吉岡里帆主演の火曜ドラマ『きみが心に棲みついた』。20日に放送された最終回は、キョドコこと今日子(吉岡里帆)のこんなモノローグから始まった。星名(向井理)への依存から抜け出そうとしていた彼女だが、その途上で吉崎(桐谷健太)に振られてしまったのだ。
「お母さんからも、星名さんからも自由になって私は、一人になった」

「誰でも大切な人にはうざくなる」
今日子と別れた吉崎だが、今日子のために、もう一つ「やらなきゃいけないこと」をやろうとしていた。それは星名のもとを訪れることだ。吉崎は星名と相対してこう告げる。
「僕には、あなたのほうが今日子に依存しているように思えます。あなたが、彼女がいないと生きていけないんじゃないですか?」
吉崎は平凡な人間だが、分析力に長けている。今日子から聞いた話と、垣間見た星名の振る舞いから、2人が「共依存」の関係に陥っていることを見抜く。
「結婚するんです。だからもう、彼女の人生から消えてください。彼女のいない世界で生きてください」
「うぜーなぁ!」
「うぜーんですよ、俺。でも、誰でも大切な人にはうざくなるものでしょう」
「結婚するんです」というブラフを使ってまで、吉崎は星名の心を抉ってみせる。
「味方」というキーワード
『きみが心に棲みついた』の最終回でキーワードになったのは「味方」という言葉だ。
星名の母・郁美(岡江久美子)が死んだ。彼女は病室に見舞いに来た今日子に「母親なのに、あの子の味方になりきれなかった」と悔恨の念を語っていた。今日子は連絡がつかなかった星名を大学時代の部室で発見する。彼は練炭自殺を図っていた。
今日子を道連れにしようとする星名は、「人を殺すのはこれで2回目」だとうそぶき、過去のことを今日子に明かす。母に暴力をふるう自分の父親を殺したのは、母ではなく星名自身だったのだ。星名はナイフを落とし、うつろな目でつぶやく。
「本当のことを言って。
子どもの頃から母に裏切られ続けてきた星名は、最後の最後で母に自分の「味方」でいてもらいたいと心から願った。母は自分の代わりに殺人者の汚名を着るが、その後の連絡は途絶した。彼女は子の「味方」ではなく、彼から逃げるようにして刑務所に去っていったのだ。
話を聞いた今日子は、星名を包むように抱きしめて、彼の母の言葉を伝える。今日子は星名の母ではない。星名のためにすべてを捧げることも、死ぬこともできない。それでも、星名を助けに来たんだと告げると、星名は「うぜーなぁ」と微笑んで昏倒する。彼は今日子が自分を「大切な人」だと思ってくれていることに気づいたのだろう。その後、今日子も倒れるが、2人は吉崎と牧村(山岸門人)によって救出される。しかし、星名はそのまま行方をくらましてしまった。
時は流れて1年後。
「彼が僕の味方でい続けてくれたから、僕はここまで描いてこれました」
いいスピーチだったよ、スズキ先生。授賞式からの帰り道、吉崎とスズキは道で転んでいる今日子とばったり再会して、ヨリを戻した2人はそのまま結婚! 最終回まで「なんでそんなところにお前がいるの?」という偶然頼りの構成は変わらなかった。
結婚式のパーティーの席に、花束とともに「Happy Wedding キョドコのくせに」というメッセージカードを届けて去っていく星名。最後は不穏な振り向き方を見せてエンディングとあいなった。ちょっと余韻を持たせて着地点をボカした感じがする。
「味方」がいれば「依存」から卒業できる
『きみが心に棲みついた』は「依存」という支配からの卒業という尾崎豊みたいなテーマを描き続けてきた。多くの子どもは母親という絶対的な味方に守られながら成長する。しかし、今日子と星名はそれがかなわなかった。2人は“こっち側”の同士として深い共依存の関係になる。
だが、大人になるためには母親から離れなければいけないのと同じで、依存からも卒業しなければいけない。そのときは誰だって一人になる。冒頭の今日子のセリフのとおりで、とても不安で仕方がないだろう。そんなとき、必要になるのは「味方」の存在だ。母親ほどではないけれど、パートナーとしていつも寄り添ってくれる味方がいれば、とても心強い。味方には、恋人や伴侶、友人、同僚や上司、仕事上のパートナーなど、さまざまなパターンがある。今日子は吉崎という味方属性の強いパートナーを得ることで依存という支配から卒業できた。
ドラマとしては先ほど触れたように偶然に頼りすぎる展開の問題や、なかなか登場人物に感情移入できないという問題、エグみが思ったほど出せなかった問題など、さまざまな要素があって視聴率は伸びなかったが、興味深いテーマを扱った野心作ではあると思う。恋愛ドラマもこのようにヒネりを加えたものが、今後、さらに増えていく予感がする。
(大山くまお)
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