逆転に次ぐ逆転が描かれたTBS・日曜劇場「ルーズヴェルト・ゲーム」。昨晩の最終回により全話が締めくくられたいま振り返ってみて、このドラマにおける最大の逆転劇とは何だったのだろうか?

たとえば最終回の最後の最後で、廃部の決まっていた青島製作所の野球部に、まるでエーゲ海から追い風が吹いてきたかのような結末が待っていたことは、たしかに最大級の逆転劇といえるかもしれない。
あるいは、同じく最終回の、東洋カメラの新機種カメラに搭載するイメージセンサーのコンペにおける、青島製作所のイツワ電器に対する逆転をあげる人も当然いるだろう。だが、それら以上に大きな逆転劇は、青島製作所の経営陣に対する野球部のそれだったような気がしてならない。

思えば、シリーズ前半、野球部は社長の細川(唐沢寿明)からリストラの対象とされ、いつ廃部となってもおかしくない、経営側には完全に翻弄される立場にあった。それが後半、不屈の精神を見せる野球部に、逆に細川たちのほうが心を動かされるようになる。

最終回では、試合前夜に野球部の部室へ細川が顔を出し、自分は部員たちから最後まであきらめないことを学んだと感謝を述べた。廃部の決定は覆せなかったとはいえ、冷徹な社長にここまで態度を一変させたことは、形勢逆転といっていいだろう。
細川のそうした姿勢には専務の笹井以下、ほかの役員たちも共感を抱いたのか、最終回冒頭、メインバンクである白水銀行の支店長(峰竜太)を前に、役員全員が細川の意見に同調する。少し前の青島製作所ではありえなかったことだ。峰竜太でなくとも、「何でもっと早くそうならなかったのですか。最初からそうしていればこんな経営危機なんか招かなかったかもしれないのに」と言いたくなった視聴者は私だけではないはずだ。

青島野球部、相手チームの選手の心も動かす


もっとも、先述のとおり野球部の廃部はすでにドラマの前々回で告げられていた。そのため、選手たちの多くは一時、最後の試合となる対イツワ電器戦(都市対抗野球大会の地区予選敗者復活トーナメント決勝)を直前に控えながらも、再就職先を探し始めたりで練習に来なくなってしまう。それでも結局、彼らは戻ってきてふたたび結束する。
イツワとの試合に勝ってももちろん都市対抗には出場できない。しかし、だからこそ選手の一人ひとりが有終の美を飾るべく試合にのぞんだ。

試合前半、3対7と点差を引き離された青島だが、6回からはエース格の沖原(工藤阿須加)が登板、打線も徐々に調子を取り戻してゆく。劣勢になっても不屈の闘志で立ち向かう青島の選手たちの姿は、対戦相手であるイツワ電器の選手たちの心をも動かす。

9回表、イツワのエース・如月(鈴木伸之)が同点に追いつかれると、マウンドにチームメイトたちが集まる。そこで同僚の飯島(林剛史)が如月に向かい思わず口にしたのは「なあ、あいつらと野球するの楽しくないか」という言葉だった。
試合は延長戦にもつれこみ、疲れの出てきた沖原を援護するべく青島の打者があらためて奮起、15回表、犬彦(和田正人)が2アウトからバントを決めると、それを受けて井坂(須田邦裕)が懸命の走塁でホームに滑りこみ、ついに逆転に成功する。その裏、沖原がきっちりとイツワ打線を抑えて試合は終了、ここに8対7のルーズヴェルト・ゲームが完成した。戦いを終えて、互いに健闘を称えるように視線を交わす沖原と如月。まさに両者の過去の因縁が氷解した瞬間であった。

勝敗を超えた野球そのものの楽しさに両チームの選手たちが気づく。だが、それは結果がすべてのビジネスの世界ではほぼありえないことでもある。
ビジネスにおける敗者は敗者でしかない。青島製作所に試合に敗れながらもすがすがしさを見せたイツワ電器の野球部員とは対照的に、青島にコンペで敗れたあとのイツワ社長・坂東(立川談春)の姿は、それまでさんざんあくどい手を尽くしてきただけによけいにみじめなものであった。最後の頼みの綱としてジャパニクス社長の諸田(香川照之)に泣きつくも、逆に「あなたは900度見誤ったんだ、ケンカを売る相手をね!」と叱責されてしまう始末。第4話の時点で諸田から「自分とあなたの考え方は360度、いや540度違う」と言われていた坂東だが、さらにもう1周分加算されたというわけである。

■注目を集めた若手俳優たち


エキレビ!では、「ルーズヴェルト・ゲーム」の放送が始まって以来、毎話ごとにレビューを掲載してきた。複数のライターが持ち回りで書いてきただけにその切り口も、あるときは野球、またあるときは企業経営の視点から、さらにはドラマに見る女子力といった具合にさまざまだった。
そのなかでもとくに話題を呼んだのが、沖原役の工藤阿須加にスポットを当てたレビューだ(1話5話のレビュー)。きっと「この俳優はどんな人?」とドラマを見ていて検索する人もたくさんいたことだろう。

最近のテレビドラマは、冒険を恐れて、すでに実績のある俳優で出演者を固めてばかりじゃないか! という意見をよく聞く。それでいけば「ルーズヴェルト・ゲーム」も、唐沢寿明と江口洋介という、これまでにもたびたびドラマでの共演が話題を呼んだ2人を軸に据えていただけに、例外に漏れないかもしれない。

だが大半の視聴者は、キレ者だが融通が利かず、いまいち何を考えているかわからない唐沢演じる細川社長よりも、風前のともしびの野球部の部員たちにこそ共感を抱いたはずだ。その演じ手の多くは、工藤をはじめ世間的にはまだあまり知られていない俳優たちだった。
敵役であるイツワ野球部の部員でも、ヒール役・如月に扮した鈴木伸之の好演が光った。

「ルーズヴェルト・ゲーム」はいわば、経営者たちが駆け引きを繰り広げるドロドロとした企業ドラマであるとともに、野球部員たちがドロドロになりながら奮闘する青春群像劇でもあるという2つの側面を持っていた。視聴者の共感という点でも、若手の多い野球部員がベテラン俳優演じる経営者に勝利したといえそうだ。

劇中、体の故障から青島野球部を退部・転職を余儀なくされた萬田役の馬場徹もまた、このドラマで注目を集めた若手俳優の一人である。番組オフィシャルサイトには、萬田の退部後、“再登板”を願う視聴者からのメッセージが殺到したという(デイリースポーツ」2014年5月16日)。

その甲斐あって、最終回では萬田が球場のスタンドに現れ、グラウンドにいるかつてのチームメイトたちを激励する場面が設けられた。じつは、私が先の記事の終わりに、「最終回のなかでも一つの見せ場となりそうな場面」と告知したのは、まさにこのシーンである。残念ながら萬田のそばに、エキストラ参加した自分の姿を確認することはできなかったが、その代わり、大村愛知県知事らしき人物が映っていたことをご報告しておく。
(近藤正高)