連続テレビ小説「わろてんか」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第17週「ずっと、わろてんか」第97回 1月27日(土)放送より。 
脚本:吉田智子 演出:本木一博
「わろてんか」97話。藤吉、死す「てん わろうてくれてありがとう」
イラスト/まつもとりえこ

97話はこんな話


藤吉(松坂桃李)がみたび倒れ、入院、てん(葵わかな)に看取られ、息を引き取る。

笑いの味は?


97話がはじまってすぐにナレ死(ナレーションで亡くなったことを伝える手法)したらどうしようかとビクビクして見たが、そうではなかった。

新たな万歳の誕生に立ち会った藤吉は、「3日後、再び(みたび?)倒れ、病院に担ぎ込まれました」と小野文惠のナレーションがあって、病院での藤吉とてんの最後のやりとりがしんみり描かれる。


息子・隼也(大八木凱斗)は「学校行かせました」(てん)と、夫婦水入らずで、語り合う。
出会いの頃の思い出を。
「笑いの色は」「茶色」。では、「笑いの味は」ふたりで食べた柿の味だと藤吉は言う。
出会った頃(正しくは再会した頃)、ふたりが会うことを禁じられて蔵に閉じ込められてしまったてんにこっそり会いに来た藤吉が、柿をもいできて差し入れた。
それを食べてはじめて笑ったてんの顔を見たときから、藤吉の人生は決まったのだ。


「ほんまはたった一人の女の子を 笑わせたかったんや」

たった一人の女の子を笑わせるために、寄席を作って、大きくして、新しい笑いを開拓していったことを思うと、なかなかにかっこよく、いい人生だ。

では、ここで、一度、藤吉の人生をふりかえってみよう。


→大阪の米問屋の長男として生まれる。
→幼いとき、母(鈴木京香)に見せてもらった寄席の面白さに魅入られて、芸人を目指す。
→勉強のできる良い子ではあったが、家を出て、旅芸人の一座に参加する。
→京都の薬神社の祭りで、幼いてんに会い、手紙を出し続ける。

→てんとの出会いから8年後、芸人として芽が出ず焦っているとき、てんと再会、恋に落ち、大阪に駆け落ちする。
→てんと結婚するために、実家の米問屋を継ごうとするが、やることなすこと裏目に出て経営破綻する。
→てんのアイデアで、天満にて、寄席をはじめる。ようやく正式に結婚。子どもも生まれる。
→寄席を増やし、事業を拡大。

→脳卒中で倒れる。一命を取り留めるが、再発し、死去。おそらく未だ四十代。

誰にも笑ってもらえなかった少年が、笑ってくれる少女と出逢い、支えられて、たくさんの人の笑顔を見ながら死んでいく。波乱万丈だが、概ね、いい人生だったのではないだろうか。

「てん わろうてくれてありがとう」「これからもずっとわろてんか」
サブタイルの言葉が最後に登場する。

この決め台詞を言わせるために、95話では「泣かんといてや」だったのだ。

二夫にまみえず
少女のときから、ただひとり愛した人・藤吉を亡くしたてんは、嫁ぐにあたって、母(鈴木保奈美)に託された「二夫にまみえず」の強い意思を込めた白い喪服を着て葬儀に出る。
こんなに早く着ることになるなんて・・・と着付けを手伝うトキ(徳永えり)も他に言葉もない。

寺に行くとき、車を出すと迎えに来た栞(高橋一生)は、藤吉に代わって、てんを支えなきゃという責任感を抱いての登場のわけだが、その彼女は、“二夫にまみえずの喪服”を身に着けているという。なんとも身悶えさせられる場面である。

白い喪服、昔はそんなに珍しくなかったのだろうけれど、ここはあえて、みんなが「二夫にまみえずの喪服や!」ざわざわ、みたいに描いて、てんの、藤吉への一途な愛を劇的に見せてほしかった(「はいからさんが通る」みたいな)。
喪服もらったとき、勝手にそういうシーンを想像していたんだが・・・。


今日の、わろ点
そして、きっと誰もが思った、リリコ(広瀬アリス)の存在。なぜ、いない。半狂乱になるシーンが容易に想像できるが、それでは、てんが霞んでしまうからなのか。
思い切り泣きたいのに、なんだか泣ききれない土曜の朝、ぼんやりしたままの意識に飛び込んできたのは、香典袋の山。
トキと風太(濱田岳)が香典の処理をしながら、真面目な話をしているというリアルな場面なのだが、香典って生々し過ぎるッ。

こんなときでもお金や! お金にこだわるドラマであったことを思い出させてもらって目が覚めた。

なお、藤吉を演じきった松坂桃李は、2月1日公開『不能犯』(白石晃士監督)では“見つめるだけで相手を死に追いやる”ため罪に問われない、おそるべき人物を演じる。
クリーンな朝ドラの松坂桃李から、ブラック松坂桃李へと、間を開けることない見事な転身。
松坂桃李を拍手で見送りたい。おおきに!
(木俣冬)