FILE3前後篇のあらすじ


売れっ子漫画家・北村アキコ(内田慈)の娘・七恵(後藤由依良)は、留守番をしている最中に見えない何かと遊んでいた。五郎(瑛太)は、霊媒師・河合節子(蒼井優)と協力して悪霊退治を行い、見事北村家に平和が訪れた。
「ハロー張りネズミ」FILE3.少女のアザはどうなった。あえて回収しない伏線でホラーの表情が変わる
「ハロー張りネズミ 名探偵ゴロー参上!」アンコール刊行 (講談社プラチナコミックス)

回収しない伏線


二話で構成された「ママ、寂しかったの」は、簡単にいうとこんな感じ。ハッキリいって内容的には一話で十分収まる分量だ。
なぜ二話も必要だったのか、それは「ハロー張りネズミ」が、行間というか、余白の部分を大切にするドラマだからだと思う。

では、その余白とは何なのかというと、視聴者に想像させる部分のことだ。もっと明確にいうと、回収しない伏線のことだ。このドラマは、色々な回り道をさせ、そこで伏線を作る。その上でなんと、その伏線を回収しないまま終わらせたりするのだ。

これは、ミスリードとはちょっと違う。ミスリードは「Aと思わせて実はBでしたー」とか、「Aと思わせておいて、なんの関係もありませーん」だが、このドラマは「Aと思わせて、Aはそのまま放っておきまーす」なのだ。「Aのその後は想像におまかせしますー」なのだ。

張られていた伏線


今回の話で、丁寧に張っていたのに、回収されなかった伏線を簡単にまとめてみる。

・仕事で一切手を抜かないアキコは、アシスタントにビビられている

・アキコは、仕事場と自宅をわけている

・アキコは、何かあると必要以上に怒るヒステリックな一面を持つ

・七恵の身体に不自然な痣

これらから考えられるのは、DVだ。神経質なアキコは、七恵が仕事の邪魔になり、ストレスで暴力を振るってしまった。というのが容易に想像出来る。

だが、そういった種明かしは一切なかった。
シンプルに悪霊を倒して、めでたしめでたしで終わったのだ。DVはなかったのだろうか?

終わりよければ全て良し


ここで注目したいのは、タイトルにもなった「ママ、寂しかったの」という七恵の言葉。悪霊に襲われた直後なのに、「怖かった」ではなく、「寂しかったの」と言ったのだ。この言葉の意味は、「寂しかったから、それを紛らわせてしまった」ということだろう。七恵は、ママに化けていた悪霊が、ママではないと潜在的にわかっていたのではないだろうか?「ママ、寂しかったの」は、「ママ、寂しかったからもう一人のママ(悪霊)と遊んじゃったの」なのではないだろうか?

だから七恵は、悪霊の事を悪く思っていない。寂しさを埋めてもらった感謝の気持ちがあるから、悪霊が住んでいた部屋を自分の部屋にしているのだろう。

この悪霊の事件がきっかけで、アキコは自宅を仕事場に変えている。それにより、あんなにギスギスしていたアシスタント達との関係も良好になり、七恵も楽しそうに暮らしている。

やっぱり、DVはあったんだと思う。この事件がきっかけで七恵とアキコとアシスタント達との関係が良くなり、全てが良い方向に向かった。悪霊のおかげで、DVはなくなったのだ。DVは明るみに出なかったが、それでも終わりが良ければそれでいい。
無理にほじくり返す必要はない。今回は、そういう話だったのだろう。このドラマは、余白でこういうことを想像させてくれる作りになっている。

今夜放送の第6話は、ムロツヨシが殺人の容疑者に。ジャンルが毎回変わる“変幻自在な探偵ドラマ”だが、ここにきてようやく本格的なミステリー回になるらしい。

順番的には絶対ホラーの前にやるべきだと思うが、そこもこの作品の可愛いところだ。

(沢野奈津夫)

原作
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