男泣きに次ぐ、男泣き!

TBSドラマ「ルーズヴェルト・ゲーム」に登場する男たちは、じつによく泣く。

昨晩放送の第七話では、青島製作所野球部が都市対抗野球大会・準決勝では強敵・タナフーズを相手に逆転勝利。
マネージャーの古賀哲(高橋和也)が号泣する。勝利を喜んでいるにしては苦渋の表情。大道監督は「そろそろ話せ。何があった」と問う。

試合後、いつもの居酒屋で飲んでいると、野球部部長の三上(石丸幹二)がやってくる。そして、今月いっぱいで野球部は廃部にすると、部員たちに告げる。
マネージャーの古賀はこの決断をいち早く知らされていたのだ。部員たちは色めき立ち、「冗談ですよね」「ウソでしょ」と三上に詰め寄る。

だが、三上の決意は揺るがない。
「私はこれまで派遣社員、契約社員を100人切ってきた。そして、これから正社員をさらに100人切らなければならない。野球部を、君たちだけを残すわけにはいかないんだ」と涙ながらに訴え、頭を下げる。
「ホントにすいません。許してください。このとおりです」と泣きじゃくる三上を前にして、部員たちは言葉を失う。

毎回誰かが涙ぐみ、時には声をあげて号泣する。そうしょっちゅう泣かれると「いちいち泣くな!」と一喝したくなりそうなものだが、不思議とそうはならない。むしろ、好感度が上がるのはなぜか。
印象的なシーンを振り返りながら、好ましい“男泣き”の正体を探ってみたい。

■「賭けをしないか?この試合はどっちが勝つか。もし、お前が勝てば、俺が持っている会社の株式を全部くれてやる」(青島毅/第一話)

社内対抗戦「青島杯」での一コマ。負傷したピッチャーに代わってマウンドに上がった沖原和也(工藤阿須加)はボールを握りしめ、涙を流す。その姿を見た青島製作所会長・青島毅(山崎努)は、社長・細川充(唐沢寿明)に賭けを持ちかけた。マウンドでの涙のシーンでは、沖原自身のセリフはない。
無言の涙からは万感の思いが伝わってきて、目が離せなくなる。そして、時速153kmの剛速球が投げ込まれる。ドカーン! 野球部も監督も総立ち。完成披露試写会でも、どっと観客席が沸いた印象的なシーンのひとつだ。

■「俺、もう一度投げたいです……もう一度投げたいです……」(沖原和也/第二話) 

マネージャーの古賀にチケットを渡され、球場を訪れた沖原。そこでは、かつて自分を陥れ、野球を奪った宿敵・如月一磨(鈴木伸之)が意気揚々と野球に興じていた。
目を真っ赤にして、球場を去ろうとする沖原に「お前にはまだやり残したことがあるはずだ」と大道監督が声をかける。野球部の面々も現れるが何も言わず、沖原の胸をこづき、肩を叩き、去って行く。その無言の励ましに沖原の涙は止まらなくなる。「俺、もう一度投げたいです……もう一度投げたいです……」としゃくりあげた後、涙目で正面をにらみつける。闘志を秘めた表情に変わる瞬間がたまらない。

■「どうか野球部を応援してやって下さい」(萬田智彦/第三話)

青島製作所野球部のピッチャー・萬田智彦(馬場徹)は“野球肘”が発覚し、退部を決意。
野球部員にとって退部はすなわち、退社を意味する。製造部での退社の挨拶をするとき、萬田は緊張のあまり、しゃべる内容を忘れてしまう。でも、遠くから見守る野球部のメンバーに気づき、思いのたけを話し始める。野球を続けさせてくれた青島製作所への感謝と、成果が出せなかった無念さ、野球部への愛情。「今、裁判とかリストラとか、会社がものすごい大変な状況で、こんな事を言っていいのか分らないんですけど、どうか野球部を応援してやって下さい」と頭を下げる。最後は涙で声にならない。泣きじゃくりながらの長ゼリフは圧巻。

■「もう俺は絶対に自分から野球をやめない」(沖原和也/第四話)

高校時代に沖原をいじめ抜いた先輩であり、現在はイツワ電器野球部のエースである如月一磨が青島製作所野球部のグランドに現れる。そして、「野球、今すぐやめろ」「お前がやめないなら、どんな手を使ってでもつぶすからな」と沖原を脅す。沖原は「もう俺は絶対に自分から野球をやめない。もう俺は絶対に自分から野球を止めない。今、ウチのチームは負けたら廃部の危機です。野球を続けるには勝つしかない。イツワ電器も必ず倒します」と言い返す。あまりの腹立たしさに沖原くん、涙目。ふんぬー! とにらみつけるときの眉間のしわがたまらなくキュートである。

■「終わったな……」(長門一行/第五話)

イツワ電器との試合は大接戦だった。10回裏のスコアは4体3でイツワ電器が一点リード。青島製作所野球部は負ければ廃部という危機にさらされていた。キャプテン・井坂耕作(須田邦裕)は監督のアドバイス通り、初球狙いでバットを振り抜く。打球はバックスクリーンめがけて伸びていくが、向かい風で失速し、あえなく外野手のグローブにおさまる。「終わったな……」とぽつりともらしたのは、製造部梱包配送課課長・長門一之(マキタスポーツ)。突き放した物言いと裏腹に、目は真っ赤。野球部のふがいなさに腹をたてながらも、ひんぱんに試合に足を運んでいた。野球部の復活を誰よりも喜んでいたのは長門だっただろう。言葉にならないくやしさが滲む。

■「体力が限界に近づくと、なんもかもふっきれる瞬間がある。監督はそれを待ってとるたい」(井坂耕作/第六話)

過去に沖原が起こした暴力事件を雑誌にリークされ、窮地に陥る青島制作所野球部。当初は沖原を表に出さず、かばおうとした野球部の面々だが、「お前たちにも沖原にも何ひとつ後ろめたいことはない。だったら、堂々と見てもらおうじゃないか」という三上部長に言われ、思い直す。だが、当の沖原は「でも……」と迷いが消えない。そんな沖原を見て、監督は突然、沖原をグラウンドに連れ出し、1000本ノックを始める。ノックは3時間以上にも及び、沖原は立つのもやっとという状態。だが、監督はノックをやめない。「体力が限界に近づくと、なんもかもふっきれる瞬間がある。監督はそれを待っとるたい」と見守る野球部の面々も涙目。キャプテン井坂は感情が高ぶると九州弁になる。

振り返ってみると、登場する涙の多くは“自分以外の誰か”のために流された涙だった。沖原の涙は、自分のための涙ともとれるが、苦労して女手ひとつで育ててくれた母親への思いに裏打ちされたものでもある。また、これだけ盛大に涙が流れていても、その大半をユニフォーム組が占める。細川社長も、笹井専務(江口洋介)も泣かない。一瞬、泣きそうな顔になったとしても、理性で抑えこむ。勝ったといっては泣き、負けたといっては泣く男たちは笑ってしまうほど単細胞。でも、可愛らしい。細川社長も、このチャーミングさがあれば、青島製作所の命運を握る女帝・城戸志摩(ジュディ・オング)を口説き落とせるのではないか。そんな妄想をふくらませつつ、次回を待ちたい。
(島影真奈美)