人並みにAVを観ている筆者だが、画面の中の景色は昔と明らかに変わっている。引退したレジェンド・加藤鷹は言わずもがな、斉藤竜一や日比野達郎らばかりが目立っていた男優陣も次第に新陳代謝。

21世紀、いい仕事をする者は多いのだが、テレビ・雑誌など一般メディアに露出する当代AV男優ツートップといえば、一徹&しみけんの両氏だと断言しても異論は無いだろう。
トップ男優しみけんの「光り輝くクズ仕事論」に目からウロコ
『AV男優しみけん ~光り輝くクズでありたい』しみけん/扶桑社
どの業界でも、トップに上り詰める人は一味違う。各職種で活用できる仕事論が、不意打ちのようにまとめられていた。

その両巨頭のうちの一人、しみけん氏が6月に著書を発表している。タイトルは『AV男優しみけん ~光り輝くクズでありたい』
まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの彼氏だが、実は愛好家として心配にならないでもない。というのも、あまりに素性を知ってしまうと実用性を損ねてしまうのだ。知り合いが出てる気になってしまい、やる気を削いでしまう。
正直、加藤鷹はその道を辿っていた。
しかし、それも覚悟の上らしい。
「メディアに出れば出るほど見てる人はヌキづらくなって、仕事が減るかもしれないっていうリスクもあるんで、ジレンマでもあるんですよ。それでもたくさんの人に観てもらって、『こういう仕事があるんだよ』って知ってもらえればいいなっていう気持ちですよね」(「KAMINOGE」vol.43インタビューより)

覚悟を決めた男は強い。4月からは冠番組『しみけんの脳みそつるつる野郎!!』(テレビ埼玉)がスタート、「地球の抱き方」と称して高尾山の地面や木とセックスし始めたり、ウンコ味のカレーを実際に作ってみたり(しみけんはウンコが大好き)……。やりたい放題である。

「メディアにこうして出させていただくようになったのは、どうしても『AV業界=ヤクザ』ってイメージが強いからなんですね。そうじゃないところもたくさんあるから、人の目に触れる数が増えるほど、何か変わるんじゃないかと思って。だからボクは芸能人になりたいわけでもないんですよ」(同じく「KAMINOGE」vol.43インタビューより)

とは言え、彼は今や紛れもない人気者。ヒエラルキーとして、下から「エキストラ」→「汁男優」→「フェラ男優」(下半身だけ登場する男優)→「男優」→「印紙男優」(1回のギャラが3万円以上の男優)→「トップ男優」(1回のギャラが5万円以上)とランク分けされる男優界。正真正銘、しみけんは「トップ男優」に分類される。
では、なぜ彼は現在の地位まで上り詰めることができたのか。
それは、一つの出会いが契機となった。AVには「ナンパもの」というジャンルがあり、この先駆者的存在として名高い男優・島袋浩氏との邂逅こそ彼のブレークスルーの瞬間である。
ここで「ナンパもの」について、少し突っ込んで話をしたい。このジャンルは他のAVと異なり、多くの視聴者の視線が男優に注がれる。主役の座が、女優から男優にスイッチするのだ。何しろ、島袋の話術は天才的だ。
女の子のパンツが紫色だと認識するや「キミ、すっごいねー。紫は横綱しか着けられないんだよ?」と言い放ったり、ボワボワの付いたブーツを履く子に対して「ブルーザー・ブロディみたいで強そうだねー」と不思議なおだてを披露する始末。
このトークスキルに女の子のリアルなエロとリアクションが加わり、『ザ・ナンパスペシャル』『ザ・ナンパミラクル』はシリーズものとして大ヒットを記録した。そして島袋の相方として、しみけんが抜擢される。2004年の話だ。
「コンビを組むときに、島さん(島袋の愛称)が僕にこう言いました。
『ナンパビデオっていうのは、男優にフォーカスされた唯一のAVだから、自分のプロモーションビデオだと思え』」(『AV男優しみけん ~光り輝くクズでありたい』から)
次第に仕事が軌道に乗り始めたしみけんは、5万9000円のボロアパートから家賃22万円のマンションに引っ越し、同時にベンツのEクラスを新車で購入した。

しみけんによる「AV男優としての仕事論」


そんな成功者・しみけんの“仕事論”を聞いてみたい。この辺、今回の著書にしっかり収められているので、かいつまんで紹介していこう。
若手AV男優が育たないワケ
日本にAV女優は1万人ほどいると言われているが、一方でAV男優は約70人しかいないそう。その原因は、SNS普及による「バレ」が挙げられる。「アイツ、AVやってるんじゃね?」という疑惑が発見者周辺で確定され、結果的に親バレ・会社バレで辞めていく男優は少なくないそうだ。

「確かに、AV男優という職業の社会的評価はドン底ですが、本当に男優になりたいのなら、バレを怖がったり、周囲の目を気にするようではダメでしょう。どんな職業でもそうですが、本気でその仕事に就きたいのなら覚悟が必要になります。何かを得れば何かを失う。それはAV男優も変わりません」

売れる男優・売れない男優
広いようで狭いAV業界、仕事をゲットするには人間関係が大事になってくる。実力・勃起力が優れていても、こちらを疎かにしていては人気者にはなれない。場数を踏み、ヒエラルキーの上へ行くには、スタッフに現場を紹介してもらう必要があるのだ。
「『おはようございます』『ありがとうございました』という基本の挨拶や、撮影現場の控え室は自分が来たときよりも美しく、トイレが汚れていたら自分が汚していなくてもキレイにする。それは人に見られていなくても、です。(中略)これは男優業だけでなく、すべての職業に当てはまるような気がします」
実は、今をときめく一徹氏も「汁男優」として業界入りしており、その真面目な姿がしみけんの目に留まったのが契機となった。
「絡みをするとき、僕以外に汁男優が5人呼ばれていました。そのなかの1人が一徹でした。5人のなかで、一徹だけが監督の指示をメモに取っていました。撮影現場ではとてもめずらしい光景だったので、はっきりと覚えています」
しみけんは一徹を弟のように可愛がった。AV男優にとって便利な中野(各スタジオにまんべんなく近い)に引っ越させ、新たに住む物件もしみけんが決断。その後の一徹は売れっ子となり、「エロメン」ブームの火付け役となる。
「もし、初めて会った現場で一徹が熱心にメモを取っていなかったら、こんなに仲良くなっていなかったのかもしれません。人生、何がどうなるかわかりません」

自分が良いジンクスになるように
「『日本茶を入れたときに茶柱が立っていると縁起がいい』みたいに、『デビュー作でしみけんをあてたら長続きする、売れる』『乱交複数プレイのときにこの人がいるとまとまる』のように『自分が良いジンクス』になりうるよう、自分自身をブランディングするんです」
「凌辱ものならあの男優、デカチンならあの人、というように、自分の得意なジャンルやスタンスを伸ばし、あっちゃこっちゃ手を伸ばそうとしない。オールマイティプレイヤー、ユーティリティプレイヤーもいいですが、それだとオファーの順番が後回しになってしまいます」

このブランディングについてもっと突っ込んだしみけん発言があるので、そちらも引用しよう。
「ボクだって本当は女優さんのウンコを食べたいですよ。(中略)だけど、それやっちゃうと『そういう人』になっちゃう。だから10年以上前に、仕事でウンコ食べるのは卒業したんです」
「好きだから」と過激な仕事ばかり選んでいると、アングラになってしまう。自分のやりたいことをガマンし、プロとしての務めを優先させるのだ。
「だけど、そのガマンもパワーになるんですよ。ウンコ食いたいパワーを、大型新人のデビューのほうに出してやろうと思うから」(「KAMINOGE」vol.43インタビューより)

18歳でAV業界入りしたしみけん氏は、「死ぬまで男優」を目標にしているという。
「『一生やりたい仕事に就いてないなんて不幸だね』って思っちゃうんですよね。リタイアのことを考えてる人は、いまの自分の時間を売ってカネに換えてるだけって感じがします。ボクは一生AV男優でいたいですから」
(寺西ジャジューカ)