現在、TBSの日曜劇場(夜9時〜)で放送中の「下町ロケット」に出てくる準天頂衛星「ヤタガラス」は、あきらかにこの「みちびき」をモデルとしている。劇中、そのヤタガラスを打ち上げる大型ロケットのエンジンのため、バルブシステムを帝国重工に提供するのが、佃航平(阿部寛)の経営する佃製作所だ。

極秘書類を読むときは鏡に気をつけろ!
第2話では、ヤタガラスの最後の打ち上げにあたり、佃製作所は新たなバルブシステムの開発を請け負い、完成させた。そして先週放送の第3話の冒頭では、帝国重工での最終燃焼試験もクリアする。
その一方で、佃はトランスミッションメーカーのギアゴーストの買収交渉を、先方の社長・伊丹(尾上菊之助)と副社長・島津(イモトアヤコ)とのあいだで進めていた。これまで描かれてきたように、ギアゴーストは外資系メーカーのケーマシナリーから特許侵害の申し立てを受け、15億円もの損害賠償を求められた。だが、同社の技術を高く買う佃は、支援のため買収に乗り出したのだ。ただし、買収が成立するまではこの話が外部に知られないよう、佃は顧問弁護士の神谷(恵俊彰)から釘を刺される。
しかし、いつのまにかこの件は各方面に漏れ伝わっていく。ギアゴーストの社内では、伊丹の不注意でうっかりこの件が知られてしまい(伊丹が買収関連の書類に目を通していたところ、その書面が彼の後ろの鏡に映っているのを社員が見てしまったのだ。って、そんなところに鏡を置くなよ!)、社員たちに動揺が走る。とくに柏田(馬場徹)という社員は、先の佃製作所との共同作業で衝突したこともあってか、この買収計画に強く反発した。
買収話はまた、訴えた側のケーマシナリーの知財部長の神田川(内場勝則)と弁護士の中川(池端慎之介)にも察知されてしまう。中川は前シリーズで佃製作所との訴訟でこてんぱんにやられているだけに、ひときわ闘争心を燃やす。それにしても、二人が出てきた場面で、彼らと向き合って座っていた後ろ姿の人物は、いったい何者なのか?
話はさらに、帝国重工にも知られるところとなり、佃製作所はまたしても難題に直面する。ギアゴーストの買収を問題視され、帝国重工の信用調査を受けることになったのだ。帝国重工としてみれば、取引先の佃製作所が莫大な損害賠償を請求された会社を買収すれば、共倒れとなる危険があり、自社にも影響が出るものと判断したのである。
考えてみれば、帝国重工もまた、買収の失敗が一因で大幅な赤字となり、社長の藤間(杉良太郎)が経営責任を問われている最中なのだから、ピリピリするのも当然といえば当然だ。現実にも、企業が買収先の問題により危機に陥るケースはけっして少なくない。たとえば、東芝が買収した米国原発大手のウェスチングハウス・エレクトリックの破綻から、経営危機に陥ったことは記憶に新しい。
さて、佃製作所に信用調査が入ると知った伊丹は、帝国重工の元社員として、取引き相手の中小企業が要求を飲まない場合は容赦なく切り捨てるというその企業体質を知るだけに(同じく元社員の島津と独立してギアゴーストを立ち上げたのも、それに嫌気が刺したため)、佃たちを心配する。だが、佃はけっしてひるまない。
泥だらけになっての田植えシーンになごむ
信用調査を前に、佃製作所の大番頭であるところの経理部長の殿村(立川談春)を中心に資料がそろえられる。
殿村は郷里(新潟県燕市)の父親が倒れて以来、週末には帰郷して家業である農作業に勤しんでいた。ちょうど田植えの時期とあって、佃は技術開発部の山崎(安田顕)・立花(竹内涼真)・加納(朝倉あき)とともに手伝いを申し出る。
息詰まる展開のあいまの田植えのシーンは、視聴者に対しても息抜きというか、緊張を緩和する役目を担っていたように思う。実際、不調になった田植え機を修理するとともに、手で苗を植えてみんな泥だらけになる姿にはなごまされた。同時に、直った田植え機の植える苗がしだいに左右にズレていくことに伊丹が気づき、その原因はトランスミッションにあると、あらためて自分たちのやるべきことを見出すという展開は、ちょっと往年の人気番組「プロジェクトX」を彷彿とさせた。と思ったら、このあとのBGMが、同番組のエンディングテーマだった中島みゆきの「ヘッドライト・テールライト」のカバー(歌うのは世界的な少年合唱団LIBERA)と、何ともできすぎである。
みんなで田植えを終えたその夜、佃たちは殿村を残して東京に戻る。殿村も翌朝、帰京する予定だったが、父が不調を訴え、急遽手術することになる。信用調査はやむをえず殿村不在のまま始まった。
イヤミな男の元ネタはピコ太郎?
この信用調査のため佃製作所に乗り込んできたのが、帝国重工の審査部の安本(古坂大魔王)である。この安本という男、とにかくイヤミな奴で、佃たちに対して事前のリストにはない資料(買収後の長期計画書)を要求するなどさんざんいやがらせをしたあげく、「バカばっかだなー」と言い出す始末。
古坂大魔王は安本を演じるのに、小道具のペンやファイルで机を叩くなどして威圧感をうまく表していた。その様子は、同じく日曜劇場の池井戸潤原作ドラマ「半沢直樹」で緋田康人演じる次長が机を叩いて相手を追い詰めていた(通称“机バンバン”)のを思い起こさせるとともに、盛んに身振り手振りする演技はどこか、古坂がプロデュースしたピコ太郎からの影響を感じさせた。
このあと、安本はついにしびれを切らし、予定された時間を前に調査を打ち切ると、佃製作所との契約は見直すと宣告、その場を立ち去ろうとする。
こうして、どうにかまた一つ危機を乗り切った佃製作所。しかし、ギアゴーストとの買収の情報は一体どこから漏れたのか。不穏な空気を残しながら、今夜放送の第3話に続く。
福澤朗演じる部長の小物ぶり感がハンパない
今回の信用調査も、先の佃製作所とギアゴースト共同でのケーマシナリー製品の特許侵害探しも、池井戸潤の原作小説にはないドラマオリジナルのエピソードである。いずれも佃製作所の社内およびギアゴーストとの結束を強調するため、効果を発揮していたといえる。ついでにいえば、田植えのシーンも原作にはない。登場人物を泥だらけにすることで、原作以上に地に足のついた感じが出ていた。
第3話では、フリーアナウンサーの福澤朗演じる帝国重工の機械事業部製造部長の奥沢も本格的に登場し、次期社長候補の的場(神田正輝)にやたらペコペコして取り入ろうとする小物ぶりが印象に残った(ちなみに福澤は、学生時代にある劇団の研究生だった経歴を持つ)。
なお、気になる情報漏洩は、これまた原作では意外な人物が行なっていたことがのちのち判明するのだが、このあたりはどうなるのだろうか。予告編でほのめかされていた殿村の退職話とあわせて、今夜の放送も見逃せない。
(近藤正高)
※「下町ロケット」はTVerで最新回、Paraviにて全話を配信中
【原作】池井戸潤『下町ロケット ゴースト』(小学館)
【脚本】丑尾健太郎
【音楽】服部隆之
【ナレーション】松平定知
【プロデューサー】伊與田英徳、峠田浩
【演出】福澤克雄、田中健太
【製作著作】TBS