NHK総合のドラマ10「昭和元禄落語心中」(金曜よる10時〜)先週放送の第6話は、菊比古(のちの8代目有楽亭八雲。岡田将生)が、同門で親友の助六(山崎育三郎)と数年ぶりの再会を果たしてから、同回のサブタイトルとなった“心中”までを一気に描いた。

真っ逆さまに「昭和元禄落語心中」ついに描かれた心中の真相6話。今夜から竜星涼が再登場
NHK総合でスタートしたドラマ「昭和元禄落語心中」。第6話は、単行本4巻の終わりから5巻の初めまでのストーリーをもとにしていた

「野ざらし」共演で再び打ち解ける菊比古と助六


これまで描かれてきたように、助六は師匠の7代目八雲(平田満)に破門されたあと、芸者のみよ吉(大政絢)と彼女の故郷である四国の片田舎に駆け落ちし、小夏(子役・庄野凛)という一人娘を儲けていた。すでに落語界のホープとなっていた菊比古は尋ねまわった末に、ついに助六を見つけ出す。これが第5話のラストでのこと。

菊比古がここまでやって来たのは、助六に東京へ戻って再び落語をやるよう説得するためだった。助六はそれを頑なに拒むも、菊比古から、落語界でも客のためでもなく、自分のために落語をやってほしいと言われて心が揺れる。

助六を落語家に復帰させるため、菊比古はさまざまな手を打つ。借金を肩代わりし、東京までの電車賃をつくるため、旅館の風呂掃除の仕事もさせた。菊比古自身も、お座敷などで落語を披露する。そのうちに旅館の主人から大広間で落語会をやってほしいと頼まれた。助六に久々に落語をやってもらうにはうってつけの機会だ。

菊比古は助六の一人娘の小夏とも、落語を通じて関係を深めていく。彼女のリクエストに応えて「野ざらし」を演じていると、そこへ助六も加わる。助六が嬉々として歌い出したかと思えば、いつしか菊比古が女役、助六が男役と分担して噺をやることに。
二人の息はぴったり合い、離れ離れになっていた歳月を忘れるほど打ち解けていた。そういえば、第3話で、雪の降るなか、若き日の菊比古と助六が身を寄せ合いながら別々の噺を語るシーンがあったが、一緒に「野ざらし」を演じるシーンはその再現であり、あのころのようにまた戻りたいという二人の思いを表していたともいえる。

劇中では、菊比古と助六が小夏を挟んで三人手をつなぎながら田んぼのあぜ道を歩くカットも出てきた。こうなると小夏は助六と誰の子なんだと言いたくなるが、彼女の母親は先述のとおりみよ吉だ。みよ吉は、働かない助六に愛想を尽かして家を出たきり、しばらく帰ってこなかった。菊比古はちょうどそんな時期にやって来たのだった。

そんなある日、助六の前に久々にみよ吉が現れると、稼いだカネを渡す。助六は自分も働き始めたことは伝えるが、菊比古が来たことは隠した。元はといえば、みよ吉は菊比古のことが好きだったのだから当然だろう。しかしやがて彼女は、助六が菊比古と落語会を開くことを知ってしまう。

親友の心中から「落語心中」へ


落語会当日、なおも出演を渋る助六を、東京から駆けつけた7代目八雲の付き人・松田(篠井英介)がなだめる。彼の出番を前に、菊比古が得意の廓噺「明烏」を演じていた。
菊比古は客席をしっかり温めて高座を下りると、助六に師匠の形見の羽織を着せて、高座へと送り出す。このとき助六が演じたのは、彼には珍しい人情噺「芝浜」だった。だらしのない魚屋が、芝の浜で大金の入った財布を拾い、浮かれて酒を飲んで寝てしまう。しかし翌朝、妻から財布を拾ったのは夢だったと諭され、以来3年間、彼は人が変わったように商売に精を出す。その姿はまさに助六とも重なり合い、噺に実感がこもっていた。

落語会は成功に終わり、助六復帰の道も開けたかと思われた。終演後、菊比古はあらためて助六に、東京で小夏とみよ吉も一緒に、みんなで暮らそうと切り出す。が、その直後、悲劇は起こった。

落語会をずっと見ていたみよ吉は、菊比古をひとり旅館の一室に呼び出した。再会を果たすやいなや、焼けぼっくいに火がつき、熱い口づけを交わす二人(これがNHKらしからぬほど濃密だった)。さらに窓際まで行って抱擁していると、ふいに彼女が、窓に流れる川を見ながら「落ちたら大変ね」「一緒に死んじゃおうか」と言い出す。そこへ助六があわてて入ってきた。


助六は、落語をやめてまっとうに働くと、涙ながらにみよ吉に約束するとともに、菊比古にも、きょうの「芝浜」はおまえがいなかったらできなかった、もうこれで十分だと頭を下げた。これに対し、みよ吉は「何でそんなこと言うの!」と叫んだ瞬間、手をかけていた柵が外れ、窓の下へと崩れ落ちる。それを追って助六も窓から飛び出した。そうして彼女を抱きかかえた助六の襟を、菊比古がどうにかつかんで落ちないよう引き留めるのだが、助六は放せと言って聞かない。やがて「こいつひとり地獄にゃ落とせねえ!」と、自ら菊比古の手を放させると、そのままみよ吉と真っ逆さまに川へ落ちて行ったのだった。助六を放したあと、真っ赤になった菊比古の右手のアップが物悲しく映し出される。

助六とみよ吉の“心中”後、小夏は菊比古が引き取ることになった。しかし、両親が死んだのは、そもそも菊比古が来たからだと思いこんだ彼女は、幼いながらも復讐心を胸に抱く。その菊比古は、協会の会長(辻萬長)から懇願され、本来は助六が襲名するべきだと考えていた八雲の名を引き継ぐ覚悟を決めた。衰退の一途をたどる落語界の命脈を保つためにも、それは避けられないことだった。助六を失った以上、菊比古は一人で落語と心中する道を選ばざるをえなかったということだろう。

こうして噺は、菊比古=8代目八雲の昔語りから、第1話で描かれた昭和50年代へとつながっていく。
今夜放送の第7話では、8代目八雲の弟子の与太郎(竜星涼)が再登場、ここへ来て寂しくなったドラマをあらためてにぎやかにしてくれそうだ。
(近藤正高)

※「昭和元禄落語心中」はNHKオンデマンドで配信中
【原作】雲田はるこ『昭和元禄落語心中』(講談社)
【脚本】羽原大介
【音楽】松村崇継
【主題歌】ゆず「マボロシ」
【落語監修】柳家喬太郎(ドラマ中にも木村屋彦兵衛役で出演)
【落語指導】柳亭左龍
【出演】岡田将生、山崎育三郎、竜星涼、成海璃子、大政絢、川久保拓司、篠井英介、酒井美紀、平田満ほか
【制作統括】藤尾隆(テレパック)、小林大児(NHKエンタープライズ)、出水有三(NHK)
【演出】タナダユキ、清弘誠、小林達夫
【制作】NHKエンタープライズ
【制作・著作】NHK テレパック
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