出版社の校閲部に所属するファッション大好き女子・河野悦子(石原さとみ)の活躍を描く“水10”ドラマ『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』。
今夜7話「校閲ガール」石原さとみ「ゾンビメイクには女の子を可愛く見せるポイントが詰まっている」
「VOCE」2016年12月号/講談社

題材は地味ながら、視聴率面では健闘が続き、先週放送された第6話の視聴率はこれまで最高の13.2%
ずっと11%台が続いていたからジャンプアップだ。ただ、これは直前に放映されていた特番『ダイエット・ヴィレッジ 「私をデブとは言わせない!」女8人の大減量合宿』が12.9%の高視聴率だった恩恵もあると思う。やっぱり女性視聴者が多いんだろうなぁ。

あらゆるジャンルの本を手がけるスーパー編集者・貝塚


第6話の内容は、今年の春ドラマ『重版出来!』にちょっと似ていた。作家と編集者の話だったからだ。悦子(石原さとみ)ら校閲部も活躍する。

悦子が想いを寄せる大学生兼モデル兼作家の折原幸人(菅田将暉)だが、作家としてはスランプに陥っていた。担当編集者の貝塚(青木崇高)からの電話にも出られない状態だ。

一方、悦子たち校閲部は新雑誌『月刊こどものべる』の校閲の仕事を任される。この雑誌は、子どもたちに小説の楽しさを知ってもらうためのもの。これ、なかなかいい企画だと思うんだけど、どこかの版元がやらないかしら?

ところが、掲載される人気作家の小説の言葉遣いが難解だったため、悦子は編集担当の貝塚に反発する。人気作家の小説があるから雑誌が売れるんだと言い張る貝塚。そこへ「この人は売れれば何でもいいんですよ」と言いながら現れたのが、異常にイケメンのバイク便・桐谷(安藤政信)だった。
実は桐谷は作家志望だったが、担当していた貝塚の過剰なアドバイスで追い詰められてデビューできなかった経験があり、貝塚のことを恨んでいたのだ。

それにしても貝塚は、純文学、主婦ブログの本、伝説のスタイリストのコラム集、そして新創刊雑誌の人気作家の担当と、仕事が多すぎ&幅広すぎ。有能な編集者に仕事が集中する現在の出版界の状況を表しているのか、単にそのほうがお話の都合がいいからなのか……。

やりたくない仕事を嫌々やるのが仕事?


結局、人気作家は自ら『月刊こどものべる』を降板する。自分の仕事に納得できていなかったのだ。「納得していない仕事が世に出るなんて良くないじゃん」と言う悦子に対して、貝塚はこう言い返す。

「何言ってんだお前。そもそもな、自分の仕事に心から納得してる人間なんてそうそういねえんだよ。お前だってそうだろ? 校閲の仕事をやりたくてやってるわけじゃねえだろ。本当はファッション誌やりたいのに、嫌々やってるんじゃねえのか?」

貝塚の言葉を、顔をひん曲げて聞いていた悦子は「ぜんぜん違うんですけど」と反論する。今は『ヘビの飼い方』という本の校閲をしているが、ファッションエディターになったとき、ヘビ柄に詳しくなったから絶対に役に立つというのだ。『ゾンビ図鑑』の校閲も、ゾンビメイクには女の子を可愛く見せるポイントがいっぱい詰まっているから役に立つと語る悦子。本当かよ。


悦子の底抜けの前向きさ加減に、呆れつつも感心する貝塚。貝塚こそ、自分の仕事に納得がいっていなかったのだろう。悦子に向けた言葉は、実は自分に言い聞かせていた言葉である。まったく子ども向けじゃない小説を売上のために載せることに対して、心のどこかで違和感を持っていたのだ。

悦子の前向きさは一種の才能だ。ファッションエディターを目指して20代後半になるまで何年も就職浪人を重ねるなんて、なかなか常人ではできないこと。そして校閲部に配属された現在も持ち前の前向きさで目の前の仕事に打ち込んでいる。もし悦子が、どこかでスネたり、後ろ向きになっていたとしたら、ファッションエディターどころか出版社にも入れなかっただろう。ファッションエディターへの道は完全に閉ざされることになる。

その後、デビューをあきらめなかった桐谷が子ども向けに書いた小説を貝塚が見つけ、人気作家の穴埋めに起用することを強硬に主張。悦子たち校閲部の尽力もあって、無事に入稿できた。桐谷は晴れて小説家としてデビューできた。
これだって、桐谷が小説を書き続けていなければあり得なかったことである。

どんな状況でも前向きに自分の仕事に取り組んでいれば、道が開けることもある。道が開けなかったとしても、きっと人生に充実感をもたらしてくれる。これが『校閲ガール』というドラマ全体のテーマである。

このテーマを筆者なりに言い換えると、不遇の状況でも続けられることは、自分に向いているということだ。自分に向いていないことを無理に前向きになって続けていても、いつか破綻してしまうので注意が必要である。

石原さとみ&菅田将暉のファッションチェック


今回、ファッションが内面を表しているシーンとして注目したいのは、悦子が幸人の一日を尾行するシーン。

幸人が着ていたシャツには「rage」と書かれている。これはロックバンドRage Against The Machineの長袖Tシャツ。「rage」は英語で「憤怒」という意味。幸人は老人たちとゲートボールをしたり、カラオケをしたり、子どもたちと腕相撲をしたりと楽しそうに過ごしているが、実は小説のことで深い悩みを抱えていた。また、森尾(本田翼)と同居していることが悦子に知られてしまったことでも、辛い気分を味わっていた。
二重の辛さがシャツのロゴに現れている……ような気がする。

尾行してしまったことを電話で詫び、幸人と会う約束を交わした日の悦子の服は、悦子がよく着ているMystradaのVニットとsnidelのチュールスカート。Mystradaのブランドコンセプトは以前も紹介したとおり「私の道」。悦子が自信を回復したときによく着ているような気がする。snidelのテーマは「大人のスウィート」。今冬の流行アイテムのチュールスカートは、ふわふわとしたシルエットが可愛らしさを表現している。デートの日なんだから、可愛らしくありたいという悦子の心の表れだろう。これもよく使うmanipuriのペイズリー柄のバンダナで胸元にアクセントをつけることをお忘れなく。

関係ないが、貝塚が幸人を連れ出したバーは南青山の「Rybeus(ルベウス)」。めちゃくちゃ高いというわけではないが、なかなかシャレオツなバーだ。ふーん、文芸編集者と作家はこういう場所で飲んでるのね……。

さて、今夜放送の第7話は、大御所作家、本郷大作(鹿賀丈史)が再登場。
なんと、本郷と幸人は親子だった……? 悦子と幸人の恋の行方にも注目だ。
(大山くまお)


参考→「地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子」の原作を絶対読むべき理由
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