団地や工場の敷地など、日常の光景の中にヌッと姿を現す非日常、といった趣のある、給水塔。

一冊ひたすら給水塔の写真集 撤去され失われていく美
岐阜県多治見市の給水塔。


給水の水圧を安定させるために設けられる施設だが、その大きさや形状は、独特の存在感をかもし出す。


一冊ひたすら給水塔の写真集 撤去され失われていく美
千葉県印西市。


そんな給水塔を、全国各地をめぐり撮影したのが、比留間幹さん。写真を一冊にまとめた『給水塔 Beyond The Water Tower』が出版された(リトルモア/1800円・税抜)。

一冊ひたすら給水塔の写真集 撤去され失われていく美


タイトルの通り、すべての写真が給水塔。塔単体ではなく、「給水塔のある風景」の写真だ。
季節や時間などもさまざま、もちろん形状も個性的な塔の数々には不思議な引力を感じる。

一冊ひたすら給水塔の写真集 撤去され失われていく美
個性的な形状が多い。北海道小樽市。


そんな比留間さんは、給水塔のどういった点に魅かれたのだろうか。
比留間さんに聞いた。
「周囲に馴染むことのない、唐突かつ異様な存在でありながら、どこかもの静かで孤立感にあふれたその在り様です」
ある日、レンズテストのために撮影した遠景写真の端に、たまたま写り込んでいた1本の給水塔。
「それがなぜか無性に気になり、呼び付けられたような気がしました」
それが、給水塔の引力なんだろうか。

一冊ひたすら給水塔の写真集 撤去され失われていく美
どこか日本の光景でないようにも感じられる。群馬県太田市。


写真集には63点の給水塔写真が収録されている。お気に入りの一枚はあるのだろうか。
「それぞれに思い出、思い入れがあり、優劣はつけがたいです。
ただ、これをひとつの“句読点”にしようと決めて臨んだ、沖縄の竹富島の塔はとても強く印象に残っています。結局、それでおしまいにはなりませんでしたが」

では、比留間さんが感じる、「好きな給水塔」「いい給水塔」とは?
「写真を通じてその塔の在り様に近づけたと思えた時が、自分にとっての『絵になる』時であり、それをいくらかでも可能にしてもらえた塔が、自分にとっての『いい塔』となります。決して姿形のみではありません」

気になるのは、全国の給水塔がある情報を、どのように仕入れるのかということ。
「情報の収集先は、各自治体の水道に関する情報、集合住宅の情報、ネット上での航空写真、個人の方々の記録など、多岐にわたります。自分は『給水塔写真』の先駆けでも何でもありません。特にウェブ上の先行者の方々の記録なしには活動を順調に滑り出させることはできなかったはずで、この場を借りて感謝を申し上げます」

一冊ひたすら給水塔の写真集 撤去され失われていく美
幻想的な、給水塔のある風景。群馬県館林市。


事前に位置情報などは確認するが、それ以上の情報はなるべく入れないという。

「それは、新鮮な反応のためにマイナスになるからで、やっと出会えたという思いや、こんな状態であるのかという驚きを大切にしたかったからです」
だから、ナビなどは用いない。
「迷うことも前提に入れ探索しますので、大変とは思いません。迷って得られた意外な出会いのほうが、そのために費やした時間のロスを補って余りある良い結果をもたらしてくれるからです」

とはいえ、事前に情報を得ることが少ないゆえの失敗もあった。
「山形の塔なのですが、雪支度を整え、車と新幹線を乗り継いで向かった先で、撤去されていた光景を見たときには、かなりへこみました」
そう、給水のよりよい環境が整い、給水塔はその役割を終えつつある。このように、撤去や解体をされるものもあり、写真集に収録されているものにもすでになくなっているものもある。そのような、失われていくものの美のようなものも、この写真集の見どころのひとつだ。


12月10日まで、西新宿のエプソンイメージングギャラリーエプサイトにて、「比留間幹写真展 給水塔 Beyond The Water Tower」が開催中。
「資料的観点から見れば満足のいくものではないかもしれませんが、給水塔の佇まいこそがお伝えしたいことです。自分が感じ、写し取ったものがみなさんに届きますよう、願っています」
と比留間さんは語る。

給水塔ウォッチに興味をもった人には、こんなアドバイスが。
「一般の方の住環境に近いケースも多いので、レンズを向ける先や立ち位置には気を配ったつもりではおります。あと、検索においては、『給水塔』というフレーズではなく、『配水池』『高架配水池』としなければたどりつけないものも多々あることと、目の疲れでしょうか」
(太田サトル)