現在、ギリシャ財政危機で揺れるEUの中にあって、“一人勝ち”の好景気にあるEU最大の経済大国ドイツ。その最大の原動力は、ドイツ人の「コツコツ努力する生真面目さ」「勤勉、勤労」「社会規律の遵守」といった民族性にあると思われる(少なくとも筆者はそう思っていた)。
ところが実は、真面目にモラルやマナーをきっちり守るわけではない深刻な一面があることが分かったので、ここに紹介したい。

これから暑い季節。日本でもドイツでも多くの人が薄着になるが、そんな暑い日の職場での出来事。
「女性が夏場に肌をさらけ出すことが多いのですが、正直あまりキレイでもない肌を露出して、しかもノースリーブ(そういう女性に限ってデブで刺青入れているという最悪な組み合わせ)で出勤してくる社員がいます。大きく胸が開いた服の上からは谷間だけでなく全部見えてしまうこともあります」
と現状を訴えるのはドイツ・デュッセルドルフ近郊在住のドイツ人、ロルフさん。
見るに見かねて上司に相談したら、「西洋では普通だよ、日本での経験はここでは通用しないよ」とけんもほろろに言われた。


ロルフさんはかつて4年間、仕事で日本に暮らしていた経験があり、帰国後も20回以上来日しているほどの日本好きなドイツ人。もちろん、日本語はペラペラで、その語学力を生かしてYouTubeで日本人向けに「ドイツ語会話教室」や「社会コーナービデオ」(ほかに文学、天文学、観光、健康、アンケート、個人、言語コーナーなど)を配信している。ちなみに今回紹介するエピソードはそのビデオの中からのもの。

仕事中でとても迷惑なことは、女性の肌の過剰な露出だけではない。私語を大きな声でしゃべることだ。
ある30代の女性はよく仕事中に母親と電話で人生論からビデオレコーダーの使い方までしゃべる。

「そうじゃなくて巻き戻し、ストップボタンを押すのよ……そうそう」と延々話が続く。堪りかねて、「ビデオレコーダーの話は仕事中にはやめてくれないか」と言うと、その後数週間も彼女は口を利いてくれなくなった。いくら上司に相談しても彼女の私語を注意してくれない。仕事がうまくいかなくなること(人間関係の縺れ)を恐れているからだ。

ほかにもこんな例がある。フィンランド旅行から帰ってきたある女性社員は同僚たちと挨拶のキスを両頬にブチュブチュやったあと、旅行のことを同僚たちに聞かれるたびに、「博物館、オペラ、港行って、アイスクリーム食べて……おいしかったわ、よかったわ」とオウムのように同じ話を繰り返す。
彼女のおしゃべりがうるさくて仕事にならない。助けて~!

うるさいのは女性ばかりではない。
「社内での健康診断で58歳の社員が前立腺の検査後に『ねぇねぇ、僕さっきね、最近の絶頂はいつあったかって聞かれたんだ』と大きな声でみんなのいる前で言い出したのです。赤面しました(汗)」
「ちょっとおしっこに行ってくる」「私もおしっこに行ってくるわ」など男女問わず、若いドイツ人もこんな調子。日本でおなじみのトイレ用擬音装置についても、「なんでうんちやおしっこの音が恥ずかしいの?」ってな感じ。

目上の人に対する若い人たちのマナーもひどい。

64歳の男性社員に月曜の朝、40歳以上も年下の女性社員が
「元気かい、君、週末はどうだった?」
とまるで同年代の友達同士のように挨拶する。名前で呼び捨てすることもしばしば。日本では到底あり得ない現象。
正しいことを教えようとしても、若い人たちは馬鹿にして耳を傾けようとしないという苦い経験をロルフさんは何度も味わった。以来、呆れて何も教える気にならなくなった。

ルーズなのは会社の職場だけではない。
ドイツではよく使われる常套句として「職人みたいに時間にぴったり」というのがある。が、それは数百年前の話かも知れないと言う。
「今の職人は半分くらいは頼りにならない。時間を決めても遅れる。最悪の場合、連絡なしで来ないこともよくある」
えっ、えっ、えっ~! それは日本では考えられない。
またあるとき、ゆるくなったズボンを仕立て屋にもっていったときのこと。

「出来上がったズボンは後ろのポケットが使えなくなっていました。なので、店にもう一度持っていったら『よくあることよ。問題ない。直すわ』でおしまい。返金も何もない」
サービス砂漠ドイツ。

遅れるのは職人だけではない。電車もよく遅れるという。ドイツは自動車社会であり、一般的に電車のイメージはあまりよくないのだが、その理由は遅れだけではないようだ。ドイツ製の高速列車“ICE”が、車輪が解体して100名以上の死者を出した「エシェデ鉄道事故(1998年6月3日)」。その大事故を起こしたICEは技術的にはフランスのTGVよりずっと新しいのに、なぜか目的地への到着スピードで負けている。これは州によって線路の種類が異なるため、最高スピードで走れないからだという。何という不合理!

ほかにも比較的最近のことで、車内のエアコンが動かなくなり、30名以上の乗客が入院するという「エアコン故障事件、2010年7月11日、2011年6月5日」も。故障の理由は、エアコンが外気温32度までしか対応していないから。なんじゃそりゃ!

どうして、ドイツ人はこのようになってしまったのか。戦後教育、多民族化、アメリカ化の影響であろうか? ロルフさんに聞いてみた。
「そのほかに“モラル低下”の原因にどうしても付け加えるべきなのは、1968年の学生動乱から生まれたいわゆる“68年世代”の人達の『非強制的なしつけ』です。その頃から、ドイツ社会の悪化が始まったのではないかと……」
子供が何をやっても許す。親も先生も叱らないという社会的風潮が起ったのだ。
「ただ、ヨーロッパの中でいまだに(ドイツ人は)いい方だし、みんながルーズというわけでもないですよ。お間違えなく……」

それは良かった。全部こんなドイツ人ではなくて。しかし、ドイツ社会の現状は決して楽観できない。やはりドイツ人はみな規律正しく道徳的で、哲学者カントのように生真面目であるべきではないか。
(羽石竜示)