吉岡里帆主演の火曜ドラマ『きみが心に棲みついた』。ポップな画面の中で依存と束縛と虐待と嫉妬とハラスメントが渦巻くドロドロ恋愛ドラマだ。


先週放送された第7話では、いよいよキョドコこと今日子(吉岡里帆)をめぐって吉崎(桐谷健太)と星名(向井理)が直接対決! 心をえぐる展開から、ついに今日子と吉崎が結ばれるところまで描ききった。

これまでは原作に忠実に描こうとするあまり、ストーリーが停滞気味だったが、今回は連載中の原作の残りが少ないこともあって、脚本も思い切ってハネることができたようだ。第7話の脚本は第1話、第2話以来、久々に吉澤智子が担当している。
「きみが心に棲みついた」7話。桐谷健太は闇の世界に降り立つ愛の騎士だった
天堂きりん『きみが心に棲みついたS』6巻/祥伝社

「こっち側」の星名と今日子、「こっち側」じゃない吉崎


「あの男みたいに恵まれた世界で順調に生きてこられた奴に、お前のことは理解できない」
「星名さんだって順調な人生じゃないですか。仕事もできて、昔から女の人にモテて、顔も良くって」
「顔……?」

第7話では、星名の過去がよりはっきりと描かれた。少年時代の星名は、「顔」が気に食わないという理由で父親に虐待されていた。星名に愛情を注いでいるように見えた母親(岡江久美子)も、ほかの子どもたちに恐喝され、殴られて倒れている星名を無視して見知らぬ男と腕を組んで歩き去る。
ひどすぎる……。関係ないが、牧村(山岸門人)の子ども時代を演じた子役が、ちゃんと一目で牧村だとわかるところがすごかった。

一方、今日子は子どもの頃、母親(中島ひろ子)に「イライラする」「純粋に可愛いと思えない」と言われて徹底的に嫌われていた。原作では今日子の母親の顔は描かれておらず、人格のない不気味な存在として表現されている。

親に嫌われる(捨てられる)というトラウマを背負った者同士が、学生時代に出会った。

「今日子はそのまま、ありのままの自分でいいんだよ」
「あのとき初めて、星名さんが、星名さんだけが私を受け入れてくれたんです」

今日子は星名との関係を、心配する先輩の堀田(瀬戸朝香)と八木(鈴木紗理奈)に説明する。
八木は「相手がクズでもな、そのクズに救われることもあんねん」と言うが、これは無論自分の体験によるものだ。

今日子と星名が互いに慈しみ合い、愛情を育てる事ができればよかったのだが、そうはならなかった。今日子にとって星名は心の支えだったが、星名の心は徹底的に歪みきっていた。「変わったんじゃない。変えられたんだよ」と星名は言うが、親からの虐待によって顔を整形するところまで追い詰められた人の気持ちは、たやすく他人には理解できないだろう。

「ま、仕方ないか。
こっち側の人じゃないですもんね」

マンガ家のスズキ次郎(ムロツヨシ)にこう告げられた吉崎。「こっち側」というのはダブルミーニングだ。家族の愛情に包まれて「順調に」生きてきた吉崎は、星名は自分や今日子が属する「こっち側」ではない人間とみなされていた。今日子もそのことは薄々感じており、素直に吉崎の胸に飛び込むことができなかった。

そこへ追い打ちをかけるのが、今日子に嫉妬する吉崎の部下、為末(田中真琴)である。為末は吉崎に公開ストリップの映像を見せてしまう。


今日子を救う100点の言葉


公開ストリップの映像を見せられた吉崎は混乱するが、今日子を星名から救い出そうと決意する。

過去に挫折した経験があるとはいえ、今の吉崎の仕事は順調だ。共通の話題で笑い合える元恋人の成川映美(中村アン)は、あけすけなアプローチを仕掛けてくる(記者会見での中村アン本人の桐谷健太への告白を思い出させる)。

吉崎は「こっち側」に踏み込む必要などない。そのままでも「順調な」人生が待っている。だが、彼は今日子に手を差し伸べた。
騎士として、心に闇を抱える人たちの世界へと乗り込んできたのだ。さすがトラブル慣れしている(?)雑誌編集者らしく、誓約書を掲げて星名と牧村を制圧すると、ついてに今日子と正面から向き合う。

「びっくりしたよ、あれ見たときは。でも、軽蔑したとかじゃなくて、何があったのかを聞いて、助けたいと思ったんだ」

まず、吉崎は嘘偽りのない自分の心情を吐露する。そして、

「でも、聞くことで、無理に話すことで、余計傷つけることもあるよな」

と過去に苛まれ続ける今日子の心を和らげる。

「もうあんなものに、過去におびえる必要はない。
みんな何かあるって、生きてたら。俺だって一応辛いことも、うまく話せないことだってあるし。でも、いろんなことがあって、ここにいる、今の小川さんが好きだから」

「いろんなことがあって、ここにいる、今の小川さんが好きだから」というフレーズは本当に100点なんじゃないかと思う。吉崎も八木も言っていたが、誰にだって過去に他人に言いたくないようなことは抱えている。過去が現在を邪魔することだってある。だけど、それもすべて肯定してしまうのが吉崎の言葉だ。「35億人の男性が吉崎さんだったら平和になるよ」という女性視聴者のツイートにも納得である。

「私、幸せです。今、一生分幸せ」と泣きながら言う今日子の顔を映すショットは、手前にいる吉崎の顔が半分ぐらい被っている。まるで今日子が吉崎の庇護を受けているかのようだ。そのまま抱きしめられ、吉崎が今日子のねじねじをほどく(=初めて結ばれる)という展開は、ある程度予想はできていたけど、やっぱり上手い。

翌朝、出社してきた今日子の胸にねじねじはなかった。普段の吉崎と同じく、大きく胸元があいたVネックのトップスを着てきたのだ。吉崎のVネックは他人を受け入れる心の象徴である。すなわち、今日このVネックは彼女が初めて他人を受け入れたことを示している。

しかし、これだけで星名と今日子の関係が終わるわけではない。星名だって誓約書ごときでは黙っていないだろう。星名の虜となった飯田(石橋杏奈)の行動も不気味だ。残り3話、予想もつかないような展開が待ち構えているような気がする。第8話は今夜10時から。
(大山くまお)

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