演出・脚本:福田雄一で日本テレビ系「今日から俺は!!」(日曜22:30〜)第3話。
「今日から俺は!!」鈴木伸之が出てきて「ゲッ」ってなった、別世界の人だった3話
原作ワイド版10巻

原作「今日から俺は!!」は連載当時、ヤンキー漫画なのにヤンキーじゃない層にウケていたように思う。
同じ時期に連載されていた「CROWS」は本当にヤンチャな人、「今日から俺は!!」はそのヤンチャな人から被害を受けながら生きる今でいう陰キャ、もちろんどっちも読む人が多かったが、なんとなくファンの住み分けが出来ていた。

西森博之先生に対して大変失礼な話になるのだが、「『今日から俺は!!』が1番好き」と堂々と言うのは、「自分は陰キャです!」と認めてしまうような気恥ずかしさがあった。大好きなクセに「まぁまぁ面白いよね」というスタンスを作り、変にカッコつけてしまう。だが、思春期真っ只中のそんな自意識は、三橋や伊藤ちゃんや今井が持ち合わせているものなのだから、我々陰キャがハマるのは必然だったと思う。

そもそも三橋と伊藤は、転校デビューを華々しく飾ってしまっただけの元一般人。ケンカこそたまたま強かったが、根は普通の人だ。
そういった表現はないが、今井も本物のヤンキーではなく、ただ憧れてやってるだけだろう。もちろん谷川もそんな感じだ。

対して、開久高校は本物のヤンキー。どちらかというと「CROWS」寄りの人たち。友達との楽しいお喋りや女の子との恋愛なんかより、青春時代の1番上にケンカを持って来てしまった人たちだ。なので三橋たちは、開久に遭遇すると、「ゲッ」という顔をする。
「こっちはヤンキーごっこしてるんだから、本物のヤツらはくんじゃねー」ということだろう。

敵役の開久がこのドラマにおいての生命線


そんなわけで、第3話で本格的に登場した開久高校の面々、特にトップの相良(磯村勇斗)と智司(鈴木伸之)は、本作において異質の存在でなければならない。三橋(賀来賢人)、伊藤(伊藤健太郎)、今井(太賀)、谷川(矢本悠馬)の一般性を持つヤンキーに対して、絶対的な恐怖で居続けなければならないのだ。原作よりもギャグシーン多めでありながら、しっかりとヤンキー物であり続けるための最後の砦、生命線とも言える。こいつらが崩壊したら真面目にヤンキーやる奴らがいなくなってしまう。

そんな超大事な役に1人、相良を任された磯村勇斗はすごかった。強弱ハッキリしたアクションのキレもさることながら、ヘラヘラ嫌な笑みを浮かべるその表情は、完全に相良だった。
眉毛と唇がそれぞれ別の生き物のように自由に動く様は、最高に気味が悪かった。殴ったあとにいちいちその余裕の表情を見せつける仕草も、腹立たしくて仕方ない。みんな大好きなカワイイカワイイ今井が、後ろから角材で殴られてボコボコにされるシーンは、視聴者にとって不快でしかない。磯村勇斗は、作中一の悪人である相良で居続けてくれた。

「ゲッ」とさせてくれた鈴木伸之


卑怯な相良とは違い、強さのみで相手に恐怖を与える智司。演じた鈴木伸之もそんな智司だった。
しっかりと「ゲッ」とさせてくれた。恐ろしい表情を無理に作らず、人を怯えさせる怖いセリフは決して言わない。奇妙な動きで相手を威嚇もしない。ただ鈴木伸之は、足を肩幅程度に広げてまっすぐ立っていた。胸を張りまくってその場にドンと立っていた。緊迫したシーンにそぐわない普通の表情でいることで、ケンカという修羅場が日常であることを表現していた。
他のキャラが軽やかなアクションを見せる中、1人だけ大きく振りかぶった重い攻撃をする。どこまでも別世界の人でありつづけていた

そんな智司から逃げることで、三橋は覚悟の決まっていない中途半端なヤンキーだという立ち位置が明確になる。そして、仲間に被害が及びそうになったときにだけ本気になり、主人公らしい主人公になることが出来る。やっぱり智司は、原作よりもギャグシーン満載の「今日から俺は!!」に、ドラマ性を作るための生命線だ。

それにしても、緊迫した三橋と智司のタイマンシーン。「俺は三橋貴志だ。
俺よりエバった奴はたたきつぶす」という原作屈指の三橋の名言の直後に、ムロツヨシ(椋木先生役)というギャグ専門みたいなキャラクターを送り込むのだから福田監督は根性が座っている。もう一度開久とやりあうフラグはバリバリに立っているのだが、そのときのラストをどう締めるのだろうか。

(沢野奈津夫)

「今日から俺は!!」
日曜:22:30〜23:25(55分) 日テレ系
キャスト:賀来賢人、伊藤健太郎、清野菜名、橋本環奈、太賀、矢本悠馬、鈴木伸之、ムロツヨシなど
脚本:福田雄一
演出:福田雄一、鈴木勇馬
主題歌:今日俺バンド「男の勲章」