演出・脚本:福田雄一で日本テレビ系「今日から俺は!!」日曜22:30〜)第4話。

このドラマのキャストが発表されたとき、1番違和感を覚えたのは今井役の太賀だった。
今井は190cm越えの大男で、太賀は168cmとどちらかというと小柄だったからだ。190cmは無理だとしても、せめて180cmくらいある俳優を選んで欲しかったと、原作を知る人なら誰もが思ったハズだ。

演じ方のイメージもかなり違った。バカとはいえ、基本のテンションは高くない。しかし、太賀が演じた今井はテンションが高い。身長も動きもテンションもまるで違う。
なのに、太賀はとんでもなく今井だった。
「今日から俺は!!」原作と全然違う!なのに完璧に太賀はとんでもなく今井だった4話
原作12巻

思考回路が手に取るようにわかる今井


原作の今井は、身体こそデカイが普段から声がデカイという描写は特にない。なんなら、二枚目ぶってクールを装うバカだ。しかし太賀の声はデカイ。それほど声を張り上げる必要のない普通の登場シーンでも、「よぉぉぉー!三橋ぃー!!」とこっちが想像している声量を必ず超えてくる。これにより、意味も無く堂々とした今井、自分に自信を持った今井が表現される。バカのくせに胸を張っている様が、さらにバカっぽい。


ただこれでは、本当に声を張り上げなければいけないシーンでギャップが生まれない。低いところと高いところのメリハリがなくなるのだ。太賀もそういうシーンでは通常より大きい声を出しているが、ギャップは少ない。

だがそのぶん太賀は、ヨダレをまき散らし身体をジタバタさせる。ピンチに陥れば、恥も外聞もなく、必死に自分を取り繕う。クールでカッコイイ自分を守ろうとするあまり、余計にその姿は見苦しい。
太賀の人より下がる口角も、今井の情けなさを助長している。この姿が通常と違って一切堂々としていないため、声の張り上げ方が同じだとしても、落差が生まれる。心情の変化がわかりやすく、愚かな思考回路がむき出しになる。そして、思考回路がむき出しになった人間は、多少醜いくらいがかわいい。原作の今井も、考えていることが手に取るようにわかるところが魅力だ。

今井は頑張った


第4話は、そんな今井がメインの回。京子(橋本環奈)の友人・明美(若月佑美)に言い寄られ、恋をする恋愛回だ。


今話の今井のすごいところは、理子(清野菜名)を好きだったはずなのにあっさり鞍替えしたところ。にも関わらず、その恋がピュアに見えたところだ。チャライ男がこれをやったら視聴者に応援されることは間違いなくないが、モテない今井があっさり落ちてしまう描写は説得力があり、遊び人感が一切ない。ついこの間まで片思いをしていた理子の前で堂々と明美好きアピールをしても、全然イヤな感じがしない。理子の今井の幸せを願う態度も関係しているが、今井が喜んでいるのがハッキリと伝わってくるからイヤな感じがしないのだろう。

そんな女性慣れしてない今井は、明美にモテたくて見当違いの言動をとってしまう。
「強そう」と言われれば、この時代のお洒落デートスポットである喫茶店で腕相撲、さらには本物の相撲まで取ろうとしてしまう。恋に盲目になった今井は、三橋(賀来賢人)の妨害にも気付かない。缶をぶつけられても、マンホールを投げつけられても、明美しか見えない。毎日のように喫茶店でレモンスカッシュを頼み、青春を謳歌していた。

だが、明美が今井に近づいたのには裏があった。情けない彼氏(戸塚純貴)を悪い奴らから守るために今井を利用しようとしていたのだ。
全てを知った今井は、明美にも彼氏にもキレず、「俺みたいなヤツと遊んでくれてありがとう。素晴らしい青春の思い出が出来たよ。楽しかったぜ」と精一杯の見栄を張った。しかも、彼氏に近づく悪者をぶっ飛ばすという男気まで見せた。

後に「どうして俺のことを追いかけてくれなかったんだよ」「60%くらいあるんじゃねーかなって思ってた」と振り返っており、モテるための最後の悪あがきから来たセリフだということがわかる。しかし、この下心さえもピュア。ただただ彼女が欲しいだけ。フラっと舞い込んだ彼女が出来るというチャンスに、今井なりにしがみついた結果だった。“1人の女を愛する”みたいなカッコよさはないが、今井は頑張ったのだ。

それぞれの関係性


それ以外のキャラの関係性が明確になった回だと思う。まず、三橋と今井の関係性。今まで三橋が今井の上に立っていたように見えたが、今井に彼女が出来そうになると三橋は激しく嫉妬。簡単に関係性が覆った。今井の足を引っ張ってきたのは、ただ単に楽しいからではなく、無自覚に自分より今井を下に置いて精神バランスを保つためだった。つまり、三橋と今井は大して違わないのだ。

今井といつも一緒にいる谷川(矢本悠馬)の2人も、お互いへの思いを再確認した。今井の恋を応援していた谷川は、今井が離れてしまうことの寂しさを知り、今井はいつも待っていた谷川の有り難みに気付いた。ここの関係性が強まれば強まるほど、モテなくなってしまいそうなところがまた空しい。

理子と京子の関係もハッキリした。京子は伊藤(伊藤健太郎)が理子に浮気していると勘違いし、理子にタイマンを申し込む。1度手合わせをしたうえ、理子の父(佐藤二朗)のまずいパエリアを一緒に食べたことで、距離が縮まった。伊藤に確認することを恐れ、理子にケンカを売ってしまう京子の心の弱さも垣間見えた。

愛だのなんだの、そんな素晴らしいものは一切出てこない恋愛回。考えれば考えるほどキャラの行動は浅く、考えさせるものなどない。だが、それくらい薄っぺらい恋愛を高校生が演じることで、強い共感を与えている。

それにしても、明美のあの昭和のツッパリ感と情に流されてしまう弱い女の感じはリアルだった。

(沢野奈津夫)

「今日から俺は!!」
日曜:22:30〜23:25(55分) 日テレ系
キャスト:賀来賢人、伊藤健太郎、清野菜名、橋本環奈、太賀、矢本悠馬、鈴木伸之、ムロツヨシなど
脚本:福田雄一
演出:福田雄一、鈴木勇馬
主題歌:今日俺バンド「男の勲章」