたよね。でもいまは、面も透明なカバーみたいなもので覆われているし、その必要がないんです。おそらくいまなら小手のにおい対策もあるかもしれませんよね。

――小手って、そんなにひどいにおいがするんですか?
前川 そう、使いこんだ小手のにおいって、ケアをしないと大変なことになるんです。
島影 でも、できることってさほどなくて、せいぜい日光消毒か風を通すとかそれぐらい。それで、せっせと日に当ててるうちに色あせしちゃって、年季が入った感じになっていくという……。
前川 胴着に関していえば、われわれの時代はだいたい男子は紺、女子は白でしたけど、いまはどうなんですかね。
島影 どうなんでしょう。高校のときは「女子だけど、あえて紺を選ぶ」のが一時、流行ったりしましたけど。
そのほうが強く見えるから(笑)。女子高だったせいもあるかもしれないんですが、「強そうに見えるかどうか問題」は結構盛り上がった話題のひとつですね。「白の胴着×白いハカマはちょっと子供っぽい」とか、赤胴はアリかナシかとか。
前川 赤胴問題はうちでもありました。それにかぎらず「剣道あるある」ってけっこう多いですよね。竹刀が脇の下に入ったときの息のできなさとか、冬の道場の床の冷たさは半端じゃないとか。そうそう、島影さんは気合を入れるとき、何て叫んでました?
島影 再現しようと思っても、あれは面をかぶらないと再現できないんですよね。
――人それぞれ違うんですか?
前川 そうなんです。こう(竹刀を)構えてるときに威嚇する声は、本当に人によりますね。本当に気合が入ってる人になると2オクターブぐらい違うんですよ。シャラポワの声みたいなもので。
島影 男の子だと声変わりがあるので、キエーッというすごく高いほうに行く人と、すごく低いほうに行く人といて、高校ぐらいになるとそれが極端に分かれてましたね。ちなみに女子高生のあいだでは、キエーッ系は人気なかったです(笑)。多少低めのバリトン系のほうが、他校の女子からは「あの先輩、かっこいいよね」みたいに言われる(笑)。
――これはぼくの勝手な思いこみかもしれませんが、剣道やってた女性には美人が多いという印象があるんですけど。
前川 やっぱり、面をかぶっていることで、面を取ったときのギャップみたいなものもあるんですよ。そこはフェティシズムに通じるものがあると思います。小説を映画化した『武士道シックスティーン』で、女子剣道部員が大勢でただ単に無言で面をつけるシーンがあるんですが、わたしはあの映画のハイライトはあそこだと思ってますから。
――においフェチなんかもいそうですね。
前川 いると思います。小手のにおいをひそかに嗅いだりとか(笑)。そういう側面からとりあげてもいいんじゃないかとは思うんですよね。

■美少女が剣道を救う!?
前川 剣道がいまひとつ人気がないのは、ルールのわかりづらさもあるかもしれませんね。たとえば「面!」って打っても、そこで止まったら一本にはならないんですよ。打ったら、そのまま(前へ)行かないとだめなんです。
島影 かといって走り抜けちゃってもだめなんですよ。
前川 そう、場外反則をとられたりするんです。剣道にはザンシンという言葉があって――残す心=残心と書くんですけど――要は、剣道ってもともとは殺し合いなので、斬ったからといって油断してはならないわけです。
――ちゃんととどめを刺さなきゃいけないみたいな?
前川 いや、ちょっと違いますね。
島影 ええと、万が一相手が生き返って、もう一度かかってきたとしても、対処できる状態じゃなきゃいけないんですよ。「めーん」って打っても、そのまま(前へ)行って背中を向けたままだったら、あなた殺されちゃうよね、みたいな。昇段審査でも、「残心とは何ぞや」みたいな問いがあって答えさせられましたね。剣道の昇段審査には筆記試験があるんです。もちろん実技試験もあるんですが、“技術”だけではなく、「有段者としてふさわしい振る舞い」をしているかどうかまでチェックされる。たとえば、勝ちたいがあまり、相手を突き飛ばすといった行為は人品が卑しいと判断され、不合格になってしまうとか。
前川 だからそういうことも含めて単なるスポーツといえないところがあるんですね。その意味では、運動神経がものすごくいい人だけでなく門戸を開いている部分があると思うんですよ。だからメディアミックスでも何でもいいから、剣道の武道としての本質を損なうことなく、競技人口が広げられればいいなと思うんですけどね。そう言いながら、わたしも剣道は15歳までしかやってないんですけど(笑)。
――やめてからもう20年以上経ってますね(笑)。
前川 だから現代の剣道事情についてはあまりよく知りません。ただ、自分の子供のまわりとか見ていても、とくに剣道が話題になることはないし、少年剣道もたぶんだいぶ減ってるようだし、ましてやマスコミとかでとりあげられることもほとんどない。そう考えると、やっぱり自分がやっていたスポーツだけに、もうちょっとメジャーになってほしいなって気持ちはありますね。ここは、超美少女が出てくるのを待つしかないのかもしれませんが。マイナーなスポーツの戦略として、そういうのってあるじゃないですか。
――あんまりそういう注目のされ方は、剣道協会の人たちなんかは望んでいないかもしれませんけど(笑)。
前川 どうなんでしょうねえ。でもね、剣道をやっている女の子にも強くてかわいい子は絶対いると思うんですよ。剣道のなかだけでやってても地味だというのであれば、異種格闘技戦でもいいし。大山倍達(極真空手の創始者)が「剣道三倍段」という説を唱えているんですが、ようするに剣道は武器を持っている分、空手などほかの武道が対決する場合三倍の実力が必要だと。それが事実だということを示すためにも、かわいくて強い剣道出身の子が、総合格闘家の女性と戦ってボコボコにするっていうのもありだと思いますね(笑)。
(近藤正高)