松重豊の代名詞といえば、2012年から放送が始まった大ヒットシリーズドラマ『孤独のグルメ』(テレビ東京系)だが、その一方で大の音楽好きとしても知られる。

 音楽の虫となり、世界中の音楽に対して常にアンテナをはっているという。
『孤独のグルメ』の世界的人気、さらに世界的スターBTSとの交流なども後押ししながら、日本国内にとどまらず、世界の中で考えるエンタメ観がある。

 2026年4月16日、日本外国特派員協会の記者会見にのぞんだ松重による提言は、“世界の中の言葉”として響いているのだ。“イケメン研究家”加賀谷健が解説する。

韓国人気とシーズン間を結びつけるもの

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 結びつけるもの。導くもの……。2012年に記念すべきシーズン1が放送されたシリーズドラマ『孤独のグルメ』には、実に豊かなシンクロナイズが散見できる。

 主演俳優の名前が松重豊だからか、ほんの風まかせ気分でドラマを視聴していたとしても、シリーズ間のあれこれを豊かに重ね合わせる自由を楽しめる。

 シーズン1最初の舞台は門前仲町だったが、輸入雑貨商の主人公・井之頭五郎が都内の飲食店を中心に、旨いものを好きなだけたらふく食べる。ほんとにそれだけのドラマ。

 五郎の職業柄、ときに海外出張もあり、初の出張先はシーズン5(2015年)の台湾で、2話にわたって放送された。他にも2018年のシーズン7第9話と10話では韓国に赴いた。

 韓国内ではJチャンネルというケーブルテレビが、シーズン1放送当時から放映を始めていた。この韓国編によって、『孤独のグルメ』シリーズの韓国人気が一気に高まった。


 ご飯はみんなでワイワイ食べるという韓国食文化の価値観に対して、五郎のソロ活飯が与えた影響を指摘する意見もあるようだが、同国視聴者の耳には何より五郎の食レポモノローグが心地よかったようである。

 日本から韓国へ、シリーズ間を結びつけるものは“音”なのだ。

伊豆・わさび丼神回が世界的スターBTS Jinと繋がる瞬間

 韓国編前編の舞台はビビンバや国際映画祭で有名なチョンジュ(全州)だった。異国で手探り状態の五郎は定食屋に入り、ビビンパ(ビビンバの韓国発音に近い表記)を食べた。

 ご飯と混ぜる具材の小皿の多さに圧倒されながら、具材を2回にわけて納豆汁入りビビンパを楽しみ、シメのお粥を口に運ぶとき、耳福のバックミュージックが画面上に流れる……。

 3連符のリズムを刻む4拍子のピアノとエレクトリックギターが掛け合うバラード曲だ。この曲はシーズン3第3話で、五郎が伊豆のバス停に到着して歩き出す場面でも流れる。

 伊豆といえば、わさび。五郎は定食屋で食べたわさび丼を気に入り、2杯も注文した。同じ曲が流れる韓国編と伊豆編で、ご飯物が共鳴する(因みに韓国出張先の社長役を韓国のバラード歌手ソン・シギョンが演じ、松重とは2025年配信のグルメバラエティ『隣の国のグルメイト』で共演している)。

 そしてこの伊豆・わさび丼神回と繋がるのが、韓国が誇る世界的スターBTS Jinなのだ。

 2025年3月18日公開、BTSの公式YouTubeチャンネル「BANGTANTV」でJinが担当していたコーナー「Run Jin」エピソード26に松重がゲスト出演した。Jinは兵役中に『孤独のグルメ』をよく見ていたらしい。


 チムジルバン(韓国の温泉施設)でゲームを繰り広げた番組序盤、まずはゆったり足湯に浸かる場面がある。

 日本の温泉好きなJinがわさび丼を食べたと言うと、松重がそれは『孤独のグルメ』で有名になった食べ物だと教える(「わさび丼、はいはいはいはい、わさび丼、食べました」と日本語で言うJinがほんとにキュート!)。わさび丼神回が世界的スターと繋がった瞬間である。

松重とJinのグローバルな音の共演

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©2025「劇映画 孤独のグルメ」製作委員会
 それだけではない。あくまで音に着眼するなら、五郎がチョンジュの食堂でビビンパの具材とご飯をまぜまぜしていた音を導くことができる。

 クチャクチャ。クチュクチュ。粘り気のある音が鳴っていた。この音はJinが大好物のムルフェ(水刺身)を作るときにも必ず聞こえる。現在BTSワールドツアー中のJinが、北米公演の合間にムルフェを作る様子をアップしたInstagram投稿(2026年5月16日)がちょうど世界中のニュースで話題になった。

 食べ物の音と音が国と国を越えて、響き合い、シンクロ。松重とJinはグローバルな音の共演を果たした。

 大の音楽好きでも知られる松重は2025年に、パーソナリティを担当するラジオ『深夜の音楽食堂』で、BTSのリーダーRMの2ndアルバム『Right Place,Wrong Person』から「Come back tom me」を紹介した。


 さらに星野源との番組『星野源と松重豊のおともだち』(NHK総合、2026年1月21日放送)でも同曲をセレクトしていた。

 RMによるアルバム制作の過程を追ったドキュメンタリー映画『RM:Right People,Wrong Place』は2024年の第29回釜山国際映画祭でワールドプレミア上映されたが、松重が監督、脚本、主演を兼任した『劇映画 孤独のグルメ』もまた同じ上映枠の1作だった。

松重豊の提言は“世界の中の言葉”として響いている

 巨匠・黒沢清監督作『地獄の警備員』(1992年)で映画デビューした松重は今、マルチな才覚を研ぎ澄ましている。

 そのことを示す集大成(であると同時に経過点)的な場として、日本外国特派員協会での記者会見(2026年4月16日)がある。

 アメリカの経済紙『Forbes』の記者から、『孤独のグルメ』をハリウッド化するならどんな俳優がいいか質問されれば、ニコラス・ケイジかジョージ・クルーニーとワールドワイドな返答もできる。

 さらに日本のドラマの「風潮」について、「何かをどんどんわかりやすくするってことがこれまで俳優としてやってきたこととちょっと方向性は違うんじゃないかなと。やっぱりお客さんは役者の表情とか佇まいから想像するものっていうこと。想像させることていうのは、丁寧でやさしいっていうこととは違う」と話した。

 そうしたドラマが日本でも増えてほしいとも提言したのだが、『地獄の警備員』で演じた元力士役の強靭な存在感がいかに観客の想像力を掻き立てたか……。

 他にも日本の制作体制の課題にも言及した、記者会見での松重の言葉は単に日本国内での発言にとどまるものではない。それは、“世界の中の言葉”として響いている。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
イケメン研究家 / (株)KKミュージック取締役
“イケメン研究家”として大学時代からイケメン俳優に関するコラムを多くの媒体で執筆。
アーティストマネジメント、ダイナマイトボートレース等のCM作品やコンサートでのクラシック音楽監修、大手ディベロッパーの映像キャスティング・演出、アジア映画宣伝プロデュースを手掛ける。他に、LDHアーティストのオフィシャルレポート担当や特典映像の聞き手など。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。
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