吉岡里帆主演の火曜ドラマ『きみが心に棲みついた』。依存とハラスメントが渦巻く泥沼の三角関係ラブストーリーも、ついに今夜最終回。
その前に先週放送された第9話を振り返ってみよう。
「きみが心に棲みついた」今夜最終回。吉岡里帆と向井理、母に捨てられた者同士の依存関係に決着はつくのか
原作

騎士の座から降りた吉崎


「言いたいことはちゃんと言わないと! 気持ちってのはちゃんとぶつけてやらないと、すぐにすれ違っちゃうものなんですから!」

今日子との関係に悩み始めた吉崎(桐谷健太)にスズキ次郎(ムロツヨシ)がバシッと言う。おお、カッコいい! そういえば、彼は自分の作品が実写化されるとき、ちゃんと自分の気持ちをぶつけていた。吉崎はスズキのアドバイスどおり、自分の疑問をストレートに今日子(吉岡里帆)にぶつけていく。

「関係ない、関係ないって、関係あるじゃん!」

吉崎の言うことはもっともだ。今日子は星名に絶縁を宣言したが、まだどこかでつながっている。

「嫉妬で頭がどうにかなりそうなんだよ!」

だが、こういうことを言う時点で、吉崎は今日子を闇から救う騎士の座を降りかけている。
騎士が迷っていては、とうてい闇に囚われたお姫様を救い出すことはできない。吉崎の問いに対して、今日子は偽りなく答える。

「ずっと、離れたくても離れられなかったのは、星名さんが初めて私のことを受け入れてくれた人だったから」

母は今日子に冷たく当たり続ける虐待を続けていた。学校では酷いいじめが続いていた。今日子は子どもの頃から家にも学校にも居場所がなかった。余談だが、今日子の子ども時代を演じた成宮しずくが絶妙に吉岡里帆に似ており、高校生ルックの吉岡里帆のハマリ方も相まって、ものすごいシームレス感だった。


そんなとき、今日子を初めて受け入れてくれたのが星名だった。今日子にとっては、星名が親みたいなものだ。実際、彼らはセックスをしていない。原作で今日子は星名との関係を「神聖なもの」と表現していた。もうひとつ余談だが、大学時代の今日子たちが飲んでいた居酒屋は、『カルテット』でクドカンが部下と飲んでいた店と同じである。

「誤解をさせるようなことをして、ごめんなさい」と謝る今日子に、「そのお母さんとは今、どうなの?」と尋ねる吉崎。
母親との関係が改善されない限り、今日子は何度でも星名のもとに戻ってしまう。原因は根本から断たなければいけないと吉崎は分析していた。

母に二度殺された男・星名


では、そもそもなぜ星名は今日子を受け入れたのだろうか? 牧村(山岸門人)が飯田(石橋杏奈)に語る形で、星名の過去が明らかになる。

「星名は昔からひどいやつでした。性格だけじゃなくて、見た目もね」

幼い頃、星名は酷いいじめに遭っていた。「星名のくせに」「お前、影薄いから見えなかったわ」は、今日子が言われてきた言葉とまったく同じ。

星名は、母・郁美(岡江久美子)の浮気相手の子だった。
浮気相手に似ていることで苛立った父は星名に容赦なく暴力を振るう。星名は家にも学校にも居場所がなかった。これも今日子と同じ。

そして、母が子に整形するよう懇願する。本当に酷い話だ。母は子のことを思っているふりをしているが、実際は違う。
自分の気持ちを楽にしたいだけである。この母親は徹頭徹尾自分勝手だ。

しかし、少年時代の星名は母の頼みを母のために受け入れる。「いいよ、僕を変えても」。

その後、優しい星名少年は、母が父を刺殺することでさらに深い衝撃を受けてしまう。すべてを後悔している母は、現在は星名との関係を絶とうとしていた。
子の存在をなかったことにしようとしているのだ。この母は子を2回殺している。

一方、今日子は吉崎の助言どおり、母・信子(中島ひろ子)のもとへやってきた。5年ぶりに現れた実の娘に対して、テンプレのように苛立ちを露わにする母。しかし、今日子は決然と母の言葉をさえぎり、自分の気持ちを口にする。

「もう、私、前に進むから。昔の自分とは違うから。それを言いにきただけ」

星名も今日子も母の愛を求めていた。しかし、母はそれを返すことはなかった。大学時代に出会った2人は、一瞬でお互いの境遇を感じ取ったのだろう。だから星名は今日子を受け止め、今日子は星名に従い続けた。こんな関係性に対して、普通の男・吉崎はまったく勝ち目がない。

「地獄まで一緒に堕ちていくつもり?」


もうひとりのサイコパス、飯田は星名のことが忘れられずにいた。

「前の顔も好きです!」

言うに事欠いて何を言い出すんだ、飯田……。飯田にカケラも興味がない星名は、今日子のようにハサミを突き立て、酷い言葉を浴びせる

「前にも言ったよな。愛のないセックスほど興奮するって」

これは一種のテストだ。飯田が本当に自分を受け入れてくれるのか、星名は試していた。しかし、飯田は星名を拒絶した。逆に言えば、これを受け入れた今日子の星名との心の結びつきはとてつもなく深い。

星名の社内セクハラ・パワハラに関する聞き取り調査の場で、飯田は容赦なく星名を告発する。社員たちの前で録音した「愛のないセックス」発言を流す飯田。セクハラの対処法としては、彼女のしていることは正しい。

次は今日子の番だ。聞き取り調査を行う人事部長(阿南健治)はランウェイを下着で歩かされた今日子に対して、「強制されたのは事実ですか?」と問う。しかし、今日子は否定する。

「最終的には私の意志で歩きました。だから、これは私の問題です」

今日子は星名をかばっているわけではない。自分の心に正直に答えただけだ。今日子は生まれ変わろうとしていた。奇しくも、この日は今日子の誕生日だった。

「私がきちんと断ればいい話だったんです」

今日子のこの言葉はセクハラ・パワハラへの対応として非常に危うい。セクハラ・パワハラをなくすためには、相手の行為をきちんと告発するべきだ。本人にはそのつもりがなくても、第三者にしてみれば今日子の言動は星名をかばっているようにしか見えない。

「すごいね、地獄まで一緒に堕ちていくつもり?」

飯田の嘲笑は、的を得ている。

「今日子は星名さんがいなくなるのが嫌なんだよ。だからかばったんだろ?」
「……」
「それって、依存なんじゃないかな」

吉崎は正確な分析力を持っている。だから、恋愛ではなく、依存する相手が変わるだけなんじゃないかときっちり指摘する。今日子は涙を流すことしかできない。しかし、今日子が生まれ変わろうとしている今、吉崎に求められているのは分析ではなく、抱擁だ。それができない吉崎は、今日子に別れを告げる。

一方、母からも今日子からも関係を断たれ、孤独を深めていく星名。直後に流れる主題歌、E-girls「Pain,pain」の歌詞は「哀しみは我慢できる ただ孤独は嫌なの 愛されたい」だった。これは星名の心の叫びでもある。

もう星名と今日子がくっついたほうが幸せになるんじゃないかと思うんだけど、どう? 最終回は今夜10時から。
(大山くまお)

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