今夜10時から放送される石原さとみ主演のドラマ『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』。ファッション雑誌の編集者を目指していたのに校閲部に配属された河野悦子の奮闘を描く“水10”らしいお仕事ドラマだ。

今夜5話「校閲ガール」石原さとみのファッションは何故見下されているのか
「Sweet」2016年 11 月号/宝島社

今秋から、通常の視聴率に加えて、録画を1週間以内に視聴した“タイムシフト視聴率”と、両者を合算して重複分を引いた“総合視聴率”という指標が導入されているが、先月31日に発表された数字によると、『校閲ガール』の初回総合視聴率はなんと21.1%、第2回は19.6%、第3回は21.0%と非常に高いものだということがわかった。最近では、同じく総合視聴率が高い『逃げるは恥だが役に立つ』と“秋ドラマ2強”とも言われているようだ(織田裕二の探偵ものはなぜカウントしない?)。

『校閲ガール』の魅力とは何か? それは主演の石原さとみに尽きる。チャーミングさには磨きがかかり、演技はいつでもハイテンション。演技に“ナチュラル”と“ディフォルメ”という軸があるとしたら、『校閲ガール』の石原さとみは明らかに“ディフォルメ”に振り切っている。

ところで、先週放送された第4話では驚くべきことが起こった。石原さとみ扮する主人公の河野悦子がまったくドラマに絡まなかったのだ! 

主人公がドラマと絡まないオリジナルストーリー


人気の清純派女優・杉本あすか(南沢奈央)の自叙伝の校閲を担当している悦子。しかし、雑誌記者・山ノ内(山中聡)によってあすかの隠し子がスクープされ、自叙伝の発売が危ぶまれる事態になってしまう。

自叙伝で幼少期のあすかの苦労や寂しさを知る悦子は、あすかの釈明会見に乗り込もうとするが、当然ながら入口で守衛に止められる。会見では山ノ内に責め立てられたあすかが失神。ようやく会見場に潜り込んだ悦子だが、倒れているあすかに救急車を呼ぶのがやっと(あすかの事務所は誰も何もしない)

ところが、山ノ内の質問が悪意に満ちていたため、会見を生放送で見ていた視聴者たちが「マスゴミ」と激怒。世論はあすか擁護にまわり、自叙伝は無事に刊行されることになる。
あすかも子どもと過ごすことができるようになってメデタシメデタシ、というお話だった。やっぱり悦子、本編にほとんど絡んでません。ついでに言うと、校閲者としても活躍していない

パパラッチ(とはいえ政治事件などもスクープしている)の山ノ内の「夢を売る女優に隠し子がいるなんて許せない」という理屈は、ネットに棲息するおかしなアイドルファン程度のもの。うっすらと「スクープを望んでいる客がいるからこそ自分の商売が成り立つ」と匂わせているのも、ちょっとありがち。同じくパパラッチを題材にした公開中の映画『SCOOP!』っぽいところもあるかと思ったけど、特になかった。実は4話は原作にないオリジナルストーリー。脚本は『ドS刑事』の川崎いづみ。

仕事は地味だが服が派手な石原さとみVS真逆の本田翼


4話の本編は、ドラマの最初と最後にある。悦子が無邪気に思いを寄せるモデルで覆面作家の折原幸人(菅田将暉)とのおでんデートのシーンと、不倫に苦しむ悦子の後輩でファッション誌の編集者・森尾登代子(本田翼)がいきなり幸人にキスしてしまうシーンだ。

森尾はドラマの前半で、編集長(芳本美代子)にこんなことを言われている。

「読モ上がりで、この業界知ってるアドバンテージでフワフワやってこられたのもここまでよ。きれいなだけで、要領良く生きてるあなたはくだらない。
しぶとく、ガムシャラに生きている人には絶対にかなわないわよ

編集長としては森尾への叱咤激励のつもりだったろうが、ハードワーカーの森尾(徹夜もかなりしている)はこの一言で一気に追い詰められる。おまけに不倫相手との恋もままならない状態。一方、ガムシャラな悦子はジワジワと幸人との距離を縮めているように見える。森尾にとっては八つ当たり気味のキスだったわけだが、これが本気になる可能性もある。恋愛っていうのはそういうところもある。

ファッション誌の編集という派手な仕事をしているがファッションも表情も地味な本田翼と、校閲という地味な仕事をしているがファッションも表情も派手な石原さとみという対立構造が見えてきた。2人の共通点は「やりたい仕事をやれていない」ことと「恋愛がうまくいっていない」ことである。

悦子はただの非モテな趣味人!?


そういえば筆者の知り合いの若い女性ライターが面白いことを言っていたのだが、彼女によると悦子のファッションは「やりすぎ」で、一見地味に見える森尾のファッションのほうが「モテ」に近いのだという。これは少しわかるような気がする。

先週の記事で、悦子が幸人の出るファッションショーに出向く際、20万円を超えるコーディネートで出かけたと書いたが、ちょっとデートには不向きのように思える服だった。4話でも、八王子の団地の前を悦子が歩くシーンがあったが、明らかに周囲の風景からは浮いていた。

安アパートの中に大量の服を所有する女性という意味では、悦子はドラマ『やまとなでしこ』の桜子(松嶋菜々子)と近い。
しかし、桜子の服はモテのツールだったのに対して、悦子の服はモテを意識していない。『やまとなでしこ』が放送されてから16年経つが、女性の意識も変わったということか。

ファッションの効用を「気分が良くなる」と説く悦子は、あくまでファッションが好きだから高い服を買って着ている。悦子は極度に自分の趣味にハマっているだけであり、鉄道マニアやアイドルマニアの男性とたいして違わない。だから、どんなに悦子がファッショナブルでも、モテに長けた受付の女の子たちから見下されているのだ(悦子の見下されぶりは原作に顕著)。

非モテで趣味人でおでんとコップ酒が好きな石原さとみ。うーん、なんだか親しみが湧く理由がわかってきたような気がしたぞ。本日放送の第5話は、イタリア在住の人気スタイリスト・フロイライン登紀子(川原亜矢子)が登場! 校閲してやる!
(大山くまお)

参考→「地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子」の原作を絶対読むべき理由
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