近年日本の料理道具の人気が世界的に高まってきています。もともと日本の包丁の切れ味は海外のシェフの間でも評価が高かったのですが、最近は包丁にとどまらず、広く日本の料理道具が高い評価を受けているというのです。


日本の料理道具が海外で絶賛されているワケ
包丁を筆頭に世界中で評価の高まる日本の料理道具。その広まりに日本人料理人たちのグローバルな活躍が一役買っている。


「日本の料理道具は仕事が丁寧にほどこされている上に、サイズ展開がきめ細かく行われているところが受けているのだと思います」
近年パリを始め、海外でも展示会を行うことの多い創業明治41年の合羽橋の老舗料理道具店・釜浅商店4代目店主の熊澤大介氏は言います。

日本の料理道具が海外で絶賛されているワケ
創業明治41年、合羽橋の老舗料理道具専門店・釜浅商店4代目店主の熊澤大介氏。


「僕ら日本人からすると当たり前に思えることでも、海外の人から 驚かれることは多いんですよ」
たとえば釜浅商店では80超種類・1000点超の包丁を取り扱っています。これは外国人でなくとも驚きの品揃えですが、包丁に限らずボウルやザル、バットも展開の豊富さが驚かれるといいます。こうした品揃えに代表される「親切さ」が受けているのではないかと熊澤氏はいいます。

そうした日本の道具の「親切さ」が世界中に広まっていっている影には、実は日本人料理人の活躍があるというのです。
「今、世界中の有名レストランのキッチンで活躍する日本人が本当に多いんです。
彼らが使っている使っている包丁を仲間の料理人が使ってみて『よく切れるな』と驚いて興味を持つことがあるみたいです」

日本の料理道具が海外で絶賛されているワケ
撮影: Eric Giraudet de Boudemange


熊澤氏によると、和包丁と洋包丁は根本的な考え方が違います。和包丁は「刺身を引く」という表現に代表されるように鋭利な刃先を水平に動かすことによって繊維を潰すことなく繊細できれいな断面で切るのに対し、洋包丁は肉などを垂直にダイナミックに断ち切ります。

近年、日本人料理人の世界での活躍や分子ガストロノミーの影響もあり、世界の料理がより繊細になってきています。そこで細かい仕事に適した日本の道具が一層重宝されているのではないかと熊澤氏は分析します。

とはいえ、最近では主だった料理道具は大方100円ショップで揃えることができます。またいい道具はどうしても相応の手入れが必要になってきます。
それでもきちんとした道具を使った方がいいのはなぜでしょう?その鍵は「育てる」ことにあると、熊澤氏は近頃出版した『釜浅商店の「料理道具」案内』(PHP研究所刊)の中で語っています。

日本の料理道具が海外で絶賛されているワケ
『釜浅商店の「料理道具」案内』(PHP研究所刊)。包丁、フライパン、南部鉄器、雪平鍋、見ているだけで欲しくなる、料理がしたくなる!老舗専門店が教える料理道具の「選び方」「つき合い方」


「買った瞬間から劣化の道をたどってダメになったら買い替えなければならないものがある一方、良い道具は使い込めば使い込むほど、どんどん使いやすいよい状態になり、見た目にも味わい深い色気のある要素になっていきます。」(『釜浅商店の「料理道具」案内』より)

もちろんいい道具を使うと火の入り方が柔らかくなるとか、家庭で使う場合は数十年、一生使えることもあるなど現実的なメリットもあります。そうしたことを踏まえた上で高いと感じるか、安いと感じるかは人それぞれの価値観だと断った上で、適正だと思える価格のものを購入した方がいいと熊澤氏は言います。

たとえば包丁の柄に高価な素材を使ったり、刃に特別なデザインを施したりして値段が高くなる場合がありますが、それ自体は切れ味に関係ありません。高価だからいいものと短絡的に考えないで、専門店できちんとした説明を受けて納得した上で買ったほうがいいということです。

釜浅商店では店舗での販売時のみならず、海外での展示会でも 産地の写真を見せたり、作り方を説明したり、セミナーの時間を設けたり、買ってからの手入れについ説明したり、それぞれの道具の持つ本質を伝えることに注力しているといいます。


日本の料理道具が海外で絶賛されているワケ
合羽橋にある釜浅商店の店内。包丁だけでも80超種、1000点以上の驚きの品揃え。料理の腕前や使用用途に合わせて事細かに相談に乗ってくれるのが嬉しい。


「一人の人に包丁一本を売るのに相当の労力をかけています(笑)」(熊澤氏)

料理男子は最早珍しいものではなくなってきていますが、手入れの行き届いた鉄打出しのmyフライパンなどを持っていたりしたら、デキるな感倍増というのは間違いありません。他の料理男子と差を付けたい人は、日本が世界に誇る道具を買いに合羽橋に走れ!
日本の料理道具が海外で絶賛されているワケ

(鶴賀太郎)