昨年末の大掃除で、不要な物はないか、自宅のあらゆる箇所をチェックしたんです。しまう物はしまって、処分する物は処分して……。

その際、自分で自分にビックリしました。同じ歯ブラシを一年近く使っていたかもしれない……。ちょっ、マジ、本気でばっちい。今までの歯磨き、逆効果になってなかっただろうか? 歯医者、行きたくないんですけど。歯を削る時の、あの“チュイーン”って音が怖いんですけど……。

そんなこんなで嫌々リサーチしていたら、局地的に話題になっている歯科を発見しました。
銀座にて診療を行う「井出デンタルクリニック」の、“むやみに削らない治療”が評判を呼んでいるみたいなんです。
……ちょっくら、話を聞きに行きましょうか!

「虫歯・歯周病の原因として“歯の汚れ”が挙げられることは、もう多くの人に知れ渡っています。それは細菌学的な、『炎症』の問題。ところがもう一つ原因があって、それは『力』の問題なんです。力とは、“噛み締め”や“食いしばり”や“歯ぎしり”等です」(井出先生)
いきなり衝撃的。ここから、話はグングン興味深い方向へと突き進んでいきます!

井出先生 「セロトニン」という脳内物質はご存じですか? その研究の第一人者である有田秀穂先生にお会いしたら、いきなり言うんですよ。
「歯科って、怖いことやってるよねぇ?」って。
――怖いこと?
井出先生 「口の中に出るのは、全て“結果”ですよね。“原因”をいじくらないで“結果”ばかりいじくり回す歯科っていうのは、僕は物凄い危険だと思ってる」って。僕は「仰るとおりです」と(笑)。
――その辺、詳しく教えていただけますか?
井出先生 体全体のバランスがズレているのに、口内だけいじるのは問題だということです。車に例えて言うと、四輪の内のどれかが変なすり減り方をしたら、タイヤ交換する前に車体を持ち上げ全部調べるはずです。
車自体のバランスが悪いから、一つのタイヤの変なすり減りが起こるわけですから。それと一緒で、明らかに一部の歯のすり減りが激しい人もいるんですね。噛み締めや食いしばりって、歯に約200キロの負荷がかかるんですよ。
――体自体にゆがみがあるから、それが「噛み締め」や「食いしばり」となって表れ、歯の摩耗につながるんですね。
井出先生 車で言えば、ボディバランスが悪かったら車軸も上手く回転しません。要するに「体のバランスを直さず、歯ばかりいじってていいの!?」ってことなんです。
そして、それが多くの歯科なんです。汚れや歯石を取る程度の施術だったらいいですよ? でも、被せ物やインプラントという話になったら、「車軸がズレてて、タイヤのすり減り方も違ってて、タイヤ交換ばかりしてていいの?」って話なんです。
――その知識って、他の歯科医は知らないことなんですか?
井出先生 たぶん歯科医全体の1%くらいには、知れ渡ってきたと思います。だけど、どうやって治していいかわからないんですよ。本当は、色々な方法があるんです。「舌を上に上げ、唇を閉じる」、「常に歯を接触させてはいない」という話から始まっていくんですが。

――舌が上に上がってると、歯が接触しませんね。
井出先生 そうなると、鼻呼吸になるはずです。歯科に来る患者さんは舌が下に落ちちゃってて、いつも歯を「グ~ッ」って噛んでて……というのが当たり前になっている人が多いです。
――そうなんですか!
井出先生 歯科にかかる必要のない人って、世の中にたくさんいますよね。虫歯もなく歯周病もない人、ろくに歯を磨いてないのに平気な人、90歳でも全て自分の歯の人。その人たちは、絶対に噛み締めてないんです。
また、そういう人って姿勢がいいんですね。そして、いつもにこやかな顔してるんです。
――へぇ~!
井出先生 歯に力が入ってるとへの字口になり、女性だとほうれい線が深くなります。力が入ってる顔って、見たらわかるんですよ。そうじゃなければ表情も柔らかくなるし、目も穏やかになります。
――顔を見て、口内の状態がわかっちゃうんですか!

【この原理に気付いたきっかけ】
――井出先生が“むやみに削らない治療”を始めたのは、いつからですか?
井出先生 約20年前に、歯とバランスの関係性に気付きました。それまでは「テクニカルさえ磨けば、歯科治療は制覇できる」と思ってたんです。“テクニカルエラーを起こさない歯科”を目指していました。にもかかわらず「歯が壊れた」「セラミックが壊れた」「根っこが割れた」という患者さんが出てくるんです。「歯は全部あるんだけど、どこで噛んでいいかわからない」という方もいました。今考えると、「色々なところを削られて、噛み合わせの調整が狂ってしまったんだな」とわかります。でもあの当時に、いきなり「痛みはないんだけど、歯の右側だけ風がスーッと通り抜けるんです」と言われても、訳がわからなかった。
――当時は、理解できなかったんですね。
井出先生 虫歯だったら、穴ぼこが開いている。歯周病だったら、歯石が付いている。レントゲンを撮れば、歯のぐらつきや出血がわかる。でも、何でもない歯なのに「痛む」って言うんですよ。症状を撮ったレントゲン写真を他の先生にも見てもらいましたが、納得いく答えをくれる人はいませんでしたね。
――困りましたね。
井出先生 でも生きる希望を失くし、自殺願望を持つ患者さんまでいらっしゃった。幸いにも「他の歯科に行っても解決できない」という患者さんに、私は恵まれてしまって。「来なくていいのに。おれには治せねえ!」って思ってました(笑)。
――それは、悩んでしまいますね。
井出先生 悩みますよ。でも、悩んでる患者さんが目の前にいるわけだから! その時、私の教科書となった『噛み締めないように』という書籍に出会いました。これを治療に活かすと、不快症状が消えてく人もいれば、ウンともスンとも変わらない人もいる。そこで深入りしなきゃいいんだけど、答えが知りたいから更に深入りしていくわけです。
――「深入りしなきゃいいんだけど」(笑)。
井出先生 パンドラの箱を開けていくわけです。「これ、自分で考えてくしかないな」って。
――そこから独学になっていくんですね。
井出先生 歯医者がまず考えることは「下あごは上あごにぶら下がってるから、左右どちらかにズレることもある。下あごの位置関係だけ戻せば、歯の位置は正しくなる」ということです。ところが、それが疑問だったんです。「上の歯が本当にベースなのか?」って。一見キレイに並んでいる歯でも、骨格が物凄くズレている場合がある。重症な患者さんほど、そうでした。
――歯並びはキレイで骨格の方がズレている、と。
井出先生 当時は、そんな事が信じられないんですよ。そんなの、教わってないし。でも、次第に「事実として認めなきゃいけないな」って。
――それ、どうやって治したんですか?
井出先生 患者さんは患者さんで、苦しいから色々な事を自分で試してるんですね。そして「歯にガムを挟んでると楽なんです」とか、みんな同じような対処法をとっている。
――何かを噛んで、隙間を埋めるんですか?
井出先生 そうです。それで試行錯誤を重ねると、「あれ。この患者さん、いつも頭が傾いてるよね」とか気付くわけです。すると「体が曲がってるのに、上あごがベースになるわけないじゃないか!」と思い始め、僕の中で多くの歯科が否定されました。
――そこからの掘り下げって、面倒臭い作業になりますね(笑)。
井出先生 だって、他にやった人はいないから(笑)。それに掘り下げていくと、患者さんも実際に良くなっていくし。
――良くなっていくんなら、やるしかないですよね。
井出先生 ええ。すると、始めは「歯だけ診てれば」だったのが「首を診なければ」という考えに変わっていくんです。
――首まで行きましたか!
井出先生 でも、やり方がわからない。それまでトータルの問題って、僕には解決できなかったんです。すると、10数年ぶりに来院した患者さんが「先生、首を勉強してください!」って、いきなり言ってきたんです。
――ちょっと待ってください。その人、いきなり「勉強してください」って来たんですか(笑)?
井出先生 で、顔を見たらその患者さんの症状が完治してるのがわかったんです。彼女曰く「首を治せる人に出会ったんです。やっぱり首なんですよ」って。僕も「だよね!」って。
――親切な患者さんですね。
井出先生 たぶん、僕に気付いて欲しかったんじゃないでしょうか。そして「私みたいに悩んでる患者さんを救ってほしい」って、白羽の矢を僕が立てられたんだと思います。その後、教えてもらった首の触り方を施術に活かすと、頭の位置が改善されるんですよ。「全部繋がってるんだな」って、見えてきますよね。
――それって医療法という観点から見て、大丈夫なんですか? どこまでが歯科医の領域なのか、微妙なところですよね……。
井出先生 その辺り、弁護士にも相談しました。まず法律的に整体師は資格不要ですので、抵触しません。ただ、あまりストレートな施術はしないですよ。だから口周りの筋肉を触ったり、その延長線上であご関節や首を触る歯科領域で治療を行います。一番安全なのは、筋肉ですよね。触れば左右非対称なのもわかりますし。「こっちに張りがあって、こっちに症状があって。これじゃ改善しにくいな」というのもわかります。
――僕のイメージなんですけど、人間って左右非対称な人ばかりですよね。中には、対称な人もいるんですか?
井出先生 そういう人は歯科には来ないし、たぶん病院にも行かないと思いますよ。一番健康な状況ですし、それはパッと見ただけでわかります。
――じゃあ「左右対称でいよう」と自分で気を付けて生活していたら、自ずと改善されていくものなんですか?
井出先生 ええ、初期の場合は。だけど知らないでずっとねじれてて、それが当たり前の状態になってる場合は難しいです。症状として肩こりや首こりにしか出ないので、そのまま進行している場合がほとんどですね。
――そうなると、施術しないと難しいですね。
井出先生 いや、色々なケースがあるんです。ストレッチ方法を教える場合もあるし、医療者が介入する場合もあります。……こういう事を他の歯科医に言っても、会話にならないんですけど。
――凄いですね。「それでも地球は回ってる」みたいですね(笑)。
井出先生 地動説と天動説みたいですよね(笑)。

【歯の痛みには、ストレッチ】
井出先生、怖いんです。私の姿を見るなり、「ちょっと腰痛がありますかね?」なんてイキナリ指摘してくる。しかも、それが当たってる。今まで、二度ほどギックリ腰を経験しています……。そこで、こんな質問を。
――患者さんが来たら、まずどこを見ますか?
井出先生 全体を見てますね。瞬間的に、顔とか姿勢とか肩の張り具合とか首の傾きとか。患者さんが「見られてる」って気付かないように。
――本当ですか? 怖いですね(笑)。
井出先生 椅子に座ると足を組むかとか、左右の足の長さが違うかとか。それで「靴底の後ろの方、すり減りません?」なんて言ったりして話を進めます。で、足や筋肉を触診すると「痛い!」と反応される方もいて。こっちは、そんな力で触ってないんですけど。
――という診療はありつつ、もちろん歯を削る場合もあると思います。割合として、歯を削らない治療で治る患者さんはどの位いらっしゃいますか?
井出先生 まず、歯を削るケースとして挙げられるのは「誰が見ても虫歯」な場合。これは、絶対に削ります。それから他院の治療で詰め物や被せ物ばかりとなり、それが強く接触する場合も削ります。ただ、天然の歯に近い状況で「歯が痛い」となった場合は、レントゲンを撮り「虫歯じゃないな」とわかったら削りません。だって、それは原因が違うから。もう、そのケースが大半です。特に若ければ若いほど、ブラッシングはしっかりされていらっしゃいますので。それでも、虫歯と同じような痛みが出る方が多いんですね。そういう場合、ストレッチ体操を教えてあげたり「パソコンばかりしないで、たまには背伸びするんだ」と言ってあげたり。
――言ってることは、当たり前のことばかりですけどね。
井出先生 そうですよ。それで一週間後に「痛み、どうなった?」って聞くと「いやぁ、全くなくなりました」って。でも時期が来るとまた同じような痛みが出て、そしてまたここに来て。「だからさぁ!」とか思うんだけど(笑)。
――それ、患者さんが怠けてるってことなんですかね(笑)?
井出先生 違う、違う。まだ世の中に、歯磨きほどストレッチ等の有効性が浸透していないってことなんです。

【実際に治療されてみた】
――様々な患者さんがいらっしゃると思いますが、特にどんな施術をされることが多いですか?
井出先生 そうですね……

というわけで診療台に寝かされ、軽く施術していただきました。あご関節を触ったり、口の内側の頬の部分をマッサージしたり。軽い力で行ってるのに、これだけで悲鳴を上げる患者さんも多いそう。
それだけではない。左右の足を持って曲げたり引いたりすると、施術後は長さが矯正されて同等に近付いているんです。その後に顔マッサージを行うと、目鼻の位置が左右対称に近付いてたり。……これ、本当に整体の先生みたいじゃないですか!

井出先生 首を触ったりすると、そこばかりクローズアップされるから「変な医者だ」って思われがちなんだけど(笑)。自分の中では「“炎症”と“力”、両方の問題を治す歯科」なんです。虫歯でも何でもなかったら削るなよ、いじくるなよ! と言いたい。物凄く力が入ってる箇所にインプラントを入れ込んたら、壊れたり根っこが割れたり、また次の問題を引き起こして、一生歯医者通いから抜け出せなくなる。そんな患者を、作り上げてる状況があるわけです。

不要だったはずの詰め物やインプラントのせいで歯同士が接触し、ひび割れを起こす。そしてそこからバイ菌が入り、虫歯になる。……といった悪循環を引き起こす現状が、現在の歯科業界には少なからずあるそうです。

井出先生 一番上手く治る患者さんっていうのは、「自分で気が付いて、自分で気を付けて、自分でやる」人です。これ、マジ100%治ります。医者に全て委ねてる人は、治らない。ある意味、一番いいお客さんかもしれませんが。だって、いつもお金を払うから。でもそうじゃないって、いつか気付いてもらえれば。“医者離れ”するのが、一番いいことですから。
――なるほど。
井出先生 ちょっと背伸びするだけでも違うんですよ。現代人は、体を動かしてないから。歩いてもないし。「ちょっとくらい歩けよ!」って、本当は声を大にして言いたい。パソコンやるのもいいけど、一時間後は椅子から立って5分くらい背伸びしろよ! って(笑)。要は、それだけの話なんです。
――客観的に見ると、面白いですね。歯の痛みから、こういうアドバイスに行き着くなんて。

さて、おわかりいただけましたでしょうか? 同クリニックが“むやみに削らない治療”をとるようになった経緯を。先生、ごく当たり前のことを仰っています。噛み砕いて説明していただければ、普通に納得。でも今までは、その発想自体がなかった。

では最後に、井出先生から歯科業界へメッセージを。
「体のバランスを戻してないのに、口の中だけを見てる場合じゃないだろうって。こんな話は整体師や医学療法士のまともな人だったら、ごく当たり前に把握してることなんです。でも、歯科業界の中では当たり前ではなくなってしまう。『まず、器(体)を見ようよ』ってことなんです。体がズレてるのに、その状態でインプラントみたいなガッチリしたものを入れたら不具合が出るのは当たり前。インプラントはいい物なのにマスコミに批判されている状況もありますが、それは使い方のせいでトラブルが起きているからなんです」(井出先生)

もちろん、どの歯科に通うかは皆さん自身が決定すること。ただ、「こういう歯科医も世の中にいる」ということを知ってもらいたかったのです。
(寺西ジャジューカ)