
「anan」(2017/03/08号/マガジンハウス)官能の流儀!
政治ドラマの代表格『ハウス・オブ・カード 野望の階段』の製作が中止になっちゃった折、『民衆の敵』には頑張ってもらいたいのだが、先週放送の第2話の視聴率は7.1%とかなり苦しい出足だった。
第2話のテーマは「忖度」と「数は力」
頑張って働いても卵焼きしか食べられない生活を幸せだと思い込むのはもうまっぴらだ。私たちだってしっかり働けばステーキぐらい食べられる幸せを掴みたい。そんな主張で市議会議員に当選した佐藤智子(篠原涼子)。
直接的には言っていないが、「卵焼きしか食べられない生活」を「幸せ」だと思い込ませているのは現在の為政者であり、このドラマは「こんな世の中おかしいだろ」と主張している。第1話では女性の地位向上を訴える与党のベテラン議員を石田ゆり子に「嘘ばっかり」と斬り捨てさせ、挙句の果てに落選させてみせた。安全な橋を渡りたがる日本の政治ドラマにおいては大変野心的な試みなのだが、いかんせん第1話は運びが雑だった。
第2話のテーマは「忖度」と「数は力」。「忖度」は今年前半、森友学園問題で大変話題になった言葉であり、「数は力」は現政権の一強体制を表現した言葉だ。
「事実なんてどうでもいいんだよ!」
市議会で居眠りしていたベテラン市議の前田(大澄賢也)を叩き起こして説教した智子。しかし、前田は市議会の最大会派、犬崎派のナンバー2だった。犬崎(古田新太)は政策を話し合う委員会のメンバーを決める権限を握っており、誰も逆らえない状態にある市議会のドンだ。
早々に犬崎派入りを決めた新人議員の未亜(前田敦子)と、犬崎と対立する河原田市長(余貴美子)の支援を受ける新人議員の岡本(千葉雄大)が言い争う。
「数は力 by 田中角栄。だから所属議員いっぱい持ってる犬崎さんが偉いってことでしょ?」
「は! 数は力ってもはや暴力でしょ。強行採決とか民主主義じゃないよね?」
「あ~、負け犬の遠吠え」
2人の会話は、先日の衆院総選挙後の与党支持者と野党支持者の口ゲンカのようだ。一方、智子が前田をぶっ叩いた動画は、動画サイトで共有されて大きな話題となっていた。事態の収拾を図った犬崎は智子を呼び出し、議会で前田に謝罪して犬崎派に入るよう告げる。
「事実なんてどうでもいいんだよ! 前田は寝ていない。あんたの間違いだった。いいな?」
「それってちょっと……」
「ああ、嘘だよ! あんたポッと出で何の後ろ盾もないんだろ? 俺の会派に入れば安泰だ。俺に任せろ!」
「嘘ついて得する世の中で子育てしたくない!」
智子は毅然と犬崎の誘いを跳ね返し……というわけではない。市議になって年収950万をゲットした智子は、息子に本物のステーキを食べさせることができた。貧しさは「筋の通った嘘のない政治」を求めない。貧しさが求めるのは自分たちの生活が向上する可能性であり、それを実現する(してくれそうな)多数派だ。ステーキが食べられる生活の維持を求める智子は犬崎派入りに傾く。
迂回路建設のために公園の取り壊しを進める犬崎派だが、智子は建設反対の陳情書を提出してきた主婦(水川あさみ)から直接話を聞く。学生時代、いじめられていた彼女は公園が拠りどころだった。さらに議員仲間の藤堂(高橋一生)から「政治家として、あなたならどうします?」と問われたことで考えを改める。
市議会で壇上に立った智子は、迂回路の建設に賛成しつつ、公園の代わりになる、いじめられている子どもの拠りどころになる場所を作りたいと主張する。そして、そのための委員会に入りたいが、犬崎に言われた通りに嘘をついて謝らないと希望の委員会に入れないとバラしてしまう。
「嘘ついて得するとかって、そんなこと言ったら、正直者が損する世の中になっちゃうじゃないですか! 私、そんな世の中で子育てしたくないです。だからすみません、前田議員、居眠りしちゃダメですよ。以上」
智子のバッグからこぼれた子どものオモチャは、子どものように無垢な正義感を表しているのだろう。議場からの帰り、智子は犬崎に向かってこう言い放つ。
「私、忖度、苦手なんで」
なぜか「忖度」感のないストーリー展開
「嘘ついて得する」「正直者が損する世の中」というのは、やはり森友学園問題の頃の世相を示している。関係者と思しき人々は揃ってシラを切り、記録を廃棄する一方で、証拠がないと主張する。そんな世の中で子育てしたくないという気持ちはまったく同感だ。
ただし、最後の篠原涼子の演説にすべて委ねたストーリー展開は今回も雑。「私、忖度、苦手なんで」のセリフも、ものすごく篠原涼子っぽいイントネーションで非常にほろ苦い気分になる。そもそも古田新太演じる犬崎がものすごくストレートに「嘘をつけ」と迫っているので、まったく忖度(「人の心をおしはかる」という意味)という感じがしない。犬崎が何も言わないのに周囲が智子に忖度を強要するという展開のほうが自然だった。
サブストーリーとして走っているのは、政治家一族のジュニア、高橋一生演じる藤堂の孤独だ。絵に描いたようなアルカイックスマイルを浮かべ、親たちに逆らい、気が滅入ると隠れ家にデリヘル嬢を呼ぶ。智子に「数は力」と言われると、すぐさま「そういう単純な話じゃないですけどね」と言う藤堂が、このドラマの「複雑さ」を一手に引き受けているんじゃないかと推測する。それがどうドラマに影響するのかは現段階ではわからない。
高圧的な市会議員役を演じる大澄賢也がハマっていた。もはやルミ子の影は感じさせない。古田新太の秘書役を湘南乃風の若旦那が演じているが、今のところ「BOSS」CMの竹原ピストルのほうが存在感は上。今後どのようにストーリーに絡んでいくのだろうか? 第3話は今夜9時から。
(大山くまお)