連続テレビ小説「わろてんか」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第10週「笑いの神様」第58回 12月7日(木)放送より。 
脚本:吉田智子 演出:保坂慶太
「わろてんか」58話。北村有起哉の名演に片眉を上げる葵わかな
イラスト/まつもとりえこ

58話はこんな話


団吾(波岡一喜)の偽物(北村有起哉)は、ゆう(中村ゆり)の夫で、噺家だった。てん(葵わかな)は、
藤吉に、彼のネタを見てやってほしいと頼む。


まだ名が出てこない


「笑いの神さんなんかこの世におるかい」とニヒルなことを言う男(北村有起哉)は、タイトルバックには
まだ「ゆうの夫」としかなってない。
公式のニュースなどを見ると、団真という名前であることがわかるが、毎日ドラマだけ見ている者にはまだ謎のままだ。
団吾とゆうとこの夫がどういう関係なのか、物語の進行に予測がつかないところは楽しい。
「神さんおったら団吾やのうていまごろ俺が天下とってるわ」という男の言葉が気にかかる。
天才・団吾と思わせて、実は・・・がありそうだ。

と思わせて、実は・・・


だったら藤吉も、無能の極地と思わせて、実は・・・が最後にあるといいのだが。
58話も順調にダメ夫ぶりを発揮した(もうそれはそれで安定の域)。
「女房のいうことなんか当てにならん」などと言って、てんをムッとさせる。

このときの葵わかなの片方の眉毛の上げ方に注目したい。
彼女の所属するスターダストは、山田孝之や窪田正孝など、表情を作ることが巧い男の俳優がたくさんいる。葵わかなは女性ながら、そこに追随しようとしている気がして、その努力を応援したい。

リリコ(広瀬アリス)が、栞(高橋一生)の現代映画のヒロインになるかも?と盛り上がっているなか、
てんはおうちで苦労ばかりで、なんだか可哀想になってしまう。がんばれ、葵わかな。

北村有起哉がやっぱりすばらしい


北村有起哉が芸達者だから、ヒロインも刺激されるだろう。
北村の、落語「崇徳院」の語りもさすがだが、はじめるまえに、身なりを整える細かい動きが、見る者の気持ちをみごとに誘導する、そのストロークが考え抜かれている。
また、ゆうに膝枕するところなども、じつにナチュラルに見える。
ふつーに見せることがどれほど難しいか。それを北村有起哉はやっているのだ。

そんな北村有起哉は、NHKのドラマだと、木曜時代劇「ちかえもん」(16年)の竹本義太夫役でおなじみ。松坂桃李つながりでいうと、今年1月に放送されていた「視覚探偵 日暮旅人」で、松坂桃李を執拗に追い詰めて、最後壮絶な戦いをする男(リッチー)のクレージー極まりない演技も必見である。
デキる人物もダメな人物も、とにかく、何をやっても真に迫る(しかも自然)名優なのは、文学座の名優・北村和夫(「ちゅらさん」の島田さん役)を父にもつ血筋もあると思うが、本人の探究心も相当のものと思う。

若いときから劇団に所属することなく、演劇武者修行的に、たくさんの演出家の舞台に出演し、優れた傭兵のように力を発揮してきた、なかなかいない、頼もしき俳優だ。
「群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い、専門医のライセンスと叩き上げのスキルだけが彼女の武器だ」というのがドクターX・大門未知子だが、北村有起哉はフリーランスでもチームプレーも得意な大門未知子、そんな感じの俳優ではないかと勝手に思っている(事務所には所属しています)。

夫婦の形


いまのところ、傍から見るとダメそうな人物(北村有起哉)を、ゆうは「このひとの芸はほんまもんなんです」とかばう。
ゆうが旦那さんを大事にしているのを見て、「罰当たりやなあ」と亀井(内場勝則)がつぶやく。
おそらく、自分と亡くなった妻のことを思い出したのだろう。さりげないけど哀愁が一瞬出るのは、内場もさすがだ。
てんも、ゆうが旦那を信じて支えていることを応援したいと考える。
それは自分もそうだからと、自覚があるのかないのかはわからない。な〜んも気づいてないのは、藤吉のみ。
このドラマには、ダメな夫と、よくできた奥さんばかり出てくる。

今日の、わろ点


第三回団体交渉に、てんが妻と子供の待遇改善を求めて参加したことで、夫婦仲がさらに険悪になり、
外に出た藤吉が、長屋の祠みたいなところにうずくまっている画。

長屋が出てきた頃から、その一角に、へんな置物が置いてあるなあと思って見ていた場所は、祠だったのだとようやくわかった。そして、美術スタッフがこんなふうに作り込んでいた場所を使って、奇妙な画を撮る保坂慶太演出は、やはり、一部のマニアックな視聴者の気持ちをわかっている。


どうしても、狭いセットで、ただ立っているだけの画が多くなりがちな朝ドラに、ちょっとした工夫をしてみせるスタッフの方々に、わろ点を100点贈りたい。
(木俣冬)