11月23日に『大恋愛〜僕を忘れる君と』(TBS系)の第7話が放送された。

同じ病気なのに尚と公平には落差がある


前回から登場した、MCI患者の松尾公平(小池徹平)。彼については、存在自体に賛否がある。
このドラマに公平という男は果たして必要なのか?
少なくとも、アルツハイマー病患者の心境を描く上では重要な存在だ。

間宮尚(戸田恵梨香)に会うため、用もないのに病院へ入り浸る公平。主治医の井原侑市(松岡昌宏)から尚と距離を取るよう促されても聞く耳を持たず、去り際にゲップを吐く態度。公平の精神状態を表している。人のことなどお構いなし。

間宮真司(ムロツヨシ)への挑発は度を超えていた。

「僕はもう、失うものは何もないから。何をされても平気なんだ。だってどうせ、み〜んな忘れてなくなっちゃうんだから。あるのは今だけ」

侑市を相手に、公平は今の気持ちを開けっぴろげに明かした。
「僕なんか早くいなくなったほうがいいんです。奥さんだって逃げていったんですから(笑)」

尚が卒倒した講演中のハウリングは、やはり公平の仕業だった。
この悪意ある行動について、侑市はアルツハイマー病の症状によるものではないとはっきり断言している。

確かに、病気の症状が引き起こしたものではない。でも、全く無関係とは言えない。公平は絶望している。記憶を失い、支えてくれる家族はいない。仕事も失いかけだ。
夫や母がいる尚とは明らかに違う。同じ病気なのに、自分と比べて尚は恵まれ過ぎている。尚と公平の落差は、本当にエグい。
周囲の人と共に病に立ち向かおうとしている尚。孤独に飲み込まれ、絶望の淵にいる公平。同じ病気なのに、向いている方向は正反対だ。
隣に誰かがいるだけで、こうも違うのか。ケロッと「殺されてもいい」と口にするほど後ろ向きな公平は、尚を羨み妬んだ。絶望ゆえの悪意。何も失うものがない公平と、大切なものを奪われようとしている尚の対比。

最後まで、公平は希望を見つけられないのだろうか? それは、あまりに救いが無さ過ぎると思うのだ。
「大恋愛」絶望から生まれた小池徹平の悪意。希望に向かって出産を選んだ戸田恵梨香、ムロツヨシの涙7話
イラスト/Morimori no moRi

“記憶をなくす者”と“忘れ去られていく者”のコントラストが鮮明に


今回、尚の病状は急激に進行した。
講演で気を失った尚は、目を覚ましてからすぐに真司の名前を呼んだ。
「そう。俺、真司(笑)!」
名前を呼んでくれるだけで嬉しい。

でも、忘れたことも尚には多い。「子どもを産みたい」と侑市に相談したこと。編集者の名前。
あんなに大好きだった黒酢はちみつドリンクのことさえ忘れかけていた。2人の会話を見ていると、ヒヤヒヤする。口を開くたびに「忘れたかな……?」と恐る恐るの真司。答えに窮すたびに「忘れたのかも……」と表情が固まる尚。

尚は、かつて真司と住んでいたアパートのことも忘れていた。月光荘を覚えていないということは、ここで過ごした日々も忘れているということ。“記憶をなくす者”と“忘れ去られていく者”のコントラストが、遂に鮮明になってしまった。

でも、居酒屋のことは覚えていた。店長と店員のやり取りをアテレコしながら、尚は真司に気持ちを伝えた。「ごめんね、面倒な病気にかかっちゃって」「迷惑かけると思うけど、一生懸命生きるからよろしくお願いします」。尚は、この日のこともきっと忘れてしまうだろう。
「忘れていいよ。大したことじゃないから」(真司)
忘れ去られていく者の優しさが「忘れていい」という言葉に集約されている。隣に誰かがいれば、記憶は消えても希望は消えない。

次回以降、このドラマは観ていてドンドン辛くなっていくはずだ。もう、何を忘れてしまったかを心配する段階は終わった。何を覚えているかを見つけることで安堵する2人になる。

真司は、耐え切れなくなっている。自分よりも尚のほうが辛いはずなのに、尚の前で何度も泣いてしまった。そんな真司を見た尚は「記録がほしい」と出産を望んだ。記録を残したい尚と、1人では抱えきれなくなっている真司。2人にとって新しい命は希望だ。絶望しない。大恋愛は希望の種。最悪な日に、最高の未来を見るための決断を2人はした。
(寺西ジャジューカ)

金曜ドラマ『大恋愛〜僕を忘れる君と』
脚本:大石静
音楽:河野伸
主題歌:back number「オールドファッション」
プロデューサー:宮崎真佐子、佐藤敦司
演出:金子文紀、岡本伸吾、棚澤孝義
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
※各話、放送後にParaviにて配信中