なぜ、独身でいる理由をいちいち説明しなくてはならないのですか?【勝部元気のウェブ時評】
結婚したくない男性はおかしい?(画像は本文とは関係ありません)

専業主婦になりたい女性と結婚したくない男性のラブストーリーを描いたという月9ドラマ「突然ですが、明日結婚します」。ネットニュースでは低視聴率が続いていることばかりが話題になっていますが、近年増加する結婚をテーマにした作品ということで、気になって3話まで視聴したのですが、内容もゲンナリするものでした。


結婚に関する価値観が転換期を迎える今、多様な価値観のもと複雑な人間関係が織りなすドラマを描けると思うのですが、社会的な背景に関しては初回の冒頭に軽く触れただけ。

むしろ、男性が結婚したくないという価値観に至った背景には育った家庭環境や過去の恋愛等が影響しているようなことが匂わされており、同クールの『東京タラレバ娘』ほどではないにせよ、結局のところ「結婚したいと思うことがフツウ」という"呪い"にかかった人の見方だと強く感じました。

なぜ、結婚したくないことにだけ理由が求められるの?


「結婚することは当たり前」という価値観はまだ根強いものの、生涯独身者が急増する時代に突入したこともあって、徐々に薄れてはいると思うのですが、その一方で、「結婚したいと思うことは当たり前」という価値観はかなり根が深いように感じています。

たとえば、「どうして結婚したくないの!?」とは言われますが、「どうして結婚したいの!?」とは言われませんよね。なぜ、結婚したくないことにだけ理由が求められるのでしょうか? 結局はそこに「人は結婚したいと思うことが当たり前なのだ」という決め付けと偏見が存在します。

おそらく、本当はさほど結婚をしたくないと思っている人でも、「結婚したくない」と言えば根掘り葉掘りその理由を聞かれて、それが非常に面倒だから、ひとまず「結婚したい」と偽っている人も少なくないと思うのです。

結婚したくない人が変わり者扱いされる社会


ちなみに私も結婚したくない派の人間(正確には家庭生活を築くとしても日本の結婚制度と文化に則った婚姻契約はしたくない)なのですが、サラリーパーソン時代にそれを言ったら「変わり者扱い」され、「そういう人もいるのか」ではなく、「そのうち分かるよ」と言われました。プライベートなことに言及した挙句、他人の人生観を否定するのですから、ハラスメントですね。

「結婚制度や文化に対して全然詳しくわけでもない人が何を言っているの?こちとらそういうことを色々と調査・発信している人間なんだけど」と思って反論したら、そのような捨て台詞を吐かれたわけですが、残念ながらこのように価値観の多様性を全く理解できずセクハラをかます人はいまだに多いのではないでしょうか?

以前、政府が検討している職場内における婚活斡旋策に関して反対の意を表明した記事を書きましたが、価値観や人生観の多様性の概念すら認識できていない人が蔓延っているわけですから、セクハラを懸念する声があがることは当然でしょう。


既婚者が納得の行く理由を欲しているだけ


結婚観に関する統計の質問項目を見ても、「結婚したいと思うことがフツウ」という"呪い"にかかった人の見方が色濃く反映されているとつくづく感じます。

たとえば、独身者に対して「独身のままでいる理由」を聞く調査項目があって、ニュースでも大々的に取り上げられるわけですが、「独身のままでいたくない理由」が注目されることはほとんどありません。

「独身のままでいる理由」において列挙されている選択肢を見ても、「本当は結婚したいのだけれど諸条件がそろっていないから無理だと感じているんだよね?」と、単に彼等が納得の行く理由を欲しているだけのように感じるのです。

統計以外でも、「本当に結婚したいと思える人に会っていないだけ。西内まりやが現れたら結婚したいと思うでしょ?」とか「どうせ高望みしているだけでしょう」等、何かしら理由を見つけ出して自分を納得させようとしますが、それは結局単に「自分が納得したいだけのエゴ」ということを分かって欲しいものですね。

既婚者に感じる結婚に対する温度差


また、「何となく結婚はしたい」と思っている人でも、多くの場合、「結婚したいと思うことがフツウ」という"呪い"にかかった人が想定しているほど、結婚することにさほど重きを置いているわけではないのが大半だと思います。「ガチガチに決めているわけではないけれど、まぁそうなったら良いかな」や、「結婚したけれども犠牲にできないこともたくさんある」くらいの感覚でしょう。


それにもかかわらず、呪いにかかった彼等は、「結婚したいと思っているのになぜ焦らないのだ?」といぶかしむわけです。そして、「言行不一致だぞ!結婚したいならもっとそれに見合った行動をしなくては!」と解釈して、相手が求めてもいないアドバイスを繰り出します。

もちろん独身者のほうも全く結婚したくないわけではないので、ハッキリとアドバイスは要らないとも言えず、とりあえずは聞く素振りをせざるを得ません。彼等のような結婚の形や捉え方は単一だと妄信してやまない「めんどくさい既婚者」は、若くして老害っぷりを発揮していることを是非自覚して欲しいものですね。


「落ち着く」という表現に見るマウンティング意識


最近でこそ、独身のままでいる人がかなりの割合を占めるようになったため、「男は結婚して一人前」のように仕事とプライベートを混同する考えは減ったと思うのですが、結婚することを「落ち着く」と捉える人はまだ残っているようです。

もちろん結婚しても落ち着いていない人はいますし、独身でも落ち着いている人は多々いますが、そもそも「落ち着く」と捉えること自体が、婚姻関係以外のパートナーシップのことを卑下している裏返しではないでしょうか? 婚姻関係にあるパートナーシップが「上」でそうではない関係は「下」と見なしている感じがヒシヒシと伝わってきます。

おそらく彼らはマウンティングがしたいだけなのでしょう。「結婚していない=落ち着いていない=子供だ」という思考回路で、単に自分を肯定したいだけのように思うのです。誰かを否定しなければ自己を肯定できない状態って、結局本当の意味で自己を肯定していることにはならないのですが、それも分かっていないのかもしれません。

また、そういう人には、「事実婚がかなりのパーセンテージを占めるフランス人やスウェーデン人はそれだけ落ち着いていない人が多いということですか?」と問いたいものです。「YES!」と答えそうな人も多そうですが…

「問題を起こす人は独身者」という偏見


また、何か問題を起こした従業員がいた時に、その人が独身だった場合、「やっぱりか。あいつが独身なのも分かるな」と、自分を納得させる材料にする人も少なくありません。

言わずもがな、問題を起こす人は婚姻の有無とは関係ありませんが、彼らは自分が抱いた認知的不協和を解消するために、偏見を利用します。「既婚者であればそんなことはしない」という思い込みが正しいと納得するために、独身者を悪者に仕立て上げるわけです。


結局のところ、彼等は結婚ということに宗教的な妄信を抱いているか、本当は自分が結婚したという選択に本心から納得できていないために、自分が納得できるだけの理由を探しているか、どちらかと思います。

結婚に偏見を持っているから独身者から避けられる


でも、このような偏見こそが既婚者と独身者の間に更なる相互不理解や分断を生むわけです。そして、そうなった時、一番不信の目に晒されているのは、偏見を持つ人自身です。みんな一緒の時代ではそれでさほど問題は起こらなかったのかもしれませんが、今の時代にそのような偏見を強化するような人は、自ずと若い人から見放されていくでしょう。様々なコミュニティを見ていると、独身者から避けられる既婚者と避けられない既婚者は、偏見の有無も大きく影響していると思うのです。

日本社会はなかなか本音が語りづらい雰囲気で、とりわけ部下が上司に対して言いにくいこともたくさんあるかと思います。そんな中で、上司が「結婚したいと思うことがフツウ」という"呪い"にかかった人で、上記のような様々なハラスメントを繰り返し展開していたら、「突然ですが、明日退職します」ということが起きても不思議ではありません。

結婚に対する抑圧は、比較すると女性のほうが強いと思いますが、このように男性に対してもかなり根強く残っているのが現状です。独身者も既婚者も、結婚したい人もしたくない人も、ちょっとだけ願望のある人もかなり願望が強い人も、全ての人が生きやすい社会にするために、偏見を押し付けることはしないように心掛けて欲しいものですね。
(勝部元気)
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