連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第13週「仕事が欲しい!」第75回 6月27日(水)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:田中健二  橋爪紳一朗

75話はこんな話


鈴愛(永野芽郁)は起死回生を賭けて新作「いつか君に会える」にチャレンジしはじめる。

「これは最後のチャンスだ」


晴(松雪泰子)から手紙をもらい、(中華街のお土産にもらったお面をかぶりながら)鈴愛に見合いをすすめる秋風。
それプラス、秋風は占いカットを描く仕事を持ってきた。
引っ越し屋のバイトよりも時給は良くないが絵を描いていたほうがいいとありがたく引き受ける鈴愛。
雑誌の占いページのカットは新人や仕事の少ない作家のバイト代わりのようなこともあるが、人気作家が描く場合もある。

「いつか君に会える」という漫画を描くと言う鈴愛に、秋風はネームを見てやると言う。
「ひさしぶりに秋風塾だ!」「いいもの描けばページはとれる」「これは最後のチャンスだ」「それくらいの気持ちでいたほうがいいってことだ」などと言う言葉に、秋風が弟子である鈴愛のことを心配していることを感じる。

しかも、ボクテ(志尊淳)と連絡をとって、自分が漫画を描く代わりに鈴愛にもページをもらう約束を出版社ととりつけることまでする。
結局、鈴愛はデビューからずっと運の良さだけでやって来れていて、だからこそ、ここが正念場。
自分のちからがどれだけか証明しないとならない。

「いつか君に会える」


「いつか君に会える」に取りかかる鈴愛。まず、アイデア(プロット)をユーコに見せる。それは全部文字で埋められている。主人公は幼馴染のリオとショウタ。とても仲良かったふたりだが、ショウタが東京に引っ越してしまう。「もしまた会えたら一緒になるか」と冗談か本気かわからない約束をしたまま成長して・・・みたいなことが書いてある。
リオは「色々な矛盾した感情を抱え、そこに自分らしさを見出す」とか「いつも自分の足の小指だけにマニキュアを塗る←お守り」とかショウタは「顔立ち整っている」とか書いてあり、実体験とフィクションが混ざっている感じで面白い。
でも気になるのは漫画家なんだからまずキャラのアイデアスケッチを描かないものなのかということ。何度もこのレビューで書いているが、どうしてもディテールが漫画家というより脚本家のようになってしまうのは仕方ないことなのだろうか。
鈴愛は、アイデアはいいがストーリーが作れない(ほっとくと起承転結もオチもない・・・それなのに3年も連載してたの?とか「神様のメモ」とか「カセットテープの恋」とかちゃんと起承転結あったのに?とか疑問が沸いてきます)ところが欠点なので、好きな映画をストーリーにしてエピソードの順番を研究する。これも脚本家の勉強方法である。漫画家にも必要な作業だとは思うが・・・つくづく脚本家の話にすべきだったと思う。


脚本の書き方に関して、余計なお世話だが、ここが気になった。
鈴愛「カロリースティックと牛乳」
ユーコ「カロリースティック」
鈴愛「バランス栄養食品」
2014年放送の日曜劇場「ごめんね青春!」(宮藤官九郎)では、
「意味なく私の言葉尻をリピートしないで、一行もったいない」「一行もったいないですか」「ほら、言ったそばから」というやりとりが描かれていたが、ドラマのダイアローグは相手の言葉をリピートしがち。カロリースティックは、カロリーメイトの言い換えであることをわからせるためだろうが、言葉の反復は場の停滞をもたらすこともあるので要注意だ。

「JUST MARRIED」


カロリースティックと牛乳 紙パンツ で気づくと10年、30歳目前。
頭を使いすぎて甘い物を大量に食べて寝てしまう。
コーヒーとインクを間違える夢を見る。
ついには、廉子おばあちゃん(風吹ジュン)まで夢に出て来た(久々の実体の風吹ジュンに感動)。

鈴愛がうなされていると、秋風の元には律が「JUST MARRIED」したはがきが届いていた。
律の結婚相手は(旧姓日野)より子さん。律は結婚して大阪に引っ越したらしい。鈴愛には「京都に来ないか」と言っていたが、就職先が大阪だから大阪に新居を構えたようだ。
秋風にはがきを送ってきたのは、それとなく鈴愛に知らせようということなのか・・・。

より子役の石橋静河は、シーナ&ロケッツをモデルにした福岡発地域ドラマ「You May Dream 〜ユーメイ ドリーム」でシーナ役を演じていた。
石橋凌と原田美枝子の娘というサラブレッドで、主人公の想い人の結婚相手としては最強という印象だ。
「半分、青い。」75話。律、結婚!相手は誰!
「夜空はいつでも最高密度の青色だ」DVD 通常版 ポニーキャニオン
より子役石橋静河の代表作。

「夜空はいつでも最高密度の青色だ」

お母さんにはお母さんの気持ちがあります


晴からの手紙を読んだ秋風は、母親の思いを自分が奪ってしまったのではないかと考える。
菱本(井川遥)は鈴愛が自分で選んだことと言い、それは71話でユーコが「私の人生は私のもの」「みんな自分の分しかがんばれない」と言っていたことともつながるだろう。
それが当然と思うが、なぜか秋風は「それは彼女(鈴愛)の気持ちでしょう。お母さんにはお母さんの気持ちがあります」と母親の気持ちに寄り添う。
おそらく、意見を発することのできるSNSユーザーたちは、娘を自分の所有物のようにして生き方に関与していくことに不快感を表す人が多いだろうが、声を発せない視聴者の中には、晴のように娘が心配で心配でならず、自分のわかる範囲の世界で過ごすことが幸福と思い込んでいる人もいるかもしれない。

このドラマのなかで秋風が一番、自分の知り得なかったいろいろな生き方を知って世界を広げているように思う。天涯孤独で漫画がすべてと傍若無人に生きてきた彼が、父のような気持ちでユーコを嫁に出し、母のような気持ちで鈴愛の仕事を気にかけるようになった。
秋風が漫画家としてトップを走り続けている根拠はこういうあらゆる人生や感情を知ろうとするところにありそうだ。

と、肯定的に考えてみたが、こうも考えられないこともない。
朝ドラでは家族や故郷を大事に描くことは必須。やがて故郷に戻る必然性を描かないといけないことと、国をあげての少子化対策も重要課題だ。
晴が女の幸せはこどもを産むことと言うのみならず、ユーコが、こどもを生んだら実家の母親がころっと変わって関係がうまくいくようになったと鈴愛に言うところも、さりげなくじわじわと少子化対策を感じてしまった。
(木俣冬)