第13週「仕事が欲しい!」第76回 6月28日(木)放送より。
脚本:北川悦吏子 演出:田中健二 橋爪紳一朗
76話はこんな話
律(佐藤健)から結婚報告のはがきを受け取った秋風(豊川悦司)は鈴愛(永野芽郁)がこのことを知っているか心配する。その頃、漫画を描くことに疲弊した鈴愛の元にもはがきが届いていて・・・
いつの間にか婚
男性がなんらかの理由で精神的にちょっと弱っているとき(とくに本命の彼女にふられたとき)、「猛烈アタック」(これは清のことか)と違う方向(まわりから攻める戦略で)押されて結婚してしまうという現象「いつの間にか婚」が、ボクテ(志尊淳)とユーコ(清野菜名)によって定義された。彼らは律がこの「いつの間にか婚」に違いないと言う。
圧倒的なカリスマ漫画家のはずの秋風がこういう一般的な出来事には疎く(「実生活では赤子です」byユーコ)、ふたりの話を感心しながら聞いているのが面白いのと、これまでわりとおとなしめだったボクテとユーコが水を得た魚のように立て板に水のようにしゃべる様子も楽しめた。
より子さん(石橋静河)の容姿が微妙とか明らかに彼女がぐいぐい攻めたに違いないとか「東京ラブストーリー」を引用し「おでん女とパン女」などというような話題はさておき、彼らのこれくらいの会話の応酬をこれまでも頻繁に見たかったと思う。口跡がいいし、互いへのリアクションも適切で、動きのアイデアも豊富、内容はともかく見ていて気持ち良い。豊川悦司と三人のみごとな連携プレーは見応えがある。
秋風「赤坂ロイヤルじゃ?」
ユーコ「そこはたとえです」
ここで、ボクテが額に手をやる仕草のタイミングがじつにいい。
星座を描きながら
「いつの間にか婚」はあくまでボクテとユーコの想像に過ぎない。律、結婚の謎はまだまだ引っ張られる。
謎どころか鈴愛はまだ律の結婚を知らずに漫画を描いている。
ボクテ「星座を描きながら『いつか君に会える』を描いているってことですね」
ユーコ「大変だあ」
鈴愛の状況に同情するボクテとユーコ。でも「星座を描きながら『いつか君に会える』を描いているってことですね」という台詞は少々ロマンチックにも聞こえる。
鈴愛は実入りが少なく細かいカット描きの作業に疲弊し、肝心の漫画のほうはちっとも進まずボロボロになって、ヨーグルトを食べながら、新聞の「絶滅危機のトキに待望の赤ちゃん」の記事を見て、ぼんやりしていた。
「半世紀に渡って朱鷺の保護活動をしてきた関係者は人生最高の感動。しかしここからがスタート」という記事に「何言ってるかさっぱりわからん」とあっさり。
律、結婚した?
ひとり籠もって描いているから、独り言をぶつぶつ言っているところはリアル。この時代、ツイッターがあったら鈴愛ががんがんつぶやいていそう。
はがきが来ているのに気づいて茫然となった鈴愛は、ちょうど荷物を送ってくれた晴(松雪泰子)に電話する。
「律、結婚した?」と聞かれたとき、食堂の背後でジュワーッと調理する音がする。このノイズの入れ方が巧い。
ツインズはなんのためにいるのか
ときどき出てくるツインズ(MIO&YAE)ももう28歳になって目尻にシワがあると秋風が言う。彼女たちはなんのためにティンカーべルでずっと働き、何を思って生きているかはいっさい語られない。
いまのところ記号のように存在するだけだ。
だが彼女たちが双子であることは、鈴愛と律の関係性の象徴であるような気がして見ている。
同じ日に生まれたふたり、本来だったらこんなふうにお神酒徳利みたいに一心同体のように一蓮托生のようにいつも一緒であったかもしれない。リアルに考えたらツインズにもひとりひとりの自我があり、ひとくくりにされる葛藤があるだろう。
28歳になってもずっとふたり一緒にいるツインズと違って、鈴愛と律はいよいよ「結婚」というものによって分かたれていく。

あとにも先にもこれしかないと言っていいのではないかというふたごを描いた傑作漫画
「半神」
(木俣冬)