7月27日(木)よる9時から放送の木曜ドラマ『黒革の手帖』(テレビ朝日系)第2話。
初回の視聴率は11.7%、2話はそれを上回る12.3%だった(ビデオリサーチ調べ/関東地区)。
過去に悪女役で女優として飛躍を遂げた『ブザー・ビート』(フジテレビ系)の相武紗季や『女囚セブン』(テレビ朝日系)の剛力彩芽に、武井咲も続きそうだ。原作レビュー
「黒革の手帖」2話。目で魅せる武井咲、口もとで豹変する仲里依紗。若手女優の悪女演技覇権争い勃発中
イラスト/小西りえこ

2話あらすじ


派遣社員として勤めていた東林銀行から1億8000万円を横領し、それを開業資金として銀座にクラブ「カルネ」をオープンさせた原口元子武井咲)。一方、同じ銀行で働いていた山田波子仲里依紗)は、街頭でティッシュ配りをしていた。
クラブは開店できたが経営が思ったほどは順調でない。美容師の牧野和田正人)の提案で、波子をホステスとしてスカウトした。すぐに楢林クリニックの院長・楢林奥田瑛二)に気に入られた波子は、マンションやスポーツカー、さらには自分の店までもねだりはじめる。

目で魅せる武井咲、口元で演じる仲里依紗


クラブ「カルネ」でホステスになった波子。手を叩いて大口を開けて笑ったりお客様と野球拳をしたりと、銀座のクラブとは思えない庶民的な振る舞いが目立つ。

クラブ「燭台」のママ・叡子真矢ミキ)には「店の格が下がる」と注意されるが、かえって素人感がウケて人気が出てしまった。

波子「私、知らなかった。お金稼ぐのって、こんなに簡単だったんだね」

元子への恩義も忘れ、カルネが入っているビルの上の階に自分の店を開こうとする波子。元子に銀座のルールを説かれると「たかが水商売」と笑い飛ばす。
波子は金と男を得て、純朴な派遣社員から信じられないほどの嫌な女に豹変した。人をいらだたせる「嫌な感じ」はどこから出ているのか。


元々、波子の話し方や振る舞いはこどもっぽい。そこが鼻につかなかったのは、卑屈なときでも口角が上がっていたから。柔らかい口元が、こどもっぽさを人懐っこさや無邪気さに転換させていた。
では、悪女に変身してからはどうか。話すときも笑うときも、少し力を入れて口角を下げている。その状態で話すと、口が縦にも横にもあまり開かず人を馬鹿にしている印象を与える。
べっとりと塗られたグロスもいやらしい。

仲里依紗が嫌な女を研究して身につけた方法なのか、それとも自然と出てきた演技なのか。
目の動きや肩のすくめ方で品と狡猾さを表現する武井咲。口元と首の据わりの悪さで嫌な女の演技をつける仲里依紗。『黒革の手帖』は、若い女優たちの悪女の演技のバリエーションが面白い。

尽くした女は捨てられても幸せになれる


「黒革の手帖」2話。目で魅せる武井咲、口もとで豹変する仲里依紗。若手女優の悪女演技覇権争い勃発中
松本清張『黒革の手帖〈上〉』『黒革の手帖〈下〉』(新潮社)

2話でスポットが当てられたもう一人の女性は、楢林クリニックの婦長・中岡市子高畑淳子)。こちらは見ていてとてもつらかった。

楢林の夢である新病院建設のために、銀行に借名口座を作り脱税してコツコツとお金を貯めてきた。夫婦ではないが身の回りの世話もし、30年間も楢林に尽くしてきた人だ。

市子「あなた、自分がどれだけわがままかわかってない」
楢林「黙れ!」
市子「黙ってきたでしょう、この30年、私はずっと黙って……。私の30年を返して!」
楢林「お前のしわだらけの貧乏くさい顔、嫉妬深い目、脱いだストッキングのにおいをクンクン嗅ぐ癖! なにもかもうんざりだ!」

爪に火を点す思いで貯めてきた2億円を楢林が波子に使ってしまい、市子がそれに怒ったあとのやりとり。
30年間支えてもらった女性に対して、ここまで酷い言葉を吐ける男がいるのだろうか。結構いるのかもしれない。
恐ろしい。
「黒革の手帖」2話。目で魅せる武井咲、口もとで豹変する仲里依紗。若手女優の悪女演技覇権争い勃発中
大西明美『糟糠の妻はなぜ捨てられるのか』(プレジデント社)

後日「私に男を見る目がなかっただけです。30年間、長い夢を見ていたと思ってあきらめるしかありません」とこぼす市子に、退職金をもらえるよう楢林に交渉すると元子が申し出る。市子だけでなく元子にも不実を働いた楢林への復讐がはじまる。
弱って力なく笑う市子を見ると痛々しく悲しい気持ちで苦しくなった。しかし、成功して妻を捨てる夫の生態について書かれた本『糟糠の妻はなぜ捨てられるのか』(大西明美)には、こうある。


〈成功男を支え続けるだけの器を磨いてきた女性を、そのほかの男性が放っておくわけがない。だから、彼女たちの中には、また新しい恋愛や結婚生活で幸せになる女性も多い〉
(大西明美『糟糠の妻はなぜ捨てられるのか』プレジデント社 より)

元子の言うように、市子には退職金1,000万円を元手に自分の幸せのための人生を生きてほしい。しかし、3話にもまた登場する市子。涙を流しているシーンが予告に流れて心配だ。

2話で言ってみたいセリフナンバーワン


本筋とはあまり関係がないが、1つ心に残るセリフがあった。
クラブのママとして初めて市子に対面したときの元子の言葉。

市子「どこかでお会いしたかしら」
元子「いえ、お会いするのは初めてだと。よくある顔ですから」

いや、ないよ! 武井咲の顔はなかなかない!
楢林に「女性はね、みんなママみたいに綺麗に産まれたかったんだ」と言わせた武井咲の顔面で「よくある顔ですから」なんて言ってみたいものです。

『黒革の手帖』第2話は、テレ朝動画TVerで8月3日(木)のよる7時まで無料視聴できる。また、Amazonビデオでは有料配信中。
「悪を喰らう 悪女の野望」というおどろおどろしい予告がすでに怖い第3話は、8月3日のよる9時から放送予定だ。

(むらたえりか)
「黒革の手帖」2話。目で魅せる武井咲、口もとで豹変する仲里依紗。若手女優の悪女演技覇権争い勃発中
武井咲が表紙の『週刊ザテレビジョン PLUS 2017年8月4日号』(KADOKAWA)

木曜ドラマ『黒革の手帖』(テレビ朝日系)
毎週木曜 よる9時
出演:武井咲、江口洋介、仲里依紗、高畑淳子、奥田瑛二、伊東四朗、ほか
原作:松本清張『黒革の手帖』(新潮文庫刊)
脚本:羽原大介
監督:本橋圭太、片山修
ゼネラルプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
プロデューサー:中川慎子(テレビ朝日)、菊池誠(アズバーズ)、岡美鶴(アズバーズ)