
昨年、私はこの作品についてレビューしたとき、続編にも期待を抱いたが、まさかこんなに早くに戻ってくるとは予想外だった。
ちなみに主演である岡田将生・松坂桃李・柳楽優弥の3人はそれぞれ今年に入り、偶然にも「ゆとりですがなにか」本編(レギュラー放送版)と同じ日曜夜のドラマに出演していたが(松坂は「視覚探偵 日暮旅人」、岡田は「小さな巨人」、柳楽は「フランケンシュタインの恋」と「おんな城主 直虎」)、これが久々の集結ということになる。
正和の妻・茜の隠し事とは?
今回の「純米吟醸純情編」は、きょう7月2日と来週9日の2週にわたり放送される(いずれも夜10時半から)。それを前に、ちょっとおさらいをしておくと、岡田演じる坂間正和、松坂桃李演じる山路一豊、柳楽優弥演じる道上まりぶは、いずれも1987年生まれのいわゆる「ゆとり第一世代」。今年でちょうど30歳ということになる。
坂間正和は東京郊外の酒蔵の次男。勤務していた「みんみんホールディングス」系列の居酒屋「鳥の民」高円寺店に出向し、店長を務めるも、やがて退社して兄とともに家業を継ぐ。それとともに、会社の同期だった宮下茜と結婚した。バリバリのキャリアウーマンだった茜だが、結婚を機に坂間家の酒蔵を切り盛りすることになる。今回の「純米吟醸純情編」では、その茜が正和に隠していたことがあきらかになるらしい。
茜を演じるのは安藤サクラ。
一豊の前に地元の同級生が現れる!
主人公3人のうち唯一の地方出身者、福島・郡山生まれの山路一豊は、阿佐ヶ谷南小学校の教員である。教育実習生の佐倉悦子(吉岡里帆)とよさげな関係になるが、悦子の元カレにからまれたり同僚と争ったりと、けっきょく恋愛関係にまでは発展せず、童貞も捨てられずじまい。本編では悦子に振り回されっぱなしで、彼の純朴さが際立った。
「純米純情吟醸編」では、一豊の前に笠木久美(蒼井優)という地元の同級生が現れるようだが、はたして彼女とはどんな関係に!? 今回は一豊の両親も登場し、本編ではあまりくわしく描かれなかった彼のバックボーンも描かれるようなので、そのあたりも楽しみだ。
まりぶのOB訪問、そして「ゆとりモンスター」山岸のスピンオフはいかに?
道上まりぶは「ゆとりですが~」の登場人物のなかでもとくに波瀾に富んだ人生を送っている。正和と一豊が出会ったときは、高円寺のぼったくりパブの呼び込みをしており、中国人女性・ユカ(瑛蓮)と生まれたばかりの子供と同棲中だった。もともとは秀才少年だったようだが、見る影もない。そこには、父親の不倫や、優秀な兄に母親からとかく比べられることへの反発から名門中学を中退するなど、複雑な事情があったらしい。
正和と一豊はまりぶと出会う以前、「レンタルおじさん」なる人物(吉田鋼太郎)に互いに悩みを相談していたところで偶然知り合った。この「レンタルおじさん」こと麻生巌こそまりぶの実の父であったことが、あとになって判明する。本編では、まりぶと巌が初めて正面切って向きあい、ぶつかり合うシーンが印象に残る。
本編の終盤では、まりぶが暴行事件で逮捕され、ユカは入管の摘発から逃れて行方不明となる。だが、その後、正和によってユカは発見され、釈放されたまりぶと正式に結婚。まりぶは11浪の末に大学にも入学する。「純米吟醸純情編」では就職活動のためOB訪問を始めるというが、はたしてどんな展開が待っているのか。
このほかにも「ゆとりですが~」には、正和の後輩で、平成生まれの「ゆとりモンスター」として山岸ひろむ(太賀)という強烈なキャラクターも登場した。今回のスペシャル版放送にあわせて、この山岸を主人公にしたスピンオフ作品「山岸ですかなにか」もHuluで配信されるというから、こちらも見逃せない。
文部科学大臣賞も受賞
「ゆとりですがなにか」は一言でいえば、それぞれに事情を抱えた同世代の青年たちがひょんなことから知り合い、関係を深めていく物語だった。そこで思い出すのが、今年1~3月にTBSで放送された「カルテット」だ。
「カルテット」の主人公たちは、ゆとり世代よりも少し上の30代という設定ながら、そこで描かれる人間関係は「ゆとりですが~」とどこか重なって見えた。ひょっとすると脚本の坂元裕二は「ゆとりですが~」を意識して「カルテット」を書いているのではないか……と、放送時に考えながら見ていたら、途中で宮藤官九郎が俳優として重要な役で出てきたので驚いた。このほかにも、主人公たちをかき回す吉岡里帆の役どころといい、両作にはどこか似た匂いを感じることが少なくなかった。
「ゆとりですがなにか」は本編放送後もさまざまな反響を呼んだ。
それはともかく、受賞に際し宮藤は「ゆとりですが~」について、自分にとっては「社会派ドラマ」ではなく「社会ドラマ」のつもりであったと語っていた。
《“派”の有無は自分にとっては大問題で、いわゆる世相を斬るシャープなドラマが社会派だとしたら、社会を肯定も否定もせず、ただありのまま見たまま感じたままにたれ流す、そんな煮え切らない「社会ドラマ」が性に合っているなと》(「毎日新聞」2017年3月9日付)
それゆえ「過剰な演出」や、ギミックやギャグなど「自分の得意技、手癖」を封印して書いたとも明かしている。宮藤にとってはまさに新境地への挑戦だったわけだが、それは見事に視聴者に受け入れられた。
思えば、サラリーマンの仕事の現場など、「ゆとりですがなにか」には、宮藤がこれまでほとんど描くことのなかった事柄も多い。社会と正面から向き合うのがほぼ初めてという点で、脚本家としての宮藤と「ゆとりですが~」の青年たちには共鳴し合う部分があるのではないか。“受賞第一作”となる今回の「純米吟醸純情編」で作者と登場人物たちが新たにどんな挑戦を見せてくれるのか、楽しみだ。
(近藤正高)