女性型ターミネーターのようなキャリアウーマンの綾瀬はるかが、シャキーンとした姿勢で小学生の女の子に名刺を渡すところからドラマ『義母と娘のブルース』は始まる。生真面目そうだがどう見ても変人の女性と、それにおびえる女の子。これから2人は義母と娘という関係になる。

真顔で腹芸を披露する綾瀬はるか
良一(竹野内豊)とみゆき(横溝菜帆)は妻・愛(奥山佳恵)と死別して3年のシングルファーザー家族。どこかボンヤリした良一が、新しいママとしてみゆきに紹介したのが、大手金属会社で部長を務めるキャリアウーマンの亜希子(綾瀬はるか)だった。
キャリアウーマンとしての亜希子の武器は、リサーチ力、観察力、プレゼン力、そして相手の懐に飛び込む胆力だ。第1話では徹底して自分を拒絶するみゆきのいじめを解決し、少しだけ心の距離を縮めることに成功。みゆきは亜希子が母親になることを認める。
しかし、再婚する相手の娘に履歴書(家族に入りたいという意味)を渡したり、ラストシーンで感謝の意を示すために真顔で腹芸(本当に綾瀬はるかの腹に顔を描いて踊る!)を熱演したりと、やっぱり亜希子は変人なのであった……。
親と死別した子はだいたい再婚を拒むものだが(特に母親との死別)、みゆきが亜希子を認めるタイミングがちょっと早すぎるんじゃないかというのが第1話の正直な感想だ。だが、これも今後の展開のためだろう。亜希子とみゆきが「義母と娘」になってからの長い時間を描くのがこのドラマの主眼である。
綾瀬はるかを“普通の人”に戻すドラマ?
第1話では、良一と亜希子がなぜ結婚するのか、なぜ良一が再婚を急ぐのかなどが明かされていなかったが、桜沢鈴の原作コミックを読んだ人なら、良一が亜希子との結婚を急ぐ理由や今後の展開がわかると思う。それを知るとボンヤリした良一の行動がいちいち泣けてくるので、原作未読の人も後ほどあらためて第1話を見返すことをおすすめ。良一がラッキーナンバーや「奇跡」にこだわる理由もわかるはずだ。
みゆきをいじめる同級生・大樹を演じる大智は『ごめん、愛してる』で池脇千鶴の息子役だった子役。お前、やっぱりいいヤツだったんだな……(混同)。みゆきが通う学童保育の職員役で良一を叱り飛ばした橋本真実は、『アンナチュラル』で井浦新の殺害された恋人・夕希子を演じていた女優さん。元気でいてよかった……(錯乱)。
余談だが、ドラマの中で亜希子とみゆきが挑戦するアスレチックは最近、流行しているもので、実は筆者もつい先日、小学1年生の娘とやってきたところなのだが、高さ10メートルあまりのアスレチックで進退きわまり、恐怖のあまり泣き叫ぶ娘を励ましながら必死に最後までクリアすると、たしかに心の距離が縮まるような気がする。亜希子の狙いは悪くなかった。
しかし、リタイアした後、亜希子が良一に「みゆきちゃんが困っていることとかありませんか?」と聞くのだが、それって今じゃないのか? アスレチックに失敗して、おもらしして泣いている娘に寄り添ってやれば、それだけで心の距離は少し縮まるだろう。亜希子がまだ子どもの心がわかっていないことを表しているのか、脚本の齟齬なのかはわからない。
主演の綾瀬はるかは鉄壁の演技。
『義母と娘のブルース』の亜希子役もこうしたエキセントリックな役柄と地続きに見えるのだが、今後、亜希子がどうやって娘のみゆきと家族になっていくか、綾瀬はるかがどうやって“普通の人”に戻っていくのかが見どころになっていくだろう。綾瀬と長きにわたってタッグを組んできた脚本家・森下佳子の手腕にも注目だ。
(大山くまお)
【作品データ】
「義母と娘のブルース」
原作:桜沢鈴『義母と娘のブルース』
脚本:森下佳子
音楽:高見優、信澤宣明
演出:平川雄一朗、中前勇児
プロデュース:飯田和孝、中井芳彦、大形美佑葵
※各話、放送後にTVerにて配信