大寒波に見舞われているドイツ。「明日の最低気温はマイナス11℃、最高気温はマイナス4℃でしょう」という予報を聞くと、「あぁよかった、明日は暖かくなるわ」とひと安心してしまうレベルの寒さが続きます。
この激寒の中、保湿成分たっぷりのリップクリームを厚ぬりして外出したところ、リップクリームが凍って上下の唇がくっついたせいで、口が開かなくなったという体験を、初めて味わった筆者です。

そんな寒波来襲で、テレビやラジオで毎日のように耳にするのが、「Eis(=氷、アイス)」「kalt(=寒い、冷たい)」というドイツ語単語。どちらの単語も、厳冬期のニュースから流れてくるだけでなく、ドイツのことわざや慣用句にもひんぱんに登場します。「心が冷たい人」「薄氷を踏むがごとく」「手が冷たい人は、心が温かい」などは、ドイツのみならず、日本でもおなじみの言い回しでしょう。

ユニークな表現もいくつかご紹介します。実際に触ってみてたいへん冷たい様子を、「まるで犬の鼻先のように冷たい」といいます。一方、同じ「冷たい」でも、比喩的に「冷たい」という意味では、「あの人は、魚のように冷たい人ですね」とも。冷血人間という単語はドイツでも使われますが、そもそもこの表現は、常に沈着冷静な行動をとれる人への賛辞であったものが、時代とともにネガティブな意味へ変遷していったもののようです。

ところで、ドイツ人が「足が冷たいよ!」といえば、たいへん緊張したり、怖じ気づいている証拠。同義の表現で、「いかり氷の上にお尻をのせる」という言い方もあります。いかり氷とは、海底に固着している氷のことですから、水に潜って海底の氷の上に座らねばならないなんて、怖じ気づくのも無理はありません。同じ氷でも、「この一件は、氷の上に横たえましょう」といえば、「とりあえず、一時保留にしましょう」の意味。
そのまま永遠に凍りついてしまわないといいのですが。

さて、2月14日。女性からも男性からも、花やお菓子を気軽に贈りあうのがドイツのバレンタインですので、女性から愛を告白する日本と比べてかなりフランクな雰囲気ですが、それでも、ドイツ人が「相手に、冷えきった肩を見せつける」のは、「相手にまったく興味や関心がないこと」の喩え。意中の人から、冷たい肩を見せられないよう、ハッピーなバレンタインをお祈りします。
(柴山香)
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