大河ドラマ「西郷どん」(原作:林真理子 脚本:中園ミホ/毎週日曜 NHK 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時) 
第40回「波乱の新政府」10月28日(日)放送 演出:大嶋慧介
「西郷どん」40話。西郷と大久保、おにぎりの友情

西郷どん 完結編 (NHK大河ドラマ・ガイド) NHK出版

「まさかあ 考え過ぎじゃ」「ですです」


ナレーション(西田敏行)が完全に菊次郎目線に。
「わたくし(菊次郎)は・・・」と言い出した。

新政府は武士の時代を終わりにしようとしていた。

西郷(鈴木亮平)は菊次郎(城桧吏)に、これからは武士も百姓も皆、同じ。島人も大和人の差もなくなる。勉強することが大事と説く。

大久保(瑛太)と岩倉具視(笑福亭鶴瓶)が天子さまの言葉(東京に上がることを命じる)をもって鹿児島にやってきたが、島津久光(青木崇高)は激しく咳き込み、体が良くないので役に立てないとのらくらして、岩倉を「仮病や!」と怒らせる。
岩倉は天子さまのことしか考えてない、わーわー騒いでばかりのへんな人にしか見えない。

なんかこういうちまちましたところばかり描いている。
新しくなったタイトルバックの自然の映像がまた美しくスケールが大きく見ていて気持ち良い。
「廃藩置県」の説明の映像も良かった。日本地図に各藩の家紋をぎっしり並べ、各藩の権利を奪って東京に集中するところを赤にしてそれが日の丸になる画像は、内容はともかく(東京に力を一極集中させること)、なめらかでセンスがいい。
付随する映像は素敵なのにドラマの内容は冴えない。なんだか地味。嫁たち(糸や満寿)がぬかみそを混ぜているところのように地味(これはこれでしっとりといい画なのだが)。


大久保に東京に呼ばれた満寿(美村里江)だが、東京にはお世話をする人がいるとわかっている。
「まさかあ 考え過ぎじゃ」
「ですです」と否定する糸(黒木華)たち。
 でもほんと。
大久保がもう薩摩に戻らないと覚悟を決めたこともわかっている。大久保はゆう(内田有紀)と子ども成していることが描かれた。それでも呼ぶのだ、正妻を。
男は。もし満寿が東京に行ったら、39話の糸と愛加那(二階堂ふみ)と同じようなことになるだろう。ゆうは愛加那よりも引かなそうなどとひと妄想。

聞き分けのいい人物は結局、大久保のためだけに存在している印象。これまでの大河ぽくないところを攻めるのだったら、いっそ、女性のこういう役割もうっちゃってしまってもいいのではないかと思うのだが。

塚地が良い


大河ドラマに世話物の魅力を持ち込む。言ってみれば、大河に朝ドラぽさ(庶民の生活描写を主としている)を持ち込む試みもあっていい。
なぜなら、朝ドラが大河(大きな事業を成したおんなの一代記)化しているから逆にしてもいいとは思う。

40話では熊吉(塚地武雅)がよかった。
西郷について東京にやって来てお世話をしている熊吉は、雨を見て「東京には島津雨が降らない」と言う。
「(薩摩では吉兆だったが)東京の雨はみょうに気が滅入りもす」と。
「LIFE!〜人生に捧げるコント〜」のメンバーについてDVDのブックレットでインタビューしたとき、内村光良がお芝居で笑わすことが多い番組と言っていたが、そういう要素の強い番組で役者に混じってしっかり演じている塚地だからこそ、ふつーな人がふつーの感覚で感じたことをなんとも説得力をもって語って、頼もしい。

初登場、長屋のおばちゃん・お房を演じる犬山イヌコもうまかった。
申し訳ないが近藤春菜のポジションも犬山くらいうまい俳優を配役するべきだったのではと思ったが、彼女だったから生々しくなく笑って見られたのかもしれない。

あと、しょっちゅう書いているが、久光の青木崇高が良い。一橋慶喜と並び、このドラマではただただ情けない役にされているが、いろいろ動きを工夫して、役を生き生きさせ、言動は情けないが憎めないところにまで自分でもっていってる。ちょっと歌うところなどもいい感じだった。どんな役でも自分でおもしろくする。その心意気を感じる。
立派である。

西郷と大久保


明治編でいちばん描きたいのは、西郷と大久保の関係であろう。
40話では、東京で、贅沢な食べ物や、お酒など、いろんなものを共にしながら、語り合う。
腹を切って訴えた横山安武(笠松将)の思いに応えたい西郷に対して、大久保は、異国になめられないようにするために、一等国に並ぶには一等国にならう。贅沢な食事や暮らしをするのはそのためという。
100年先の民の暮らしを考えてのことだと。
大久保は、木戸孝允(玉山鉄二)に助けを求める。木戸は西郷を条件に手を貸すことにする。
だが、西郷と大久保の考え方はなかなか交わらない。どちらも間違ってはいなくて、どちらの言い分もあって。ナットクするまで話し合おうとするふたり。
話し合いの終わった朝、西郷は大久保におにぎりを手渡す。
龍馬(小栗旬)の差し出したカステラを食べなかった西郷が、ここではおにぎりを自ら分かち合おうとするのだ。
こうして明治4年7月14日、廃藩置県が断行された。

いい話でまとめたが、なんだか盛り上がりに欠ける。やはり、一方の言い分を正義として書くことにためらいがあるのではないか。
(木俣冬)