長澤まさみ主演、古沢良太脚本の月9ドラマ『コンフィデンスマンJP』。“コンフィデンスマン”と呼ばれる信用詐欺師たちがターゲットの悪党を騙して大金を巻き上げる。


先週放送された第3話の視聴率は盛り返して9.1%。このまま上昇気流に乗っていけるだろうか?
「コンフィデンスマンJP」3話。視聴率回復のカギはストーリーの「テレ朝化」と見た
イラスト/まつもとりえこ

若くて小綺麗で巨乳の画家は売れる?


エキセントリックな天才詐欺師・ダー子(長澤まさみ)、お人好しで小心者のボクちゃん(東出昌大)、変装を得意とするベテラン詐欺師・リチャード(小日向文世)の3人のコンフィデンスマンの今回のターゲットは、美術評論家の城ヶ崎善三(石黒賢)。

テレビで冠番組を持つほど著名な美術評論家の城ヶ崎だが、その正体は鑑定に持ち込まれた美術品の真贋を偽って安く買い叩き、その美術品を裏社会のマネーロンダリング用に高値で売りつけて私服を肥やすダーティな美術商だった。

城ヶ崎は女癖も悪く、ボクちゃんが偶然知り合った画家志望の美大生・ユキ(馬場ふみか)に「可能性を感じる」と囁きかけて落とすと、わずか三ヶ月でポイ捨てしてしまう。ショックで自殺未遂を起こして個展を開けなくなったユキの姿を見て、怒ったボクちゃんがリチャードに話を持ち込んでターゲットにしたのだ。

明らかにセックスの後、推薦の言葉を求めたユキへの城ヶ崎の言葉がひどい。

「こんな絵を推薦しては、私の名に傷がつく」
「若くて小奇麗で巨乳の画家の絵。売れる可能性はある」
「作品そのものはゴミだ。何の可能性もない。あ、キミは30過ぎたら太るタイプだぞ。今のうちにスケベなパトロンを見つけて、売りつけなさい」

一点の曇りもない、清々しいほどのゴミ男だ。しかも、ここはユキの部屋だったりする。城ヶ崎は女に金をかけない守銭奴ということだ。
開始5分少々で「こいつは悪党だ」ということをきっちり理解させてくれる。

ストーリーの「テレ朝」化


第3話では、第1話、第2話と異なる点がいくつかあった。

まず、第1話と第2話では本編に入るまでに小さな案件(第1話ではカジノでホストクラブの女社長と中古車販売チェーンの社長を騙し、第2話では寿司屋でロシアンマフィアを騙した)が挿入されていたが、それがなくなった。冒頭からボクちゃんがユキと知り合った経緯、ターゲットである城ヶ崎の悪辣さ、非道ぶりがテンポ良く描かれていた。

もう一つが、ダー子とリチャードがターゲットと同時にボクちゃんを騙す二重構造がなくなったことだ。先週のレビューにも書いたとおり、ダー子とリチャードがターゲットを騙す仕掛けは視聴者に(ある程度)説明されるが、ボクちゃんを騙す仕掛けは説明されない。この構造がなくなり、案件を持ち込んだボクちゃんは最後まで裏切られることもなく、ダー子とリチャードと一緒に城ヶ崎を騙す。

つまり、エピソードの構造がとてもシンプルになったということだ。テレビ朝日の刑事ものぐらいシンプルだった。それが視聴率の盛り返しにつながったんじゃないかと感じる。

絵は知識と情報で見るもの


中国人バイヤー・王秀馥(ワン・ショウフー)に化けたダー子は城ヶ崎のオークションハウスに潜入、金に糸目をつけず、大量に作品を購入することで城ヶ崎の信頼を得る。長澤まさみの「怪しい中国人風の日本語」の発音が本当に達者だった。

さらにダー子は「日本のメーヘレン」と呼ばれる贋作画家の伴ちゃん(でんでん)に贋作の制作を依頼。これをもとに城ヶ崎を騙そうと画策するが、彼の正確な鑑定によってあえなく完敗、伴ちゃんは逮捕されてしまう。


ちなみにメーヘレンとは、20世紀で最も独創的で巧妙だったとされる贋作画家。伴ちゃんが行っていた、同時代の絵画から絵だけを削り取って使用するのはメーヘレンが編み出した手法だ。メーヘレンが主に描いたのはフェルメールの贋作。ダー子が描いた「真珠の耳飾りの少女」の作者がフェルメールである。

城ヶ崎は「絵は心で見るものじゃない。知識と情報で見るものだ」というポリシーを持っていた。贋作画家や修復画家のタッチまで知り尽くしていたので、伴ちゃんの贋作も見破ることができた。ダー子の前で「騙されるのは無知だからだ。無知は恥だ。騙される奴がバカなんだよ」と言い切る。これは良いフラグだ。

虚構の作家を作り出せ


ここからダー子の反撃が始まる。

「絵画は情報と知識で見る」ーーつまり、人々は作品そのものを見ているのではなく、作者や時代背景といった情報そのものに価値を見出しているということだ。
ゴッホの絵は生前まったく評価されなかったが、後年評価されるようになって莫大な価値がつくようになった。作品そのものは変わらないのに周囲の視線が変化したのだ。

冒頭で「芸術とは盗作であるか、革命であるか、そのいずれかだ」というゴーギャンの言葉が紹介されるが、「革命」とは価値観の変化のことである。「いわば、人々が作り出した虚構の上に価値が成り立っている。それが芸術」とダー子は言う。

彼女らにとって「虚構」を作るのはお手の物。それならニセの作品ではなく、ニセの画家を作ってしまえばいい。すべて虚構なら城ヶ崎にだって判断がつきにくいだろう。さらに「評論家が一番なりたいものは、ゴッホを最初に見出した人間。そして、一番なりたくないものは、ゴッホを評価できなかった人間」という心理につけこむのだ。

ダー子たちは「早世の天才画家・山本巌」のストーリーを作り上げ、さりげなく城ヶ崎に売り込んでいく。顔と名前はダー子がいつもお取り寄せしている「天賜卵」の生産者(『陸王』の安田役・内村遥)の写真から拝借した。
案の定、無名の天才画家の発掘に興奮した城ヶ崎は、山本巌の生家を訪ねて彼が遺した作品(実はボクちゃんとリチャードが描いた絵)を安く買取ろうとする。そこへダー子扮する王が現れて値段を一気に釣り上げ、見事に城ヶ崎から3億5000万円という大金を巻き上げることに成功! お金を受け取ったのは、山本巌の親族に化けたリチャードだった。

意気揚々とオークションを開催する城ヶ崎。しかし、そこへ現れたのは……ダー子たちに招待された山本巌本人! ニセの作家を見破ることができず、あまつさえその作品を高額で売りつけようとした城ヶ崎の信用は完全に失墜した。ダー子たちの完全勝利である。それにしても「芸術とはお金儲けの手段」と言い切るダー子と城ヶ崎は非常によく似ている。

古沢良太の皮肉


シンプルに悪党を懲らしめることに徹した第3話だったが、2018年らしい描写もあった。

城ヶ崎が絵のアドバイスをするふりをしてユキにキスをしようとするシーンは、ダー子がボクちゃんにいやらしく迫るシーンに置き換えらえる。偉いオッサンが地位を利用して若い女性に迫るのは繰り返されてきた光景だが、その逆だってあり得ること、そうなれば男性は気持ち悪く感じることを表している。

城ヶ崎の慰みものにされたユキについて、ダー子は「悪いけどその女も女じゃん。売り出してほしくてピロービジネスしてたんだから」と批判する。ピロービジネスとは枕営業のこと。
ダー子の言葉は、省庁トップのセクハラ疑惑に対して「実は女性側のハニートラップではないか?」と疑う人々の声のようだ。

リチャードは「汚れた窓から景色を見れば、美しい山々も汚れて見えるもんだよ」とたしなめるが、城ヶ崎の失脚後、ユキの個展を訪れたボクちゃんが見たのは、新しいパトロン(小宮孝泰)にしなだれかかるユキの光景だった。それだけ女は強かだということを表しているのだろう。リチャードは前言撤回して「窓がきれいだからこそ、一見美しい山々がゴミでできているのに気づく」と言う。古沢良太一流の皮肉っぽい視線だ。

今夜放送の第4話は映画マニアのパワハラ二代目社長、佐野史郎がターゲット。史上最大の大仕掛けが炸裂する!? 今夜9時から。
(大山くまお)
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